« 書評:金融リスク管理の現場 | トップページ | 自炊業者提訴 »

2011年12月17日 (土)

保険金不払い問題の収束

金融庁から生命保険会社10社に対して2008年7月に発出されていた、保険金不払いに関する業務改善命令が、ようやく収束を迎えた。

業務改善命令を発出した生命保険会社10社の改善状況について

「保険金不払い問題」という表現が人口に膾炙しているのでここでもそれを使うが、「不払い」と一括りにしてしまうと本質を見誤る。いわゆる「不払い」は、内容としては3つに分けられる。

不適切不払い

本来保険金等を支払うべきであったにもかかわらず、支払いがなされていなかったもの。

支払漏れ

保険金等の請求に必要な診断書等に入院、手術に関する情報の見落とし又は見誤り等により、本来、支払われるべき保険金等が支払われていなかったもの。

請求案内漏れ

診断書等に記載された内容から、請求を受けた保険金等以外にも支払える可能性がある保険金等があったにもかかわらず、契約者等へ請求が可能な保険金等があることを案内していなかったことから、他に支払可能であった保険金等が支払われていなかったもの。

「不適切不払い」と「支払漏れ」の違いがちょっと分かりにくいが、「不適切不払い」は故意、「支払漏れ」は事務ミス、と考えるのがおおむね当てはまると思う。(「請求案内漏れ」については後述する)

生命保険会社10社に出されていた業務改善命令は「支払漏れ」と「請求案内漏れ」に関するもので、「不適切不払い」は含まれない。つまり、法令に違反した行為を罰する命令というよりは、支払のミスをなくすための改善取り組みを求める命令だった。

この結果として、各社(あるいは業界全体)がさまざまな対応を行うようになった。例えば次のようなものだ。(すべての会社が対応しているわけではない)

  • 入院給付金などの請求に対して、結果的に支払わないと会社が判断したときに、入院診断書の発行費用を返金する
  • 支払わないという判断に契約者が納得できない場合、無料で弁護士に相談できる
  • 診断書の電子化のためのシステム導入を行う病院に対して、導入費用の補助を行う

しかしこれらにもまして大きな変化を与えたのは「請求案内漏れ」に対する意識の変化だと思う。

現在の保険の多くは、主契約にさまざまな特約がついており、それぞれ給付内容が違っている。ガンで入院したので入院給付金の請求をしようと思って保険証券を見たら、三大疾病保障特約でも保険金が支払われる、ということがあったりする。

これまでは、入院給付金の請求があったら入院給付金を支払い、三大疾病保険金の請求があったら三大疾病保険金を支払っていた。逆に言えば、入院給付金の請求だけでは三大疾病保険金は支払われなかった。

「請求案内漏れ」は、この点に対する改善命令だった。会社としては三大疾病保険金を支払う必要があることが認識できるので、支払う必要性を認識できるように体制を構築しなさい、ということだ。

私がこの「請求案内漏れ」を大きな変化だと思うのは、それまでは「請求があって初めて支払う」という受身の姿勢だったものを、支払う必要があるものが他にないかを保険会社が判断する、という能動的な姿勢に転換する、大げさに言えばパラダイム転換を促すものだったと考えるからだ。

そしてそれは、今回の東日本大震災で生かされたと思う。

震災に関するさまざまな特別取扱いの中で、いくつかの会社が入院給付金について特別取扱いを行なっている。以下は日本生命の例だ。

7.入院給付金のお取扱いについて

災害救助法適用地域(※)の被災のご契約者の方々を対象として、入院給付金を以下のとおりお取扱いいたします。

(1)このたびの地震によりケガで入院された場合
被災地の状況をふまえ、このたびの地震によりケガで入院されたお客様が、給付金請求に必要な診断書のお取寄せができない場合には、病院または診療所の発行した領収証等をご提出いただくことで入院給付金をお支払いいたします。
なお、被災地等の事情により直ちに入院することができず、一定期間経過後に入院された場合は、お申出をいただくことにより、ケガをされた日から入院を開始したものとして入院給付金をお支払いいたします。

(2)必要な入院治療を受けられなかった場合(ケガ、病気の場合を含む)
被災地では、病院が満床である等の理由により、本来入院による治療が必要なお客様が、当初の予定より早い退院を余儀なくされるケースや、入院できず自宅・避難所等で療養されるケースが想定されます。このような場合には、本来必要な入院期間について医師の証明書等をご提出いただくことで、当該期間についても入院されたものとして入院給付金をお支払いいたします。

(※)大量の帰宅困難者が発生したこと等に伴い災害救助法が適用された東京都やその他一部地域を除く。

震災の規模から考えればこのような対応は当然、という話もあるが、「入院していなくても入院給付金を支払う」という考え方は、請求案内漏れへの対応がなければ発想として出て来なかったのではないか、と私は思っている。

「不払いはなくならない」「保険会社の体質は変わっていない」という意見も見られるが、変わっているのですよ。


業務改善命令が発出された当時の保険課長による本。不払い問題を切り口にした行政システムの分析が中心テーマなので、不払い問題そのものを理解するには、(一般に入手可能かどうかは知らないが)日本保険・年金リスク学会(JARIP)の「リスクと保険」第5号(2009年3月)所収の「保険金不適切不払い・支払漏れとその行政対応」(保井俊之)のほうがよい(同時期のアクチュアリージャーナルにも収められている)。

« 書評:金融リスク管理の現場 | トップページ | 自炊業者提訴 »

保険」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/554939/53505562

この記事へのトラックバック一覧です: 保険金不払い問題の収束:

« 書評:金融リスク管理の現場 | トップページ | 自炊業者提訴 »

フォト
無料ブログはココログ
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

最近のトラックバック