« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »

2013年4月

2013年4月30日 (火)

「災害」扱いの病気

生命保険には、不慮の事故によって亡くなった場合に保険金が追加で支払われる「災害特約」や「傷害特約」と呼ばれるものがあります。事故によって亡くなった場合、残された人たちは、心の準備はもちろん、経済的な準備もできていないことが多いので、まさに生命保険の意義が最もある特約だと思います。

この「災害特約」や「傷害特約」、何をもって「不慮の事故」と判断するかが難しいことがあり、裁判になるケースもあります。最近(2013年4月16日)にも、傷害保険金の支払について最高裁の判決がありました。

さて、「災害特約」や「傷害特約」はあくまでも不慮の事故に対するものであるため、どんなに突然死だったとしても、通常は病気に対してこれらの保険金が支払われることはありません。(「災害保険金がない」ということであって、通常の死亡保険金はもちろん支払われます。)

しかし例外的に、病気に対して支払われるケースがあります。重篤な伝染病に類する病気です。

いくつかの会社の約款を見てみると、次のような病気が挙げられています(すべての約款を確認したわけではないので、会社によってはこれと異なる可能性があります)。

  • コレラ [3]
  • 腸チフス [3]
  • パラチフスA [3]
  • 細菌性赤痢 [3]
  • 腸管出血性大腸菌感染症 [3]
  • ペスト [1]
  • ジフテリア [2]
  • 急性灰白髄炎<ポリオ> [2]
  • ラッサ熱 [1]
  • クリミヤ・コンゴ出血熱 [1]
  • マールブルグウイルス病 [1]
  • エボラウイルス病 [1]
  • 痘瘡 [1]
  • 重症急性呼吸器症候群[SARS]
    (病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限ります。) [2]

病名の後に数字を付けました。これは感染症予防法に規定する一類~三類感染症に対応します(厳密な意味で同じとは限りません)。元々、感染症予防法の前身の伝染病予防法において「法定伝染病」とされていたものを引き継いだものです。やや例外はありますがいずれも日本で感染する可能性が低く、感染した場合には急激かつ重篤な症状を呈し、致死率も比較的高いことから、不慮の事故に近いとみなされたのかもしれません。

さて、逆に感染症予防法の一類~三類感染症がすべて災害保険金の対象になるかというと、そうはなっていません。一類~三類感染症で上のリストに含まれない病気があります。

  • 南米出血熱 [1]
  • 結核 [2]
  • 鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1であるものに限ります。) [2]

ここで挙がっている病気のうち、結核だけが他と異なるように思われます。他の伝染病は日本で感染する可能性が高いとは言えないものでしたが、結核は、昔は「国民病」と呼ばれるほど一般的な病気だからです。実際、1930~40年代には、結核は日本人の死因の第1位でした。そのような一般的な感染症では「不慮の事故のようなもの」とは言えなさそうです。

実は、上に挙げた「災害保険金の対象とならない一類~三類感染症」は、2006年以降の法律改正で新たに加えられたものです。それまでは約款でも「感染症予防法に定める一類~三類感染症による死亡」というのを災害保険金の給付要件としていた会社も多かったのですが、一類~三類感染症に災害保険金の適用対象らしからぬ「結核」が含まれたことにより、多くの会社が病名を限定列挙する方式に移行しました。

さて、現在中国で広まりつつあるH7N9型の鳥インフルエンザについて、4月26日、感染症予防法上の「指定感染症」とする政令が公布されました。「指定感染症」とは「すでに知られている感染症で、国民の健康に重大な影響があるとして、政令で指定する感染症」であり、医療機関などには一類~三類感染症に準じた対応が求められます。今後、H5N1鳥インフルエンザのように一類~三類感染症とされるのか、またその際、災害保険金の支払い対象となるように生保の約款が改定されるのか、動向が注目されます。

2013年4月17日 (水)

物スラおぼえていますか

こんなニュースを目にしました。

財務省が物価連動債発行へ ワーキンググループ開催(MSN産経ニュース)

財務省は、物価に連動して元本が増減する物価連動国債の発行に向け、証券会社や機関投資家などで構成するワーキンググループを22日に開催すると発表した。長引くデフレで発行を停止していたが、海外投資家の需要があるとみて、財務省は今年度、5年ぶりに発行を再開する方針。

このニュースに対して、twitterでこんな反応が。

物価スライド保険(略して「物スラ」、会社によって多少名称は異なります)、ご存じの方も少ないと思いますので、歴史をひもといてみましょう。

物価スライド保険が発売されたのは1975年7月。1973年から開かれた保険審議会の答申を受け、業界共通商品として開発されました。(「業界共通商品」というものが存在したこと自体に時代を感じます)

保険審議会が開かれていた1973年はちょうどオイルショックにあたっており、異常なインフレが発生していた時期です。翌1974年の消費者物価指数の上昇率は23%に達しました。

このような中、保険審議会の中の消費者代表委員からの要望により、物価スライド保険は開発されました。その仕組みは5年定期保険であり、消費者物価指数に連動して保険料と保険金の両方が変動するというものでした。

しかし業界の想定どおり、さっぱり売れない商品でした。そのあたりの描写が「生保商品の変遷~アクチュアリーの果たした役割~」という本にあります(p41)。

しかし業界は、過去の長い歴史と経験から、この類の商品開発がわが国の生きた市場ではいかに実効がないかを承知していた。一般のインフレ保障に対する期待は、自らが危険を負担するのではなく企業が負担してくれることにある。このよな点からみれば、この仕組―保険料も物価指数に応じて増大する―については大いに疑問があった。

(中略)

その判定は、その後の販売実績に委ねられた訳であるが、現在までのところの実績でみるかぎりこの懸念が正しかったと判断せざるを得ないであろう。63年度末保有件数は全社で100件以下である。

平成に入ってからいくつかの会社が販売停止にし、今では販売している会社はありません(すべての会社が販売を停止した時期ははっきりしませんが、1996~1997年ごろと思われます)。5年満期なので、保有そのものもゼロになっているはずですね。

日銀の異次元緩和によって何かとインフレ率が注目を浴びる可能性が高まっていますが、さて、物価スライド保険の再来はあるのでしょうか。

…ないだろうなあ。

1996年の保険業法改正前の保険の歴史を知るにはいい本です。この本にしか書いてないネタもたくさんあります。ただ、もう絶版じゃないのかな。

« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »

フォト
無料ブログはココログ
2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

最近のトラックバック