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2014年4月11日 (金)

標準利率設定ルール改正(案)(その4)(完)

さて、長々と解釈してきた「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)」ですが、今回はまとめとして全体を通じたコメントを述べたいと思います。

1: 対象商品が分かりにくい。

第一号・第二号保険契約の定義についてはその2で取り上げましたが、けっこう解釈が複雑です。また、その際にも書いたとおり、特に第二号保険契約の

当該保険金の額が保険料の額又は被保険者のために積み立てた金額に比して妥当なもの

というのが不明確です(一応「一時払年金」と類推しているのですが)。監督指針か何かで規定されるのでしょうが、規定としてはちょっと漠然としすぎてますよね。

2: 一時払終身の対象利率が短すぎる。

今回の改正の趣旨は、上記の改正案のページで次のように書かれています。

○ 今般、制度創設当時(平成8年)と比べると、

(1) 一時払い終身保険など貯蓄性の高い商品の取扱いの増加、

(2) 超長期国債の流通量の増加など保険会社の運用手段の多様化、

(3) 貯蓄性の高い商品の負債特性に対応した資産運用手法(ALM)の高度化

等、状況の変化が認められることから、告示を改正し、標準利率の改定方法の見直しを行う。

しかし、一時払終身の対象利率は、10年国債と20年国債を50%:50%で保有するようなポートフォリオを想定していることになります。私の感覚では、これはいかにも短いように思われます。

3: 安全率係数は必要なのか?

標準利率の設定ルールは、「対象利率の決定において、国債の、短期の過去平均と長期の過去平均の低いほうを取る」という部分と、基準利率の決定において安全率係数をかける」という部分で、金利を低く設定する仕組みが二重にかかっています。利率を低く設定するというのは負債(責任準備金)評価としては保守的ということになるのですが、一時払商品においてはマッチングをしてしまえば資産と負債がパラレルに動くことになり、将来の金利変動のリスクは比較的小さく抑えられます。解約の急増などによるデュレーションの変化で金利変動の影響が拡大するリスクはありますが、これは責任準備金を保守的に評価したところでカバーできる類のリスクではないと思います。利率を低く設定することで、むしろ資産の評価利率と乖離した負債評価利率を用いなければならないことになり、ALMが困難になる面もあるのではないか、という気がします。

4: 0.25%刻みは粗すぎるのではないか?

11月に日経がこの改正の記事を載せたときのエントリで述べたとおり、実態として各社は、現在の標準利率(1%)よりも低い予定利率で一時払商品を販売しています。このとき、各社の予定利率は0.1%程度の刻みになっているものが多いようです。

現在のように金利が低いと、0.25%という刻みは相対的に大きすぎます。1%よりも低い水準でありうる標準利率は、(0%は論外としても)0.25%、0.5%、0.75%の3通りしかありません。前回のエントリにも書きましたが、現在の金利水準で新しいルールを適用すると、一時払養老・一時払年金の標準利率は0.5%になってしまいます。そのような環境下で10年国債金利が0.7%になっても、標準利率は改定されず、従って生保会社は0.7%の一時払養老を販売したくてもできません(できなくはないが、初期の生保会社の負担が大きくなります)。現行制度下では10年国債金利が0.7%なら予定利率0.7%の一時払養老を普通に売ることができるので、今回の改正はむしろ制約を強めるものとなってしまっています。

5: 肝心の金利上昇には対応していない。

今回の改正案について、日経の記事はこのように書いています。

一時払い終身保険などの貯蓄性保険が対象で、金利が上がる際に生保が機動的に保険料を引き下げやすくなる。

しかし、前回のエントリで見たとおり、基準金利設定における安全率係数は現行のものよりも高金利に厳しいものになっています。上に述べたとおり、もともと利率を低く設定する方向に強いバイアスがかかっている標準利率のルールにおいて、高い金利水準での安全率係数を厳しく設定するのは、もはや高金利では一時払商品を売るなと言っているのではないかとも思われます。(金利差の分は配当で支払えばいいということなのかもしれませんが、販売時点で標準責任準備金差額の大幅な会社負担が生じるという点は配当では解消されませんし、販売時に将来の期待配当をどこまで説明できるのかという点も疑問が残ります。)

これまた前回のエントリで示しましたが、金利(対象利率)が7%のときには現行ルールでも基準金利は3.9%、新ルールでは3.4%と半分以下になってしまいます。1990年には10年国債・20年国債とも7%を超える利回りとなっていました。そのような金利水準が再来したとき、3.5%程度の予定利率の商品を誰が買うんでしょうね…

結論として、今回の告示改正案はあまり「いい方向」にならないのではないか、という感覚を持っています。4.で述べたとおり、金利が低い時には現在よりも実質的な制約がきびしくなります(一時払養老で言えば、現在:1%以下で自由に決められるvs改正案:0.5%に実質的に固定される)し、かといって、5.で述べたとおり、金利上昇時に効果的に働くルールかというとそうでもありません。現行ルールでは金利上昇の恩恵が標準利率に及ぶのは10年かかりますが、新ルールでは一時払商品は1年で効果が及ぶ、と、部分的によくなっているところはあるものの、この負債評価ルールでちゃんとしたALMをやれ、というのはなかなかに難しい注文のような気がします。

(念のため申し上げますが、あくまでも個人的なコメントということで。)

P.S. ためしに条文のかたちにしてみました。もともと新旧対比表になっているので、こうしたからといってあまり分かりやすくはなっていないのですが、まあご参考に。

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