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2013年11月

2013年11月 4日 (月)

標準利率設定ルール改定の動き

11月2日(土)の日経に「生命保険料 下げやすく」という見出しの記事が載りました。

金融庁は生命保険会社が保険料を変更しやすくする。保険料を決める基準となる標準利率の算定方法を見直し、2015年度から適用する。年金など貯蓄性保険の利回りを金利変動に合わせて変えやすくする狙い。生保は今後金利が上がる際に保険料を引き下げやすくなる。新規の契約者は負担が減る利点があるが、生保の間で競争が過熱する可能性もある。

記事によると、一時払いの保険について標準利率の設定ルールを変更するとのこと。標準利率の設定方法は平成8年大蔵省告示第48号に規定されていますから、これが改正されるということですね。

しかしこの記事、「保険料を決める基準となる標準利率」とありますが、標準利率はあくまでも責任準備金を計算する基礎率にすぎません。生命保険会社が標準利率より高い予定利率を(勝手に)付与することは可能です。ただしその場合は、以前のエントリにも試算を書きましたが、契約当初はそれなりの積み立て負担が会社に発生します。したがって保険料のダンピングをすると負担に苦しむのは生命保険会社のほうなので、保険料が下げやすくなったからといっても普通は市中金利に応じた程度にしか下げないんですよね。「競争が過熱する可能性もある」というのはこういう記事ではお約束の表現かもしれませんが、まあないだろと。

現在の標準利率設定ルールが市中金利の上昇に比べて大幅に遅行する上に上昇余地が小さすぎることは、導入当初からアクチュアリーの間ではよく知られていました。分かっていてルールを変更してこなかったということは、少なくとも今までは金利上昇リスクを本気で考えてはいなかったということなのでしょうね。それが2年で2%の物価目標ということになり、にわかに金利上昇の現実味が増してきたことから改正がなされることになった、ということかと思います。

ちなみに、これとまったく同じ経験を、過去の米国がしています。米国ではもともと法定責任準備金の予定利率は最高3.5%となっていましたが、金利上昇時にはこの「最高3..5%」という予定利率が足かせとなって、他の金融商品に比べて見劣りすることとなりました。その結果、貯蓄性保険を解約して他金融商品に乗り換える動きが進み、米国生保から資金が流出します。この経験を踏まえて、米国の責任準備金積み立てルールは、市中金利への連動性を高めたダイナミック評価利率へと変更されます。

米国のこの動きが1980年代のことですから、日本の規制はおよそ30年遅れで米国を追っていることになります。まあ、実際に金利上昇時の資金流出を経験する前に手当てがなされそうなのがせめてもの救いではありますが。

しかしいずれにせよ、重要なのは保険会社の側がちゃんとALMを行っているかどうか、ですね。

現在のルール下では2013年4月からの標準利率は1%になっていますが、実際の10年金利は4月以降1%を超えたことは一度もありません。このような環境に対応して、多くの会社は一時払い商品の予定利率を1%よりも低い利率とし、かつ頻繁に変更したり、あるいは販売停止にしたりしています。

今回の規制変更は、金利上昇時においてもそのような利率変更の自由度が確保されるということであり、逆に言えば、金利上昇時に(標準利率がどうであるかにかかわらず)ちゃんと商品をキャッチアップさせる仕組みを作っておかなければ、会社が思わぬリスクを抱えてしまう、ということなのです。

2013年11月 1日 (金)

書評:保険会社の「経済価値ベース」経営

こんなタイトルの本、買わないわけにはいきませんな。

本書は保険会社をめぐるERMやORSAといったリスク管理やソルベンシー規制の最新動向がまとめられています。監査法人が書かれているだけあって、IASBやFASBをはじめとした財務報告に関する検討の最新動向も載っています。

その財務報告の一環として、エンベディッド・バリュー(EV)の状況についても掲載されていたので、まずはそこを眺めてみました。

EVに関する記述は340ページから始まるのですが、最初のページからツッコみたくなる箇所が。

(将来利益を)リスクフリーレートで割り戻す

P340 図表4-4-1

いえいえ、EVの一般論を述べるなら「リスクフリーレート」はまずいでしょ。むしろ「リスク割引率」ですよ。

で、次にP345の図表4-4-3には日本のEV開示での必要資本の設定水準が載っているのですが、「400%」とか「600%」といった数字しか載っていません。まあ、これを読む人だったら、この数字がソルベンシー・マージン比率であることは分かるのでしょうが、本として説明不足の感は否めないですね。これでは「必要資本はソルベンシー・マージン基準をベースに設定するものだ」と誤解されかねません。

それにこの表では、T&DグループがEEVになってます。T&Dグループは2013年3月期決算からMCEVに移行しているのに。(まあ、本書の序文には「本書に記載の内容は、2013年3月末時点までに公表されている資料に基づいて記述されている」とあるので、あながち間違いとは言えませんが、他の部分で2013年7月時点の情報が入っていたりするのを見ると、ちゃんとアップデートしてくれんかな、と思ってしまうわけです。)

それに、EEV/MCEV開示会社としては、三井住友海上あいおい生命と三井住友海上プライマリー生命が抜けてますね。両社とも2012年3月期からEEVを開示しているので、これは完全に「欠落」というしかありません。(さらに言うならば、2013年8月9日にかんぽ生命がEEVを開示しています。)

次に図表4-4-4「オプション性や保証性を有する保険契約の主な例」。

「変額商品の最低保証」が挙げられており、「インザマネーで解約率が低下し、最低保証のコストが上昇する」と説明がなされています。これは正しくありません。最低保証のある変額商品については、運用が良くて最低保証額を上回っている場合(アウトオブザマネー)では運用成果が契約者に帰属し、逆の場合(インザマネー)では運用の損失を保険会社が負って、契約者には最低保証額を支払うことになります。つまり最低保証そのものにオプション性が存在するため、解約率うんぬんは関係ありません。

(2013.11.1追記 「解約率は関係ない」は少々書きすぎでした。正確には、「最低保証付き変額商品について解約率によるオプション性もありうるが、仮に解約率が運用成績によって変わらなかったとしてもオプション性は存在する」ということが言いたかったことです。)

逆に、もう一つ例示されている「利率保証型商品」については、運用成果によって契約者の解約行動が変わらない限り、オプション性は生じません。その意味では、(本文も含めて)記述がなんだかねじれています。

あとはP373の図表4-6-2の見出しが「統合的な財務報告の」で絶筆していたり、P377の「基本原則と内容要素」で「将来未通し」と書いていたり(正しくは「将来見通し」)と、細かいところが多少目につきました。

…うーん、間違いのあら探しになってしまいましたが、最新情報をまとめた本が出るのは大事なんですよね。問題は急いで出版しないといけないことで、校正が不十分なまま出てしまうと。

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