標準利率設定ルール改正(案)
本日(正確には昨日ですが)、とても長い名前の法令改正案がパブリック・コメントに付されました。
この表題とURLをtweetしようとしたら、なんと140文字を超えてしまいました。長えよ。
それはともかく、この改正は、昨年の11月に日経が報道した「生命保険料 下げやすく」という記事が具体的に法令(告示)の案となったものです。記事になった際、私もエントリとして上げました。(今回の案の公表に合わせて、再度記事が上がってます:金利上昇時、生保保険料下げやすく 金融庁が制度見直し)
保険会社は将来の保険金の支払いのために「責任準備金」というものを積み立てますが、今回改正の対象となった告示は、その責任準備金の積み立てについて規定するものです。規定する要素は大きく「積立方式」「予定死亡率」「予定利率」がありますが、今回の改正はこのうち予定利率の規定を見直すというものです。
この予定利率(「標準利率」と言います)は、現在、国債の利回りを基準に、次のようなステップで決められます。
- 「対象利率」を決める。現在のルールでは、対象利率は、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」と「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」のうち低いほう。
- 対象利率を元に「基準利率」を決める。基準利率とは、対象利率に一定の安全率(掛け目)をかけたもの。例えば対象利率が1%の場合、掛け目は0.9ですので、基準利率は0.9%となります。
- 現在の標準利率と基準利率を比べて、一定の幅以上の乖離がある場合、標準利率を改定する。現在は0.5%以上の乖離があった場合、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になります。
- 1~3の判定は、現在、年1回、10月に行い、改定は翌年4月からの契約に適用されます。
新しい標準利率設定ルール(平成27年(2015年)4月の契約から適用されます)は、上記1~4のステップが商品によって異なります。
まず一時払終身保険については、次のようなルールになります(太字が今のルールと異なるところ)。
- 対象利率は、「『過去3ヶ月の10年国債の流通利回りの平均』と『過去3ヶ月の20年国債の流通利回りの平均』の和半」と、「『過去12ヶ月の10年国債の流通利回りの平均』と『過去12ヶ月の20年国債の流通利回りの平均』の和半」のうち低いほう。
- 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる。
- 標準利率は、0.25%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる。
- 1~3の判定は、年4回、1月・4月・7月・10月に行い、改定は判定の3ヶ月後からの契約が対象。
次に一時払養老保険は次のようなルール。
- 対象利率は、「過去3ヶ月の10年国債の流通利回りの平均」と、「過去12ヶ月の10年国債の流通利回りの平均」のうち低いほう。
- 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる(一時払終身保険と同じものを使う)。
- 標準利率は、0.25%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる。
- 1~3の判定は、年4回、1月・4月・7月・10月に行い、改定は判定の3ヶ月後からの契約が対象。
ステップのうち1だけが一時払終身保険と違います。ただし、保険期間20年以上の一時払養老保険は、一時払終身保険と同じルールを適用することができます。
一時払保険以外は、次のようなルールになります。
- 対象利率は、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」と、「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」のうち低いほう(現行と同じ)。
- 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる(一時払終身保険と同じものを使う)。
- 標準利率は、0.5%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる(現行と同じ)。
- 1~3の判定は、年1回、10月に行い、改定は翌年4月からの契約が対象(現行と同じ)。
また、予定利率変動型保険について、予定利率改定時点で適用された上記の標準利率ルールを当てはめることも明記されています。
ところで、上でサラっと「一時払終身保険」「一時払養老保険」と書きましたが、両者の中間的なものや、医療保障・生存保障がくっついたものなどが考えられるため、実際にはもっと細かく規定されています。その規定が非常にわかりにくいのですが、その点は後日ということで、本日はこれまでとさせていただきます。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
こんにちは。
分かりやすいご解説ありがとうございます。ニュースを見て気になって調べていたのですが、本解説が大変参考になりました。
ところで、一つご質問がありコメントに書かせてもらいます。
「一時払保険以外は、次のようなルールになります。」とブログ記事にあり、安全率のかけ目のみ変更となっています。
これは本改正案の第7項に対応して書かれたと思うのですが、第7項では、「第一号保険契約及び第二号保険契約以外」が対象と読める気がします。
第一号と第二号保険契約でかつ、一時払いでない保険に対する記載はどこに該当するのでしょうか?
頓珍漢な質問をしているかもしれませんが、もしよろしければコメント頂戴できたらと存じます。
投稿: | 2014年4月 2日 (水) 10時14分
細かいところは今日のエントリをご覧いただきたいのですが、第一号と第二号保険契約はいずれも最初に「一時払であること」が要件になっています。つまり、「第一号と第二号保険契約でかつ、一時払いでない保険」は存在しません。
投稿: s_iwk | 2014年4月 4日 (金) 00時12分
ありがとうございます。
新しい記事とあわせて、大変勉強になりました。
新しい方式で、ざっくり計算してみたのですが。
もし、直近(4月頭くらい)の金利水準でずっと推移した場合、一時払終身では現状の1%となるようですが、一時払い養老では0.5%になりそうですね。
金利水準が上がれば、それに応じて標準利率も上がるとのことですが、現状水準のままだと標準利率が下がる可能性もありますね。
投稿: | 2014年4月 7日 (月) 08時02分