« 2014年4月 | トップページ | 2014年6月 »

2014年5月

2014年5月22日 (木)

性別と生命保険

興味深いニュースを見ました。

記事自体は「性同一性障害」という話題でくくってはいますが、これはやはり「性同一性障害」というより「ホルモン投与」が理由でしょうね。とはいいながら、一般に各生命保険会社が加入時の審査においてどのような条件を考慮しているのかは企業秘密であり、分かりません。貸金業や銀行業において貸付可否の判断の理由が一般に明らかにされないのと同じく、そのノウハウは経営の根幹であり、また明らかになれば抜け穴を狙ってくる者が必ず現れるからです。

興味深いのは記事中のもう一つの話題である「性同一性障害の者は加入している生命保険の性別を変更できるか?」というもの。

性別には「生物学的性」と「社会的・文化的性」があります。正確な表現ではないかもしれませんがそこはご容赦ください。ここでは単純に前者を「性染色体がXYであるかXXであるかによって分けられるもの」、後者をそれ以外の要素と考えます。ついでに社会的・文化的性という表現は長ったらしいので便宜上「ジェンダー」と呼ぶことにします。

さて、生命保険における「性別」はどちらを前提としているかといえば、大きくは「生物学的性」だと思われます。例えば生物学的性が男性の場合、卵巣がんや子宮がんに罹患する確率はゼロです。逆に生物学的性が女性の場合には精巣がんに罹患する確率はゼロでしょう。そしてそのような罹患率の違いは、死亡率の差異にも現れると考えられます。このように考えると、性同一性障害であることは生命保険の契約上の性別を変更する理由にはなりにくいと思われます。

しかし死亡率の性差要因は生物学的性だけとは言えません。端的には、不慮の事故による死亡や自殺の男女差などは、生物学的性よりもむしろジェンダーに左右されるところが大きいでしょう。

ということで厳密なことを言えば、上記の通り、死因を生物学的性にありよる要因とジェンダーによる要因に分け、その加重平均を予定死亡率として用いた保険料を使うべき、ということになりますが、予定死亡率については当局の認可が必要なためそうそう変更できません。そもそも各死因が2つの要因のどちらか一方に分けられるものとも思われません。

したがって実際に変更するかどうかは生命保険会社の裁量によるところがあると思われます。法的なことを言えば、日本には性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律というのがあり、その第4条には次のように書かれています。

(性別の取扱いの変更の審判を受けた者に関する法令上の取扱い)

第四条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法 (明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。

2 前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。

この第2項を読む限りでは、すでに加入している保険契約について、加入時点の性別の判断を変える必要はない、と読めます。冒頭の記事では

性同一性障害特例法は、性別の変更は権利義務に影響しないと定めているのに、契約時の性別は変更できないと認めてもらえなかった。

と、真逆の主張をしているのですが、個人的に解釈するところでは「法律上は変更不要だが、保険契約上の性別と本人が認識する性別が異なることによる精神的苦痛を避けるため、変更を認める生命保険会社もある」ということかと思っています。

しかし記事中で首をかしげるのが、その前の

20年以上契約を結んでいた生保の解約を迫られた。

という箇所です。生命保険会社の側から生命保険契約を解約(この場合、通常「解除」といいます)することは保険法によって制限されており、性別の変更を理由に解除されるということは考えにくいです。何か告知義務違反がその時に判明したのでしょうか。実際に「解約を迫られた」のなら、むしろ金融庁に通報してもいいような案件に思えますが…

2014年5月15日 (木)

アクチュアリー採用について(コメントへの返信に代えて)

数年前に「アクチュアリー採用(する側の気持ち)-独断と偏見」というエントリを書いたのですが、このエントリにいまだにコメントが来ます。就活中(あるいは就活を考えている)学生・院生の方々が多いです。

で、先日もまたいただきました。ちょっと回答が長くなりそうなのと、なんか今までの回答で誤解されている部分がありそうなので、エントリ立てることにしました。

コメント(というかご質問)は次のようなものです。

初めまして。いつもブログを拝見しております。現在経済学部4年で経済学研究科への大学院進学を希望している者です。2つほど質問があります。

「アクチュアリーは専門職ですので、その専門性を高める勉強を大学や大学院で行っていれば、通常は有利になると考えられます。」とありますが、この「専門性を高める勉強」とは理学研究科や工学研究科などの研究室で保険数学を専攻しているということでしょうか。

経済学での統計(計量経済学など)あるいはデータマイニングなどの専攻というのはアクチュアリー採用において不利となるのでしょうか。

また、近年学生の段階で複数の科目に合格している方々が増えている印象があるのですが、採用において要求される科目数も増加傾向にあるのでしょうか。

私自身は統計に興味がありそれを活かせる職業としてアクチュアリーを志望しているのですが、学部時代を含めて数学をずっとされてきた方々に採用で勝てるのかという不安があります。お忙しい中だとは思いますが、よろしくお願いいたします。

まず、元のエントリの最初のほうを見ていただきたいのです。こう書いています。

※当然ながら、これは自分の経験にもとづくものなので、あまり一般化しすぎないように。会社や面接官によって全然違うことがある。

したがって、ご質問に対する身もフタもない答えとしては「そんな細かいこと、わかりません」。

とはいえ何も答えないのも失礼ですから、私の考えを説明します。

まず、「保険数学専攻」が有利になるかどうかについて。少なくとも私自身は「アクチュアリーの専門性を高める勉強」が保険数学専攻に限られるとは一言も書いていませんし思ってもいません。そもそも私が学生の時にはそんな専攻はありませんでした。あったけど私が知らなかっただけかもしれませんが。

逆に、「経済学での統計(計量経済学など)あるいはデータマイニングなどの専攻」が不利になるかどうか、ですが。これは選考の際に不利になるかどうか、ということでしょうか? 専攻だけを見て「こいつはアクチュアリーに向いてない」とか判断できると思います?

