契約者貸付
貯蓄性のある生命保険では、解約返戻金を担保にしてお金を借りることができる。これを「契約者貸付」という。
契約者貸付の利率は金利情勢によって異なるが、通常、予定利率より高く設定される。予定利率より低く設定すると逆ざやになってしまうので、これは当然のことだ。
さて、そうすると、契約者貸付によってお金を引き出して、返済せずにほったらかしていた場合、利息がふくらんで、いつか解約返戻金を上回ってしまう。要は担保割れになるということで、このとき、保険契約は失効する。これを「オーバーローン失効」という。
さて、生命保険協会が定期的に公表している苦情・相談案件集「ボイス・リポート」に、このオーバーローン失効に関する申し立てが載っていた。
[事案23-39]貸金業法適用請求
・平成23年9月10日裁定終了
<事案の概要>
オーバーローンにより契約が失効したことを受け、貸金業法に規定する登録を受けたうえで契約者貸付制度の確立を求め申立てがあったもの。
<申立人の主張>
昭和62年に加入した終身保険が失効したことに関連し、以下の3点につき要求する。
(1) 契約者貸付は、貸金業法第2条1項に定義する「金銭の貸付を業として行うもの」に当たり、同項2号に定義する「貸金業を行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの」に該当しないから、貸金業法第3条の登録を受けたうえで、同法および関連法律に基づく契約者貸付制度を確立すること。(請求1)
(2) 本件契約は、平成21年7月末で保険料払込期間満了となっているが、保険料の立替金が返済されていないとして立替金残高があることになっている。一方では払込満了とし、他方では払込が満了していないでは矛盾し、道理に合わない。保険料立替金残高はないものとすること。(請求2)
(3) 契約者貸付については、約款上「貸付金の元利合計が解約返還金額を超過した場合、保険契約は効力を失います」とあるが、保険法第57条(重大事由による解除)に保険者の解除権が規定され、「当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由」には該当しないので、申立契約を失効させ、解除することはできない。(請求3)
なんだこれは?特に(1)。保険会社を貸金業者として扱えという申し立てをして、いったいどうしようというのか。
ともかく、申立人の言っていることを確認してみようと、貸金業法を見てみる。
第2条(定義)
この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 (略)
二 貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの
三~五 (略)
で、次に保険業法。
第97条(業務の範囲等)
保険会社は、第3条第2項の免許の種類に従い、保険の引受けを行うことができる。
2 保険会社は、保険料として収受した金銭その他の資産の運用を行うには、有価証券の取得その他の内閣府令で定める方法によらなければならない。
では内閣府令(保険業法施行規則)にはどう書いているか。
第条(資産の運用方法の制限)
法第97条第2項に規定する内閣府令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一~四 (略)
五 金銭の貸付け(コールローンを含む。)
六~十三 (略)
ということで、保険会社は「貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者」に該当するので、貸金業法適用対象外。以上。
申立人の請求2・請求3も本来対応関係にないものを無理に対応づけているので、「本件申立内容は認められない」との結論となっている。
ところで今回改めて気付いたのが、貸付業務自体は保険会社の本来業務とはいえ、業法レベルでなく、(一段低いというと語弊があるが)施行規則レベルで定められているということだ。業法では「有価証券の取得」が定められているので、法律は本来の保険会社の資産運用として有価証券投資をメインに据えている、ということになる。
もちろん銀行の場合は貸付がメインに書かれているし、有価証券投資も法律レベルになっている。
銀行法第10条(業務の範囲)
銀行は、次に掲げる業務を営むことができる。
一 預金又は定期積金等の受入れ
二 資金の貸付け又は手形の割引
三 為替取引
2. 銀行は、前項各号に掲げる業務のほか、次に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができる。
一 債務の保証又は手形の引受け
二 有価証券(第5号に規定する証書をもつて表示される金銭債権に該当するもの及び短期社債等を除く。第5号の2及び第6号において同じ。)の売買(有価証券関連デリバティブ取引に該当するものを除く。)又は有価証券関連デリバティブ取引(投資の目的をもつてするもの又は書面取次ぎ行為に限る。)
三~十七 (略)
3.~10. (略)
実際の運用の場面での保険会社と銀行の違いはどちらかというと負債特性から語られることが多いが、意外なところで違いを発見した次第。
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