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2013年9月

2013年9月22日 (日)

「半沢直樹」での金融庁検査

大人気ドラマ『半沢直樹』、本日最終回を迎えてしまいました。その意味では手遅れ感の漂うタイトルではありますが、最終回を観る限り続編フラグ立ちまくりなのでエントリ上げることにしました。

このドラマについては視聴率の高さもあって、いろいろなところで記事やコラム、ブログエントリなどが見られますがが、金融専門雑誌「金融財政事情」の今週号(2013.9.23号)でも『「半沢直樹」にみる金融庁検査の虚実』という見出しで取り上げられていました。

(2013.9.27追記:「きんざいデジマガ」にこの記事が載っているのに気付いたので、リンク張りました)

まあ、当初からTwitterの金融クラスタでは、放送と同時進行でさまざまなツッコミが入っていたのですが、週刊金融財政事情の記事はその総まとめのようなものが、しかも真面目に語られており、笑いが止まりませんでした。中でも笑ったのは、金融庁検査に関係する資料を半沢が自宅に隠し(ドラマでは「疎開」と言っています)、それを金融庁が探しに行くというシーンについての次のくだり。

現実には金融庁の検査官が銀行の職員の自宅にまで出向くことはない。完全に任意であればどうかとも思われるが、検査官に確認したところ、「そもそも自宅にいくために職員に協力を求めることすらありえない」とのことだった。

いやあ、「検査官に確認したんかい!」と、思わず声に出してツッコミ入れそうになりました(ちなみに記事にも書いていますが、この疎開という行為は「検査忌避」に相当する犯罪行為です)。

で、つい、こんなツイートを。

しかし、冷静になってみると、実際、金融庁の方々にとっては忸怩たる思いを感じるドラマのかもしれないな、と思うところがあります。

というのも、このドラマの原作である「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」の単行本が発行されたのが、それぞれ2004年と2008年。つまり、ドラマの最初は、ほぼ10年前の話なわけです。原作者の池井戸潤氏が銀行に勤務していたのはもっと前になります。当然ながら、その頃とは金融庁のスタンスも大きく違うと思われます。

特に最近、金融庁は検査に対する方針を大きく変えています。その一つの例として、従来は1年間の検査の方針を「検査基本方針」として公表していたのを、今年度からはオンサイト・オフサイト一体のものとして「金融モニタリング基本方針」として公表するようになりました。それに関する金融庁のスタンスを端的に表す言葉が、麻生金融担当相の9月13日の記者会見に現れています。(太字は引用者)

(前略)こういった問題に的確に対応していくというためには、少なくとも今までのようなモニタリングと称する実態把握とか、検査とかいろいろやっていて、「金融処分庁」とかというようなありがたくない名前も頂戴していたわけですから、そういったものを抜本的に見直して、いわゆる「金融育成庁」というような意味で、少なくとも内容を、少し基本方針の内容というものをそういった方向で考えていかないといけないのではないかということで、私共としてはああいった基本方針を発表させていただいたというのが経緯です。

ドラマ「半沢直樹」で描かれている金融庁はまさに銀行の揚げ足を取る「金融処分庁」なので、そこから脱しようとしている金融庁にとっては、このドラマは「金融庁はイヤな奴らの集まり」みたいなイメージを植え付ける存在として、どうにも微妙に感じられたかもしれません。

大蔵省時代は金融機関と監督当局のコミュニケーションがあったのですが、それはノーパンしゃぶしゃぶのような歪んだ形の部分がありました。その反動もあって、その後は金融機関と監督当局のコミュニケーションがほとんどない状態が長く続いてきました。その結果、ミスコミュニケーションから生じる認識の食い違いが、お互いに過剰な反応を引き起こしてきた面がいろいろとあったように思います。そこが最近は再び修正されつつある状況になってきているのではないでしょうか。

当局から民間に転職した人がまた金融庁に戻るという人事も最近になって発表されました。

これをもって「民間の考え方を金融庁が聞こうとしている態度の表れだ」と即断するつもりはありませんが、風向きの変化は何か感じられるように思います。

2013年9月17日 (火)

生命保険会社の内部留保

今日の日経に、次のような記事がありました。

記事の内容は「国内生保が準備金や積立金の積み立てを進めています」という話であり、実際、いろいろな名前の準備金や積立金が出てきます。これを、歴史的経緯も含めて、ちょっと整理してみましょう。