アクチュアリーには、保険数学専攻に限らないのは言わずもがな、さまざまな専攻の出身者がいます。数学だけに限っても代数・幾何・解析のいずれもいますし、応用数学出身の者もいます。物理や化学を専攻してました、というアクチュアリーもたくさん知っていますし、経済学部や法学部の出身者もいます。これらさまざまな背景をもったアクチュアリーが採用する側にいる以上、「アクチュアリー的な専攻じゃないからダメ」ということは考えにくいでしょう。

さて次に「就職活動中に必要なアクチュアリー試験合格科目数」ですが、これについても「知らんがな」としか言いようがありません。その他がまったく同じ評価であれば合格科目数の多い方が有利になるとは言えるでしょうが、そもそも「その他がまったく同じ評価」という仮定が非現実的すぎて意味がありません。

昔話になりますが、私が学生のときにはそもそもアクチュアリー試験の受験資格は「大学卒業」でしたので、在学中に受けようと思ったら特別な手続きが必要でした。大学院卒での就職志望者も少なかった頃ですし、その意味では在学中の合格科目数について考慮する必要がありませんでした。

今では基本的に大学3年生から受けることができますので、状況は大きく違うでしょう。今であれば、アクチュアリー志望でありながら就活の時点でアクチュアリー試験をまったく受けたことがない、という人に対しては「なんで?」と聞くことはあるかもしれません。(ただこれも、「受けたことがないから評価を低くする」ということは、少なくとも私は考えません。)

だからそもそも「採用において要求される科目数」なんてないです。いや、今はあるかもしれないけど、知りません。必要なら会社説明会で聞けばいいのではないですか? 普通は「ない」と思っていますし、だからこそ、アクチュアリー試験ではない、数学の試験を各社独自でやっているのだと思います。(今もやってますよね?)

なお、学生のうちにアクチュアリー試験を受けることについては、「在学中のアクチュアリー試験」というエントリも参考にしてください。かように考え方が分かれるということは、在学中に何科目合格しているかについての評価もさまざま、ということです。

なんだか突き放した物言いになってしまいましたが、ともかく応援しています。

2014年5月 7日 (水)

外資系金融のExcel作成術

先日、こんなものを見かけました。

東洋経済の本の広告について

『外資系金融のExcel作成術』の著者、慎泰俊さんの、自分の思いとは離れた広告を出されてしまったことに対する嘆きです。

そこで、twitterで次のように書いたところ、

即、著者ご本人からリプライが来るとは驚きました。

そして今日、日経ビジネスオンラインで、編集担当者による本書の紹介記事を見たのです。

絶賛!オンライン堂書店:Excelニンジャ秘伝の巻物はやっぱりすごいでござる

エントリタイトルから想像がつくかもしれませんが、担当者は「エクセルニンジャ」という呼称にすごく引きつけられて、慎さんに本書の執筆を依頼しています。そこには「誰も知らない裏ワザ」的な内容を期待することが窺われます。

そしてこの本を書籍として出版可能かどうか(要は採算がとれるかどうか)について、担当者は慎さんにいくつかの確認をするのですが、その中で決定的に「すれ違ったな」と感じられたのが以下の部分でした。

最後の関門は読者です。書く気とノウハウがあっても読者がいなければ商業出版は成立しません。私が知らないだけで、実はこうしたノウハウはすでに業界で知られているのであれば、本を出しても買う読者がいません。

ここに書かれてあるノウハウは、本当にみなさんご存じないのでしょうか。率直に聞いてみると「あまり知られていない」とのこと。外資の世界では多少標準化されているものの、日本では、先輩や上司が作った表を代々引き継いでいたり、我流で作ったりしているのだそうで、だから、日本企業で働く人びとが作ったExcelのほとんどは、実は世界のビジネスパーソンからは、「見にくい」「醜い」と不興を買っているとのこと。

それは良かった、いや大変だ!

日本中に困っている人がいるということじゃないですか。一刻も早く彼らを助けてあげましょう、ということで、その場で執筆を依頼し、本書のプロジェクトはスタートしたのです。

本書を手に取ってみると分かりますが、それほど「みんなが知らないノウハウ」がつまっている本ではないのです。むしろ「おさえるべき基本」がつまっている本なのです。その意味では、

ここに書かれてあるノウハウは、本当にみなさんご存じないのでしょうか。

という問いに対しては、むしろ「知っているかもしれないけど、守られていない」というのが正確な答えであるように思います。実際にこの通りのやり取りだったのかは知るべくもありませんが、小さなボタンの掛け違いだったのだろうなあ、と思わざるをえません。

ともかく、本書はいい本だと思います。twitter上には各業務の専門分野において私の尊敬する人がたくさんいますが、そのような方々の多くの本書に対する反応は「書店で見てみたけど、自分は買わない」というものでした。買わない理由は「すでに実践しているから」。逆に言えば、優秀な方々が実践していることがたった1冊で手に入ってしまうという本だ、ということでもあるのです。その意味で以下のようにtweetしました。

まあみなさん、書店で一度ご覧いただき、このtweetの真偽をお確かめください。

« 2014年4月 | トップページ | 2014年6月 »

フォト
無料ブログはココログ
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

最近のトラックバック