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2010年7月

2010年7月18日 (日)

年金受給権の税務取扱いに関する最高裁判決の続き

年金受給権の税務取扱いに関して二重課税と認められた件を受けて、いろいろと動きが出ている。

まず、国税庁からコメントが出た。

国税庁においては、上記の方針を踏まえ、これまでの法令解釈を変更し、これにより所得税額が納めすぎとなっている方の過去5年分の所得税については、更正の請求を経て、減額更正を行い、お返しすることとなります。現在、判決に基づき、課税の対象とならない部分の算定方法などの検討を進めていますので、具体的な対応方法については、対応方法が確定しだい、国税庁ホームページや税務署の窓口などにおいて、適切に広報・周知を図っていくこととしています。
また、過去5年分を超える納税分については、上記の方針に基づいた対応策が決まりしだい、適切に対処します。

(上記太字は引用者)記載のとおり、まだ決まっていないことがある。前回のエントリでも述べたとおり、年金を受け取るときにまったく所得税がかからないわけではないと思われるからだ。

ところが、ちょっと妙なことになっているのが、生命保険協会の対応に関する記事だ。

生保が還付するかのような記事になってしまっている。しかも年内。まっとうな見出しなのは朝日新聞とNHKぐらいか。

こういうときはソースにあたるに限る。生命保険協会の正式なコメントを見てみよう。

課税取扱が変更されれば、生命保険会社で取り扱っている同種の商品に加入し、年金をお受け取りになっているお客さまについて、税金が還付される可能性があると考えられます。(ただし、課税取扱が変更されるまでは、現行と同様の取扱になることをお含みおきください。)
生命保険協会といたしましては、今後、税務当局宛に課税取扱について確認し、お客さまの立場に立って適切な対応を検討してまいります。

これなら国税庁が言っていることと何の齟齬もない。残念ながら生命保険協会長がどういう文脈で「年内」と言ったのか、会見内容がよく分からない。上記のテレビ朝日の報道の中では

Q. …年末までにはかからない?
A. 前提条件にもよって違うでしょうし、遡及のあり方によっても違うので断言はできませんけれども、努力目標としては、そういうことになると思います

というやり取りが聞けたが、QとAの間の映像が飛んでいるので、この通りのやり取りではなさそうだ。

そもそも、年金に課されている所得税は雑所得であり、他の所得と合算しないと所得税の額は決まらない。顧客がいくら所得税を払ったのかが生命保険会社に分からないのだから、いくら還付されるのかも分かるわけがない。

わけの分からない報道で加入者や年金受取人の方々、そして生命保険会社の事務に携わる方々が混乱しないよう願うのみである。

2010年7月11日 (日)

口蹄疫に関する生命保険会社の対応

気づいたのでメモ。

地震などの災害時にはたいていの生命保険会社が、被災者向けの特別取扱いというのをやる。次のようなものだ。

(1) 保険料の払込猶予

多くの保険は、保険料の払い込みが2ヶ月程度遅れると契約が失効する。ただし災害時には保険料を払い込む余裕がないと思われるので、猶予期間を長くしますよ、というもの。どこの生命保険会社も「6ヶ月まで延長」となっていると思う。

(2) 保険金の簡易支払い

保険金や給付金の請求にはいろいろな書類が必要になる。地震などの災害時にはそれらの書類が散逸していたりする可能性があるので、全部の書類が揃っていなくても支払いをしますよ、というもの。

(3) 契約者貸付の簡易対応

貯蓄性の生命保険や年金の場合、保険を担保に生命保険会社から金を借りられる。借金なので借りるときにいろいろな書類が必要になるのだが、(2)と同様、そのときの必要書類を一部省略できますよ、というもの。

各社のホームページを見てみたら、宮崎県の口蹄疫に関連して、上記の特別対応をしている生命保険会社が5社あった。口蹄疫に関しては書類の散逸などの可能性がないので、上記対応のうち一部のみとしている会社もある。また、販売している商品の性質によっても、上記対応のうち一部のみとなる可能性がある。

