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2011年7月11日 (月)

解約返戻金は給付か

生命保険の解約返戻金が給付かそうでないか、というのは、アクチュアリーの間では長らく議論となっている。アクチュアリージャーナル第76号に、昨年の年次大会でのパネルディスカッション「解約返戻金」の模様が収録されているが、その中でこのような意見がある。

法律家の頭の中には、やはり個人の持ち分といいますか、個々の契約単位の価額というものが存在していて、そこから何か引いたものを返しているのであろうということがあるのと思います。

一方でアクチュアリーの中では、特に世代が若ければ若いほど「解約返戻金は給付」という意見が多いように思う。

歴史的には、生命保険の解約返戻金は「責任準備金-解約控除」という算式でずっと計算されていた。これは責任準備金を過去法的に「個人の持ち分」と解釈すれば、まさに上記の法律家の発想に沿うものだ。

これに対し、低解約返戻金や無解約返戻金といった多様な解約返戻金水準(保険事故発生時の給付が同じであるにも関わらず!)が存在する現状を見れば、解約返戻金も契約者とどのような水準を約定するかによって決まるもの、つまり「給付」の一種である、という発想が自然であると考えるのも納得できる。

ただ、私自身の意見としては、やはり「給付ではない」と思う。

給付かそうでないかを考える端緒として、「算出方法書に記載されるかどうか」を考えてみたい。

算出方法書というのは、保険料や責任準備金など、保険に関する数理的な諸事項をどのように計算するかを記載した書類である。保険業法施行規則第10条にその記載内容が列挙されており、第3号に

返戻金の額その他の被保険者のために積み立てるべき額を基礎として計算した金額(以下「契約者価額」という。)の計算の方法及びその基礎に関する事項

というのがある。このため、解約返戻金の水準は算出方法書に記載される。

一方で、例えば「保険金に関する事項」といったものは、算出方法書の記載事項を定めた項目の中には存在しない。保険金の額は契約者との間で決めるもので、数理的に自然に決まるものではないからだ。(ときどき、保険料を先に決めて、それに対応する保険金の額が決まるような商品があるが、それは例外的。)

つまり算出方法書は「保険金の額を決めたときに、保険料・責任準備金・解約返戻金その他をどのように決めるか」を定めていることになる。契約者と解約返戻金を約定することは考えていないのだ。

この論は、算出方法書という法令上の書類を基礎にしているので、「給付ではない」という法律家の発想に沿ったものになるのはある意味当然かもしれない。

しかし、他の金融商品との比較で言っても、解約したときに受け取る金額が契約すべき事項に含まれている、という考え方はどうにも違和感を覚えるのだ。「その時点での金融商品の価格-諸手数料」というのが自然ではないだろうか。

給付でないとすれば、ある程度自然に決まるべき「水準」がある。あるいは、保険会社の勝手に定めることができないような「規律」が必要となる。米国にはまさにそういった解約返戻金に関する規律として、標準不没収価格法という法律がある。保険法で解約返戻金の水準に関する規律を導入する試みは、まさに日本版不没収価格を規定するものだったのだろう。しかし、結果としては次のとおりとなった。

保険商品の多様化に伴い、解約返戻金の算出方法も多種あり、一律の契約ルールを定めることが困難であるという技術的な観点から、規律化を断念した。
(有斐閣「保険法解説」p713)

さてこのような多様性は、無法地帯の証なのだろうか、自由な世界の証なのだろうか。

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