続・生保決算
前回のエントリ「生保決算」に対して、「国内生保内勤」さんから以下のような質問をいただきました。ちょっと回答が長くなりそうだったので別エントリにしてみました。
最初にお断りしますが、私は生保の「中の人」ではないです。ので、お答えできる内容も限定的であることをご承知ください。
では円安について。どの程度の影響になるか、実際に計算してみましょう。
為替レートは2012年3月末の82.19円/ドルから、2013年3月末には94.05円/ドルとなり、約14%の円安となっています。ただしこれは期末どうしを比較したものなので、利息配当金収入に関しては年間平均をとる必要があります。円安は12月以降に大幅に進んでいるため、年度平均だと5%ぐらいになります。
生命保険協会の統計によると、(1年古いですが)2011年度の外国証券利息配当金は生保43社計で約1.57兆円。これらがすべてヘッジされていないとすると、2011年度から2012年度にかけて平均で5%円安が進んだわけですから、その影響は1.57兆円の5%、約800億円になります。これは43社合計の経常利益(2.58兆円)を約3%押し上げることになります。
これに対して金利低下が利息収入に与える影響は、債券の入れ替えがどの程度起こるかに依存するため簡単には計算できませんが、ざっくり見積もってみましょう。10年国債のみを保有し、残存年数は1年、2年、…、10年が均等にあるものとします。つまり1年間に保有債券の1/10が入れ替わるとします。
10年金利の水準は2012年3月末と2013年3月末を比べるとほぼ半減していますが、これも年平均にならすと25%程度の低下になります。2011年度の公社債利息が約3兆円なので、この1/10が入れ替わり、入れ替わったものの利息が25%減るとすると、影響額は約750億円になります。
つまり、金利低下による国内債券の減収分を、外国証券の円安効果でほぼ補っていることになります。その意味では小さいとはいえない金額ですね。ただし、外国債券のクーポンがまったくヘッジされていないと仮定して、ですが。
なお、株式配当の影響ですが、株価は上がっているものの、増配を打ち出している会社はそう多くはないと思いますので、影響額の試算はパス。
次に第三分野ですが、私は中の人ではないので「次のタマ」がいくらでもあるかどうかは知りませんが、とりあえずは客観的なデータで見てみましょう。全社合計の第三分野の新契約年換算保険料の対前年増減の推移は以下のようになっています。(出典:インシュアランス統計号)
- 2006年度 ▲15.9%
- 2007年度 ▲1.2%
- 2008年度 +5.8%
- 2009年度 +6.0%
- 2010年度 +2.2%
- 2011年度 +2.3%
うーん、鈍化しているようなそうでもないような…?第三分野は給付が多様ですので、業界全体の数値をもって論じるのはうまくいかないのかもしれません。
いかがでしょうか。あまり答えになっていない部分もありますが、ご参考にしていただければ。
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コメント
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はじめまして。私はとある生保に入社し、地方勤務し始めて数年の内勤職員です。
私は普段本社の方の話を直接聞くことがほとんどなく、ぜひ本社で数理をやっている方に国内生保の経営についてお聞きしたいことが2つありまして、
1つは円安と外債配当の関係ですが、生保は外債投資にあたり元本の大部分ないし全部(住友?)にヘッジをかけていますが、配当に対してはある程度オープンであり円安はプラスだという話を記事で見ました。これは株の増配や国債の金利水準の変化に比べると些末な影響でしょうか?
2つ目は保険料収入に関してですが、私はここ数年の決算を見ていると保有・新規ともに第三分野ANPの進展は限界が近づいているのかなという気がしていますが、内部からだとまだまだ次のタマ(商品)はいくらでもあるくらいの楽観的な考えなのでしょうか?