各社のトップページだけ見たので、他にもやっている会社があるかもしれない。

災害救助法が適用されればどこの生命保険会社もやると思うのだが、農林水産大臣が「県に責任がある」とほざいているとされる状況では、当然ながら国レベルの対応はなされていないだろう。そんな中で自社の判断でこういうことができる会社が、顧客の視点に立った臨機応変な対応と言えるのではないか。

2010年7月 7日 (水)

年金受給権の税務取扱いに関する最高裁判決

おことわり:このエントリは、判決を受けて書いたものなので、実際の税務取扱いがどのようになるかは法令や通達の変更を見ないと分かりません。したがって、このエントリは実際の税務の取扱いを表すものではありません。

最高裁で国が敗訴というのは、やはり結構なニュースバリューがあると思われるようだ。

「年金型」生命保険金、所得税は二重課税(2010年7月6日 読売新聞)

収入保障保険というのがある。定期保険のバリエーションで、被保険者が死亡したときの死亡保険金が年金の形で支払われるというものだ。今回争われたのは、それが特約のになったもの。「生活保障特約」という名前がついている。

この保険、死亡したときに相続財産として課税対象となる。加えて、毎年の年金受取時に所得税がかかる。これが二重課税ではないか、というのが今回の訴訟であり、結論は「二重課税で違法」ということになった。

この判決を「ガメツい国税庁が独自の解釈で誤った税務解釈を適用して税金をぶん取ってきた」とする解説もあったりするが、ことはあまり自明ではない。実際、今回の訴訟は、一審で国が敗訴、二審で国が勝訴ときて、最高裁で国が再び敗訴した格好になっている。「誤った税務解釈」が明らかなら、こんなに二転三転しない。

ともかく、最高裁の結論はこうなっている。

  1. 相続時の年金受給権の評価額は、将来受け取る年金の相続時点の経済的価値と同一である。
  2. 将来受け取る年金の相続時点の経済的価値は、所得税の課税対象とならない。
  3. 年金を支払うときに保険会社が年金から所得税を源泉徴収する実務は妥当である。

普通に読んだら、最後の3.が意味不明だろう。「二重課税が否定されたから、相続税がかかった後は所得税はかからないんじゃないのか?」

ところが最高裁判決を見る限り、所得税は非課税にはならなさそうに思える。

上記の1.と2.はあくまでも相続時点の評価について言っている。年金として受け取るのは、相続より後の話だ。そこに一定のタイムラグがあるからには、タイムラグ分の運用収益が発生していてもおかしくないので、その部分には所得税がかかる。実際、収入保障保険では、年金受取をするよりも一括受取をするほうが、受取金額が小さくなってしまう。

アクチュアリー記号で書くと、死亡からn年後の年金受取額を1としたときには、死亡時(相続時点)の年金評価額はvnであって1より小さい。最高裁の言っているのは「vnに所得税をかけるな」ということにすぎないので、(1-vn)の部分には課税されると考えるべきだ。そして3.によると、その金額は源泉徴収されるので、差額は還付申告をしないと戻ってこない、ということになる。

今回の件は生命保険会社が何らかの支払いをするわけではないが、職員や代理店の教育、パンフや帳票や「ご契約のしおり」の変更などなど、実務的にはいろいろと大変だろう。

それにしても、原審からの判決文がすべてネットで(しかも最高裁判決に至っては判決当日に)入手できるとは、便利な世の中になったものだ&裁判所もいいサービスをしてくれる。せっかくなのでリンクを張っておく。

追記

ニッセイ基礎研究所の小林上席主任研究員がこの件について書かれている。

年金払い型死亡保障保険課税の最高裁判決

ここでは顧客・生保会社への影響として「いったん相続税が課税された後に支払われる年金についての課税の廃止」とされており、所得税が非課税になるかのように読める。やはり判決のレベルではどのように税務実務が変更になるかは完全に明らかではないので、注意が必要なようだ。

2010年7月 4日 (日)

保険会社の運用上限撤廃

昨日(7月3日)の日経新聞に保険会社の資産運用規制の撤廃が記事として載ったらしい。(ウェブ上でも記事はあるのだが、個別記事へのリンクすると損害賠償を請求されるかもしれないのでリンクしない。)

