生保決算
5月24日、2012年度の主要生保の決算発表がありました。
生命保険協会の協会長を輪番で行なっている日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命が一般に「大手4社」と言われますが、このうち第一生命は上場会社のため、いわゆる「45日ルール」に則って5月15日にすでに決算発表を行なっていますが、それ以外の3社が24日に発表を行いました。その他の多くの生命保険会社も24日に決算発表を行なっています。
報道での扱いを見てみましょう。
- 生保3月期決算、円安株高で10社増益 銀行窓販が伸長(産経ニュース)
- 生保8グループ:前期最終利益26%増、株高や円安で資産運用改善(Bloomberg)
- 生保、11グループで増益 13年3月期、逆ざや縮小(日本経済新聞)
- 生保8社の決算 円安で増益相次ぐ(NHK)
円安・株高が、運用収益の改善→逆ざや改善、含み益の増加→財務基盤強化、の両面で好決算につながっていると評されている論調が多いようです。
ただ、逆ざやはインカム収益をベースに計算するので、株に関しては増配しないと逆ざや改善には効きません。ただ、株式投信のような資産だと、株高が投信配当の増加に直結するので、逆ざやの改善に効果があることになります。いっぽう円安は外国債券の配当の増加につながる逆ざや改善には直接貢献するのですが、為替をヘッジしない外国証券を持っていることが前提になります。為替リスクは非常に高いので、ヘッジせずに保有している量がそれほど大きくはないと思うんですけどね。
それにしても産経ニュース、
アフラックは大幅減益が響き、2年ぶりに逆ざやとなった。
というのはあまりにもでしょう。これは一般事業会社で言えば「最終赤字が響き、経常赤字となった」と言っているようなものです。逆だろ。
さて、含み益増加のほうは、金利低下→国内債券の含み益増加、株高→国内株式の含み益増加、円安→外国証券の含み益増加、と、経済環境がすべて含み益の増加につながっています。これを受けて、各社のソルベンシー・マージン比率も上昇しています。
ただしこれはあまり歓迎できる環境ではありません。特に金利低下は将来の逆ざや増加につながるため、基本的に生命保険会社にとっては悪影響となります。ソルベンシー・マージンでは将来の逆ざや増加がほとんど評価の対象とならないため、このあたりは別途エンベディッド・バリューなどを見る必要があるでしょう。
次に保険料収入です。こちらは集計方法にもよりますが、「伸び悩んだ」「減少した」といった論調ですね。
国内生保グループの2012年3月期連結決算は、保険料等収入が銀行窓販の減少などで前の期と比べて3.8%減の19兆7191億円となった
(Bloomberg)
15グループ合計の保険料収入は前の期に比べて1.8%の微増にとどまった
(日本経済新聞)
保険料収入に関して最近顕著な傾向は「銀行窓販の販売量次第」ということです。銀行窓販で販売される保険は、貯蓄性の高い一時払いの保険がほとんどのため、保険料収入に与える影響がとても大きくなっています。しかも銀行は販売力が非常に強い、ときています。したがって、貯蓄性のよい(=利回りの高い)保険が極端に売れすぎてしまうことになります。「利回りが高い」ということは、生命保険会社にとっては「逆ざやになりやすい」ということですから、販売量をうまくコントロールしないと、大きなリスクを抱えることになります。
このため、生命保険会社は、銀行窓販商品が売れ過ぎると利回りを少し落とした商品に改定する、ということを行なっています。2012年度の金利は基本的に低下傾向だったため、利回りを落としてきていた、ということになります。その意味では、保険料収入の伸び悩みは、生命保険会社のリスクコントロールが奏功したとも解釈できます。
なお、保険料収入の動向を少子高齢化と結びつける向きもありますが、これはほとんどこじつけとしか言いようがありません。中長期的な構造変化が単年度決算にそううまく現れるわけがない。
今回の2012年度決算では、2013年4月4日からの日銀の異次元緩和の影響は直接には含まれていないため、現在の金融政策の影響という意味でむしろ注目すべきは、8月15日前後に公表される第一四半期のほうかもしれません。
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コメント
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はじめまして。私はとある生保に入社し、地方勤務し始めて数年の内勤職員です。
私は普段本社の方の話を直接聞くことがほとんどなく、ぜひ本社で数理をやっている方に国内生保の経営についてお聞きしたいことが2つありまして、
1つは円安と外債配当の関係ですが、生保は外債投資にあたり元本の大部分ないし全部(住友?)にヘッジをかけていますが、配当に対してはある程度オープンであり円安はプラスだという話を記事で見ました。これは株の増配や国債の金利水準の変化に比べると些末な影響でしょうか?
2つ目は保険料収入に関してですが、私はここ数年の決算を見ていると保有・新規ともに第三分野ANPの進展は限界が近づいているのかなという気がしていますが、内部からだとまだまだ次のタマ(商品)はいくらでもあるくらいの楽観的な考えなのでしょうか?
投稿: 国内生保内勤 | 2013年5月28日 (火) 23時45分