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2013年1月22日 (火)

標準利率改定への対応

(2013年1月21日 追記あり)

昨日あたりから、日本生命が今年4月以降も保険料を改定しない、との記事が飛び回っています。

まず、背景を説明しましょう。

生命保険(や一部の損害保険)は長期にわたって保障を行うため、保障のために保険料の一部を積み立てておかなければなりません。その積み立てを「責任準備金」といい、生命保険の場合はおおむね「予定死亡率」と「予定利率」の2つの率を元に計算されます。

責任準備金の積み立てがあまりに少ないと将来の保険の保障に支障をきたすので、責任準備金の計算に用いられる「予定死亡率」と「予定利率」については金融庁が実質的に指定しています。(なお、保険料の計算にも「予定死亡率」と「予定利率」が用いられますが、こちらは金融庁の指定は特にありません。したがって保険料の計算に用いるものと責任準備金の計算に用いるものが違っていてもかまいません。)この金融庁が指定する「予定利率」を、特に「標準利率」といいます。標準利率は金融庁が計算方法を定めていて、その算式は法令として開示されています(平成8年大蔵省告示第48号)。

昨年10月、上記の法令の算式による計算結果として、今年4月からの標準利率が(現在の1.5%から)1%に下がることが決まりました。標準利率が下がるということは、責任準備金をより多く積み立てる必要があるということです。責任準備金を積み立てる財源は原則として保険料しかないため、各社が保険料の引き上げに動くだろう、というのが関係者(というか上記の仕組みを知っている人)の認識でした。

ところが、日本生命は保険料を引き上げないという。それがサプライズだったわけです。

こうなると、次は「どの商品を引き上げないのか」が問題になります。上の3つの記事のうち、日経は「主力商品」、共同は「大半の保険商品」とあり、時事は特に言及がありません。

実はこの対象商品の範囲が大きな問題です。標準利率の改定は、保障性(いわゆる掛け捨て)の生命保険にはさほど大きな影響を及ぼさないものの、貯蓄性の商品には大きな影響を及ぼすからです。

したがって、日経の記事のように「主力商品」だけであれば、まあそれはやってもおかしくないかな(他の会社もやるかも)ぐらいですが、時事の記事を見ると全商品のように見えて、それはびっくりするわけです。

例として一時払い終身保険を取り上げましょう。日本生命が現在販売している一時払い終身(マイステージ)の予定利率は1.4%です。これに対して標準利率1%で積み立てる場合、保険料だけでは毎年0.4%分の不足が発生するわけですが、その将来発生分を契約時点で全額積み立てる必要があります。一時払い終身のデュレーションを20年とすると、契約時点で一時払保険料のおおむね8%分の不足額を積み立てる(要するに契約時点で損が発生する)ことになるわけです。

日本生命の2011年度の個人保険の一時払保険料は年間約1兆円でしたので、これがすべて一時払い終身保険(マイステージ)だとすると、この8%というと約800億円になります。日本生命の基礎利益(一般事業会社の営業利益に相当)は5000億円強ですので、保険料率の改定をしなければ、(仮定に仮定を重ねた計算ですが)基礎利益の約15%が吹き飛ぶことになります。

ということで、同じような記事でも「損益にほとんど影響ない」か、「利益が大きく減少する」か、実はけっこうな違いがあるのです。(当然ながらどの記事が正しいのか私にはわかりません。)

もう一つ、共同と時事は「他社戦略に影響も」と書いていますが、個人的にはそれは無理じゃないかなーと思っています。先ほど書いたとおり、保険料率の改定には原則として金融庁の認可が必要です。標準利率が1%になるのに対応して改定をしている会社はもう認可申請をしていて、むしろ金融庁からの認可待ちの状態にあるのではないでしょうか。そうでなければ、4月までにシステム改定・テスト検証という対応が間に合わないからです。むしろ他社の来年度以降の戦略に影響を与えるのかもしれませんね。

P.S.
来年度(2014年度)には標準利率の計算方法を変更した上でもう一度改定、という噂もありますが、そちらは情報ソースがあやふやすぎてまだコメントできません。もう少し見えてきてから。

[2013年1月21日 追記]
日本生命自身が4月からの保険料率改定について発表しました。

これによると長期定期保険の予定利率を1.65%から1.15%に、一時払終身保険の予定利率を1.4%から1%に改定するそうです。(結果的に「大半の保険商品」と報じた共同通信がもっとも正確だったことになります。)

ということで、上記の計算は完全に架空の計算となってしまいました…

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コメント

アクチュアリーではないのですが、生命保険業に従事する者としてコメントさせていただきます。

今回の日本生命の対応にはいささか疑問を感じています。

まず、料率を改定しない理由です。
「現在の運用実績から料率改定は不要と判断した」等ならまだしも、「発売後間もない」ということは理由として適当ではありません。
システム開発等にコストがかかることは理解できますが、それは他の会社にも言えること。
今回の対応は、日本生命が標準利率の存在を蔑ろにしているように思えてなりません。

2点目に、長期定期保険は1.15%に改定する一方で、平準払終身保険は据置としている点です。
現在の一時払終身の予定利率が1.4%であることから、平準払終身は1.4%以上の水準だと推測されます。このとき、おそらく定期保険よりも終身保険の方が保険料が安いといった矛盾が生じているはずです。
これは監督指針における「予定利率については、保険種類、保険期間、保険料の払方、運用実績や将来の利回り予想等を基に、合理的かつ長期的な観点から適切な設定が行われているか。」に適合したものではないと思われます。
監督当局はこの点を確認しているのでしょうか。

予定利率据置は、責任準備金積立による利益圧迫や逆ざや拡大を招く諸刃の剣です。
リーディングカンパニーである日本生命は生保業界全体の発展を考慮すべきであり、自社のことしか考えていないと言われても仕方のない今回のような対応はとるべきではなかったと思います。

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