保険会社の資産運用規制は保険業法施行規則第48条に定められたもので、国内株式3割・外貨建資産3割・不動産2割が上限であることから、「3・3・2規制」とも言われる。

これに加え、1企業(または1企業グループ)に対して突っ込むことができる運用資産にも上限がかかっている(保険業法施行規則第48条の3)。これを「同一人規制」と言う。例えば貸付金の同一人規制は3%なので、総資産(正確には一般勘定資産)が1兆円の保険会社が、ある株式会社Xに貸しつけていい金額は300億円まで、ということである。

余談になるが株式について同一人規制はない。ただし、保険会社が子会社にしていい業種は決まっている(保険業法第106条)ので、特定企業の株を買い過ぎるとこちらに引っかかる。

日経の記事は同一人規制については言及していない。「国外でのM&A(合併・買収)にかかわる規制もなくす」と書いてあるのだが、これがそのことだろうか?

話を戻す。3・3・2規制の撤廃によって、保険会社の運用が大きく変わるだろうか。私はあまり変わらないだろうと思っている。

保険会社(特に生命保険会社)は負債がきわめて長いため、ALM的には超長期の債券を充てるのが金利リスクを減らすには最もよい。ところが、30年や40年といった債券は発行量が少ないので、多くの生命保険会社は望むようには金利リスクを減らせていないはずである。金利リスクが残っているということは、他のリスクを積極的に取る状況にはないということだ。

加えて、2011年度末からソルベンシー・マージン基準が厳格化される。株式も不動産も、リスク係数は現行の2倍になる。少なくとも他社の数値の状況を見てからでないと、ソルベンシー・マージン比率が下がると分かっている運用にガンガン進む会社はないだろう。

ただそうは言っても思わぬ動きがあるかもしれない。来年の通常国会に法案提出の方針とのことなので、要注目ではある。

2010年7月 3日 (土)

「リクルート事件・江副浩正の真実」

李下に冠を正さず、という。

その点においては、江副氏は冠をいじるどころか、李下でピョンピョン跳ねていたようなものだったのかもしれない。本書の中で当人も政治献金をやりすぎだったと反省している。

結論として、江副氏は有罪になった。贈収賄において請託の有無の判断は難しいと思うし、この本はあくまでも江副氏の(一方的な)意見に過ぎない。なので、「江副氏が本当に李下で何をしていたか」は、この本の主題ではない。本書の「あとがきのあとがき」には、こうある。

日本の司法制度は、諸外国でも稀な密室での取調べによる検事作成の調書に重きを置き、調書の中の有罪になる部分のみが開示される。その結果、有罪率は九九・八%前後に達する。裁判員制度を導入してもこうした状況が変わらなければ公正な裁判にはならない、との思いが私には強い。現行の司法制度を改めてもらいたいという気持ちを私は抱いている。

そう。本書にも詳細に書かれているが、外部からの情報を断たれた(というより検事が一方的に提供する情報しか得られない)中で、自分の言うことを聞いてくれる人間が誰もいない。こうなると、話を聞いてくれる誰かに救いを求めたくなる。調書は内容を争わずにサインして、裁判で真実を聞いてもらおう、と思うようになる。これはNHKの「爆笑問題のニッポンの教養」で、法心理学者の高木教授(青山学院大学)が言っておられたのと同じだ。

リクルート事件と呼ばれるものが最初に報道されたのは1988年。22年前の話である。単なる昔の事件であれば、さほど興味は湧かなかっただろう。ただ、元厚生労働省局長の村木厚子氏の郵便不正事件における検察(特捜ではないが)のストーリー作りの無理矢理さが取り沙汰される今、この本は大いに意味のあるものになっていると思う。

郵便不正事件によって少なくとも20年以上はこの状況がまったく変わっていないことが明らかになったわけだが、とても残念なことに、取調べの可視化に後ろ向きな腰抜け法務大臣を見るたびに、この国の司法制度のお世話になってはいけないと思わざるを得ないのだ。

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