« 続・生保決算 | トップページ | ピーシーエー生命 »

2013年6月15日 (土)

書評:法の世界からみた「会計監査」

ずっと書評を書かねば書かねばと思っていたのですが、すっかり遅くなりました…

著者はブログ「ビジネス法務の部屋」で有名な山口弁護士です。

本のタイトルからわかるとおり、アクチュアリーはまったく関係ありません。本書の中にアクチュアリーが登場するわけでもありません。しかし、「この議論はアクチュアリーにどう当てはまるか?」と考えながら読むと、いろいろと勉強になります。

本書の副題には「弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」とあり、弁護士と会計士の思考法の違いが描かれています。私が読んだ中で付箋を貼った箇所をいくつか抜粋してみます。

(会計監査手続の中で)「グレーなことには気づくけど、クロである証拠まで辿りつくことは困難。そこに時間をかけることができるほど潤沢な予算はない」…

…監査論の教科書に職業的懐疑心をもって監査せよ、と書いてあるが、実際にはほとんどの会社がシロなので、シロを前提にしないと会計監査制度が成り立たない、というのも(気持ちの問題としては)納得するところです。(P14~15)

弁護士や医師の守秘義務というのは、それが依頼者や患者の権利(生命、身体、財産等の保護)を最大限度に守るという使命を尽くすために認められています。…

…しかし、会計士には「てkしえつな情報開示に協力する」という公益目的のための使命があることを重視するならば、実質的な依頼者は投資家や株主、会社債権者だと捉えられます。このことを前提とした場合には、会計士の守秘義務はどう考えるべきでしょうか。(P36~37)

(弁護士は)自分の職務怠慢や能力不足が指摘されるような事案であっても、裁判官に敗訴の責任を(依頼者への説明の上では)添加することが容易になります。

しかし会計監査の場面における会計士は最終判断者です。(P58)

職務の誠実性というのは、かなり漠然とした言葉ではありますが、社会から期待された職業専門家としての職務執行に向けられたものです。(P67)

リスク・アプローチといいますのは、監査人が監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを評価して、発見リスクの水準を決定するとともに、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づく監査を実施する監査手法のことを指します。

…(会計監査)制度を維持するためには、プロのなに恥じないようなレベルの高いものが要求されます。投資家の判断に資する程度のレベルの仕事といえば、一定程度の品質水準をもった監査結果の公表です。この一定程度の品質水準は、被監査企業の重要な虚偽表示リスクの程度に、要求される監査人の労力を勘案して算出されるものです。(P119)

私自身が理解できていないと感じるところがあります。「会計基準」というものはどういったルールなのか、という素朴な疑問です。ルールを決めること、ルールを選択すること、選択されたルールを解釈すること、そのすべてが「会計慣行」のなかに含まれると思うのですが、法律家の頭のなかにあるのは「ルールを選択すること」だけではないか、ということです。(P148)

日本と欧米とでは「リスクコミュニケーション」の手法が異なるため格別の注意が必要、と教わりました。たとえばリコール対応の場合、我が国でも消費者庁の設置によって少しずつ変わってはきているのですが、日本では正確な情報を企業自身が集約してリコール対応の必要性を判断し、対応を決断した時点で情報を開示します。しかしアメリカでは、リコールの是非を企業と市民が一緒になって考えます。(P222)

日本企業はいったん規制が新設されますと、とても従順にこれを遵守するといわれています。過剰な規制の疑いがあったとしても、自らの責任問題に発展することを回避するために、横並び意識によってルールに従います。おそらく現場の実務担当者や監査人にとっては、そのほうが気持ちとしても楽なのかもしれません。しかし、せっかく行政当局が企業の自由な発想を尊重しようとして原則主義を採用したとしても、企業や監査人のほうがこれを拒絶した結果となりますと、これは行政当局にとっては大きな誤算ではなかったかと今でも感じています。

しかも、この行政当局の誤算は、内部統制報告制度だけの問題ではなく、今後の行政規制の在り方として多方面で同様の事態が生じるのではないでしょうか。(P238)

引用をズラズラと書き並べるのは正しい引用の在り方ではないのですが、個々の引用に対してコメントするのが難しいのでご容赦ください。ただ、この本を読みながら、アクチュアリー、あるいはアクチュアリー業務について、考えたところを挙げてみます:

  • 弁護士・会計士は社外者であるのに対し、保険計理人はほとんどが社内者(インハウス)である。
  • 弁護士・会計士資格は国家資格だが、アクチュアリーは民間資格。
  • アクチュアリー(特に保険計理人)は「誰のために」専門職として働いているのか?
  • プライシング・アクチュアリーとバリュエーション・アクチュアリーでは「誰のために」働いているかは違うのか?
  • 「保険計理人の実務基準」はプリンシプル・ベースだろうか、ルール・ベースだろうか?
  • 日本の会計基準、米国会計基準(US-GAAP)、IFRSそれぞれにおける保険負債の考え方の違いは?プリンシプル・ベース/ルール・ベースの違いは?
  • 行政当局にアクチュアリーが絶対的に少ない現状で、(特に保険会社の)アクチュアリーは行政機能の一部を担っているのか、担うべきか?それは「誰のために」働くかという視点と合致するのか、相反するのか?
おそらく、同じアクチュアリーであっても、生保か損保か年金か、商品開発に携わっているか決算業務をやっているか、所属が国内企業か外資系か、などによって、考えるところ・気づくところは大きく違うと思います。ただ、弁護士も、会計士も、アクチュアリーも、専門職として、企業のさまざまなリスクを見る、あるいは対処する役割を負っています。その点で、とてもヒントになることがたくさん得られる書籍です。

« 続・生保決算 | トップページ | ピーシーエー生命 »

アクチュアリー」カテゴリの記事

会計」カテゴリの記事

書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/554939/57240368

この記事へのトラックバック一覧です: 書評:法の世界からみた「会計監査」:

« 続・生保決算 | トップページ | ピーシーエー生命 »

フォト
無料ブログはココログ
2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

最近のトラックバック