まずは危険準備金。これは死亡保険金の支払いが想定を超えて増えた場合に備える「危険準備金I」や、逆ざやリスクに備える「危険準備金II」など、4種類のリスクに対応して、保険業法上積立てが求められる準備金です。具体的には保険業法施行規則第69条第6項や、平成10年大蔵省告示第231号あたりが関係します。危険準備金は責任準備金の一部であり、したがって負債ではあるのですが、一般的には生命保険会社にとっての内部留保と見なされます。

この危険準備金、これ以上積み立ててはいけないという上限があります。この上限の額ですが、実は1995年に保険業法が全面改正された際、水準が下がっているのです。したがって、それまで危険準備金をたくさん積み立てていた会社は、放っておくと改正保険業法が施行されると同時に違法状態になってしまいます。そこで、「危険準備金が新保険業法の上限を超えてしまう場合は、超えている分を資本の部の任意積立金に移しなさい」というルールが同時に決められました。

保険業法施行規則附則第11条第2項(抄)

施行日以後に開始する最初の事業年度の決算期において、…旧規則第30条の規定により区別された危険準備金の額が、新規則第87条第1号の保険リスクに備えるものとして計算された金額を超える場合においては、当該超える部分の金額は、当該決算期に作成すべき貸借対照表の資本の部に、その目的のための任意積立金として記載しなければならない

この任意積立金は「危険準備積立金」と名付けられました。

次に価格変動準備金です。これは保険業法第115条に根拠をもつ準備金で、資産の価格変動リスクに備える準備金です。危険準備金と同様、負債ではありながら内部留保と見なされています。また、危険準備金と同様に、これ以上積み立ててはいけないという上限があります。

価格変動準備金は1995年の新保険業法によって初めて作られた準備金ですが、旧保険業法下でも同趣旨の準備金があり、保険業法第86条準備金という名前でした。このため、旧86条準備金が新保険業法の価格変動準備金の上限を超えていた場合のために、やはり危険準備金と同様の経過措置規定がありました。

保険業法施行規則附則第10条(抄)

施行日以後に開始する最初の事業年度の決算期において、法附則第56条第2項の規定により法第115条第1項の価格変動準備金として積み立てられたものとみなされる旧法第86条の準備金の額が、新規則第66条に定める限度額を超える場合においては、当該超える部分の金額は、当該決算期に作成すべき貸借対照表の資本の部に、その目的のための任意積立金として記載しなければならない

この任意積立金は「投資収益変動積立金」と名付けられました。しかし危険準備積立金と異なり、投資収益変動積立金を積み立てた会社はありませんでした。

ここまで、生命保険会社の「内部留保」と呼ばれるものとして、4種類挙げてきました。負債が2種類(危険準備金、価格変動準備金)、資本(純資産)の部の任意積立金が2種類(危険準備積立金、投資収益変動積立金)です。

ところで後者の任意積立金ですが、もともと「任意」なので、上に述べたもの以外にも適当な名前を付けて積み立てることが可能です。実際、「価格変動積立金」という名前で積み立てを行っている会社がいくつかあります。

価格変動積立金は、その名前から、価格変動準備金が上限を超えた場合の任意積立金であるとの誤解も多いようです(しかも投資収益変動積立金を積み立てている会社が存在しないことが誤解に拍車をかけているようです)が、上記のとおり、名称付与の経緯は異なります。

また、特に危険準備積立金について、業法改正時(1996年度決算)以外にも「危険準備金が上限を超えた場合には危険準備積立金を積み立てる」と理解している人も多いようですが、それは起こりえません。現行の保険業法下で「危険準備金が上限を超えた場合」というのはただの違法な状態なので、上限を超える部分は積み立てない(つまり取り崩す)ということになります。

ただし、繰り返し書いているとおり、危険準備積立金そのものは「任意積立金」ですから、危険準備金が上限に達しているかどうかにかかわらず、任意に積み立てを行うことができます。

まとめると次のとおりです。

  • 危険準備金:保険業法上の根拠を持つ負債。上限を超える積み立てはできない。
  • 価格変動準備金:保険業法上の根拠を持つ負債。上限を超える積み立てはできない。
  • 危険準備積立金:保険業法上の経過措置による任意積立金。保険業法改正時以降の積み立ては任意。
  • 投資収益変動積立金:保険業法上の経過措置による任意積立金。保険業法改正時以降の積み立ては任意。
  • 価格変動積立金:任意積立金。保険業法上の根拠はない。

ちなみに保険業法上の根拠があろうがなかろうが、リスクバッファーとしての内部留保の効果は変わりませんので誤解なきよう。

なお、他にも任意積立金はありますし、その点を含めてこのエントリでは簡略化している部分がいくつかあります。また、取崩し規定や配当準備金未割当額については、話がややこしくなるので書いていません。このへんはまた機会があれば。

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