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2013年11月 1日 (金)

書評:保険会社の「経済価値ベース」経営

こんなタイトルの本、買わないわけにはいきませんな。

本書は保険会社をめぐるERMやORSAといったリスク管理やソルベンシー規制の最新動向がまとめられています。監査法人が書かれているだけあって、IASBやFASBをはじめとした財務報告に関する検討の最新動向も載っています。

その財務報告の一環として、エンベディッド・バリュー(EV)の状況についても掲載されていたので、まずはそこを眺めてみました。

EVに関する記述は340ページから始まるのですが、最初のページからツッコみたくなる箇所が。

(将来利益を)リスクフリーレートで割り戻す

P340 図表4-4-1

いえいえ、EVの一般論を述べるなら「リスクフリーレート」はまずいでしょ。むしろ「リスク割引率」ですよ。

で、次にP345の図表4-4-3には日本のEV開示での必要資本の設定水準が載っているのですが、「400%」とか「600%」といった数字しか載っていません。まあ、これを読む人だったら、この数字がソルベンシー・マージン比率であることは分かるのでしょうが、本として説明不足の感は否めないですね。これでは「必要資本はソルベンシー・マージン基準をベースに設定するものだ」と誤解されかねません。

それにこの表では、T&DグループがEEVになってます。T&Dグループは2013年3月期決算からMCEVに移行しているのに。(まあ、本書の序文には「本書に記載の内容は、2013年3月末時点までに公表されている資料に基づいて記述されている」とあるので、あながち間違いとは言えませんが、他の部分で2013年7月時点の情報が入っていたりするのを見ると、ちゃんとアップデートしてくれんかな、と思ってしまうわけです。)

それに、EEV/MCEV開示会社としては、三井住友海上あいおい生命と三井住友海上プライマリー生命が抜けてますね。両社とも2012年3月期からEEVを開示しているので、これは完全に「欠落」というしかありません。(さらに言うならば、2013年8月9日にかんぽ生命がEEVを開示しています。)

次に図表4-4-4「オプション性や保証性を有する保険契約の主な例」。

「変額商品の最低保証」が挙げられており、「インザマネーで解約率が低下し、最低保証のコストが上昇する」と説明がなされています。これは正しくありません。最低保証のある変額商品については、運用が良くて最低保証額を上回っている場合(アウトオブザマネー)では運用成果が契約者に帰属し、逆の場合(インザマネー)では運用の損失を保険会社が負って、契約者には最低保証額を支払うことになります。つまり最低保証そのものにオプション性が存在するため、解約率うんぬんは関係ありません。

(2013.11.1追記 「解約率は関係ない」は少々書きすぎでした。正確には、「最低保証付き変額商品について解約率によるオプション性もありうるが、仮に解約率が運用成績によって変わらなかったとしてもオプション性は存在する」ということが言いたかったことです。)

逆に、もう一つ例示されている「利率保証型商品」については、運用成果によって契約者の解約行動が変わらない限り、オプション性は生じません。その意味では、(本文も含めて)記述がなんだかねじれています。

あとはP373の図表4-6-2の見出しが「統合的な財務報告の」で絶筆していたり、P377の「基本原則と内容要素」で「将来未通し」と書いていたり(正しくは「将来見通し」)と、細かいところが多少目につきました。

…うーん、間違いのあら探しになってしまいましたが、最新情報をまとめた本が出るのは大事なんですよね。問題は急いで出版しないといけないことで、校正が不十分なまま出てしまうと。

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コメント

利率保証型商品のコメントはほんとに正しいですか?付与利率の保証自体に価値があり、動的解約は必須ではないと考えましたが、、

>pwcさん
「利率保証型商品」って、固定された利率を保証する商品、つまり通常の生命保険商品だと理解しました。そうであれば、運用がよかった時の収益は保険会社に帰属しますし、悪かった時の損失も保険会社に帰属するので、非対称にはなりません。
非対称性が生じるのは、契約者配当があったり、運用の良し悪しで解約行動が変わったりと、別の要素を考慮したときです。
あ、ちなみに、「最低保証利率付きの利率変動型商品」であればそれ自身にオプション性はあります。

こんばんは。すいません、本を読まずブログだけみて、利率変動型保険をイメージしてコメントしてしまいました。いわゆる普通の予定利率保証の商品のことでしたか。

>pwcさん
著者の真意は分かりませんが、「利率保証型商品」という表現では、利率変動型だとは断定できませんよね。

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