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2011年10月10日 (月)

書評:トリプルA 小説 格付会社

この小説の主人公は3人いる。和協銀行から格付会社に転じた乾慎介、格付会社マーシャルズのアナリストの水野良子、日比谷生命の格付担当、沢野寛司。

と、名前を挙げてお気付きのとおり、モデルになった会社がすぐ分かる。和協銀行は協和銀行、日比谷生命は第一生命、マーシャルズはムーディーズ。他の会社名もすぐ分かるものがほとんどで、実名の会社も数多く出てくる。フィクションではあるが、時代の流れは事実に沿っている。

格付けの本質は、次の内容に現れている。乾が和協銀行から格付会社に転職しようとするときの、格付会社に勤める堀川との面接での会話だ。

「いいか、投資家は少しでも多く金利を払って欲しい。発行体とアレンジャーは、少しでも払いたくない」
「はい」
「となると、発行体とアレンジャーは、果たして何をするだろうか?」
質問というより、自問するような口調だった。
乾が答えをひねり出す前に、堀川は、自分から口を開いた。
「彼らが考えることは二つ。複雑な金融技術を用いて、投資家を判断不能にすること。もう一つは、リスクとリターンの関係をカモフラージュすること。……発行体とアレンジャーは、常にこの二つの誘惑に駆られている」
「あ……はい」
「格付会社がオペレートしている(業務を行なっている)のは、こういう相反する欲望が渦巻く環境なのだ」
堀川は英語まじりでいった。もともとは、日系大手証券会社であるN証券の社員で、ニューヨークの証券現地法人で勤務した経験がある。
「リスクとリターンの関係をカモフラージュするために、アレンジャーと発行体は何をするか?」
再び自問するような口調。
「彼らは、格付会社を使うのだ」
堀川は、喝破するようにいった。
「う、ううーん……」
乾は、思わずうなる。
「いいかね? 馬鹿な格付会社が、最先端の金融技術で複雑化されたストラクチャーの中に隠されているリスクを見抜けなかったり、あるいは、商売欲しさに高 い格付けをつけたりすると、最後に困るのは、債券を買った投資家なのだ。なぜなら、発行体は資金さえ調達できれば、あとは何のリスクも負わない、アレン ジャーは、債券を完売してしまえば、何のリスクも負わない、格付会社は、債券がデフォルトになっても、格付けは一つの意見の表明にすぎないと裁判所が認め ているので、何の賠償責任も負わない」
乾はうなずく。
「さっき、格付けは、投資家のために存在するといったが、文字どおり、我々は、投資家の利益を守るために仕事をしているのだ」

物語は、この「投資家の利益を守るため」の格付けから徐々に離れていく。証券化商品の拡大とともに、金融機関は自分たちでリスクをとらない商品を次々と開発し、したがって審査はどんどん甘くなる。サブプライムローンが広がっていく。それらの商品に対する格付けも、トリプルA(マーシャルズではAaa)のトランシェがずるずると広げられていく…

黒木亮氏の小説は読みだすと止まらなくなる。普段見えない「格付会社」というテーマも相まって、おすすめである。

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