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2010年3月14日 (日)

続:「新版 生命保険入門」-保険金不払い問題

以前、「新版 生命保険入門」についてのコメントをいくつかtwitterでつぶやいたところ、著者の出口氏(@p_hal)からお誘いをいただいて、ライフネット生命にお伺いしていろいろと話をさせていただいた。

前回のエントリに少し書いたことも含めて全部で20点ほどの意見や感想を述べた。出口氏のほうが詳細な内容をご存知でそれらを踏まえて書かれており「参りました」というものもあったが、第8章の保険金不払い問題(161ページ~)については触れておかねばなるまい。

「新版 生命保険入門」に書かれている保険金不払いに関する内容は、平成20年7月3日に金融庁から公表された「生命保険会社の保険金等の支払状況に係る実態把握の結果について」に沿ったものである。これは本書にもそう書かれているし、出口氏ご本人も「そのまま書いた」と言っておられた。

しかし、ここで大きく抜けている部分がある。故意による不払いである。

行政処分事例集からは、いわゆる不払いに係る行政処分が、2005年2月の明治安田生命の業務停止命令に始まることが分かる。以下、生保に関しては次のように行政処分が続く。

  • 2005年2月 明治安田生命(業務停止命令)
  • 2005年10月 明治安田生命(業務停止命令)
  • 2006年7月 日本生命(業務改善命令)
  • 2008年7月 日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命、朝日生命、富国生命、三井生命、大同生命、アメリカンファミリー、アリコジャパン(業務改善命令)

さて、「新版 生命保険入門」が依っている金融庁の報告「生命保険会社の保険金等の支払状況に係る実態把握の結果について」は、2007年2月に金融庁が生保全社に求めた支払状況の報告である。それ以前に、2005年2月の明治安田生命に対する業務停止命令を受け、2005年7月にも金融庁は生保全社に不払い事案の検証を要請している。

上記の行政処分にこれらの公表を追加して、時系列的に書き直すと次のとおりだ。

  • 2005年2月 明治安田生命に業務停止命令
  • 2005年7月 金融庁が生保全社に不払い事案の検証要請(※1)
  • 2005年10月 再検証結果(※1)の公表、明治安田生命に業務停止命令
  • 2006年7月 日本生命に業務改善命令
  • 2007年2月 金融庁が生保全社に支払い状況の報告命令(※2)
  • 2008年7月 支払い状況の報告書(※2)の公表、生保10社に業務改善命令

つまり、「新版 生命保険入門」は※2の調査についてのみ記されており、※1については言及がない。そのため、同書の中での保険金不払いの3つの類型は、※1によるものが含まれていない。

※1と明治安田生命への2度目の業務停止命令が同時である以上、※1によって判明した「何か」があると考えるのが自然だろう。そして、他の生保には※2の報告タイミングも含めて業務停止命令が下されていないことを考えると、※1で判明した事象は※2より悪質なものであったと考えられる。

それが何であったか、※1の結果公表に明確に書いている。

不適切な不払の発生原因について、不払事由区分を組み合わせて分析したところ、明治安田生命と38社では、内容面でも以下のような相違があることが認められた(資料3参照)。
・明治安田生命     :     詐欺無効の不適切な適用や約款等に基づく不払事由を拡大解釈して適用するなど、意図性に基づくもの
・38社合計     :     事実関係の調査確認不十分、事務的な確認不十分によるものが中心

意図性に基づくもの、つまり「故意」である。

「新版 生命保険入門」ではここがすっ飛ばされているため、不払い事案が以下の3つに類別されている。いずれも過失に属するものである。

  1. 保険金等の支払漏れ
  2. 保険金等の請求案内漏れ
  3. 失効返戻金の案内不足等

これらに「意図的な不払い」を追加すべきである。

「意図的な不払い」は糾弾されてよい。それは違法行為だ。しかし、過失は糾弾したところでゼロにはできない。何でもかんでも一括りに「不払い」として保険会社を叩いたところで有益ではないと私は思っている。むしろ、「不払いをゼロにします」などと実現不可能なことを言い出すと、組織やシステムに歪みを生じる。それが懸念される。

追記

別に保険金不払いを批判することが的外れだというわけではない。今回の不払い問題では、保険金をきちんと支払う努力が保険会社側に不十分だったという、いわば「懈怠」に属するものが含まれる。それらへの対応が行われるようになったことは評価できる。ただ、完璧を要求してそれ以外を認めないのは危険である。鉄道会社が定時運行を絶対視して大事故を起こしてしまったように。

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