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2015年1月

2015年1月11日 (日)

書評「12大事件でよむ現代金融入門」

この年末年始はいくつかの良書に出逢えましたが、これもその一つです。

まずは目次を挙げましょう。

  • 第1章 ニクソン・ショックの衝撃-現代経済が"金離れ"したとき
  • 第2章 中南米危機にみる累積債務問題の重石-原油が世界をかき回す
  • 第3章 プラザ合意の落とし物-強いドルはアメリカの国益?
  • 第4章 ブラック・マンデーの悪夢-リスク・マネジメントの始まり
  • 第5章 日本のバブル崩壊による痛手-邦銀の凋落がはじまった
  • 第6章 ポンド危機で突かれた欧州通貨制度の綻び-ヘッジファンドの台頭と通貨制度の脆弱さ
  • 第7章 P&Gなど事故多発…デリバディブズの挫折-金融工学の暴走とリーマン危機への伏線
  • 第8章 アジア通貨危機で再び新興国の連鎖破綻-新興国リスクとドル依存体制の限界
  • 第9章 ITバブル崩壊の狂騒-「ニュー・エコノミー」という幻想と変貌する金融機関
  • 第10章 リーマン危機に連なる"ゲーム"-アメリカ型金融モデルの崩壊
  • 第11章 ギリシャ財政不安でユーロ絶体絶命-ユーロ圏の南北問題と問われつづける共同体理念
  • 第12章 終わらないフラジャイル・ワールド-次なる震源地はどこだ?

金融のリスク管理に携わっていると、過去の実績に基づいて何かを行う、ということはしばしば批判の対象となります。例えばヒストリカル・ボラティリティに基づくVaRはその遅行性からリスク指標としての有効性に疑問が呈されますし、ヒストリカル・ストレスシナリオは「もう一回ブラック・マンデーが起こると思うか?」と冷笑されます。

しかし、本書を読んで思うのは「歴史は繰り返す」であり、著者もそう書いています。

つぶさに市場経済を観察しながら抱くのは、金融にはあまり学習効果が効かない、という認識です。経済社会は何度も危機に直面し、そのたびに教訓を得たはずなのに、数年後にまた似たような危機を繰り返している

もちろん、それはまったく同じことがもう一度起こるということではありません。ただ、振り返ってみれば似たような事象は過去にいくらでも起こっているのです。

たとえば直近の欧州通貨危機。これは、「金融政策に強い『縛り』がある中で財政政策しか対処方法を持たない国は、金融環境の変化に対してきわめて脆弱である」という状況から生じたと考えれば、ドルペッグであることによる金融政策と財政政策の間隙をヘッジファンドに突かれたアジア通貨危機と同じです。そのように考えると、ユーロの危機は、金融政策と財政政策という二つの手段を取りうるようにならない限り(つまりユーロという通貨を放棄しない限り)抱えつづけるとも考えられます。

日本においては歴史的な低金利となっていますが、過去に起こった金利の急騰(=国債の暴落)として、タテホ・ショックなどがあります。

その後も長期金利は超低水準で推移しましたが、徐々に「国債バブル」への警戒感が強まり、一方的に金利が低下する地合いは終焉を迎えます。そして9月に、鉄工所の耐火煉瓦材料として利用される電融マグネシアの世界的メーカーであったタテホ化学工業が、国債先物で286億円の損失を出したことが明らかになりました。損失額は同社年間売上高の約4倍にものぼるといわれました。この事件は「タテホ・ショック」として、海外でも報道されるほどの注目を集めます。本件も氷山の一角にすぎないのではないかという思惑が広まって、株式市場や債券市場が急落したからです。長期金利は、5月の2.55%から10月にはなんと6%以上に跳ね上がったのでした。

この金利低下は元々黒田日銀のQQEによって一層強まっていますが、これにはリスク性資産(特に株式)の価格上昇という副作用が伴っています。アベノミクスの喧伝のされ方もあって、これが誤ったメッセージとなっている可能性に著者も懸念を表明しています。

時間を買うはずの金融政策が、「金融政策によって、以前のような経済成長率を取り戻せる」という誤ったメッセージを人びとに与えている側面は否定できないのです。

また著者は、ウクライナ問題へのロシアの対応から、冷戦はまだ完全には終結していない、との認識を示します。

つまり、現在の私たちは、超金融緩和時代の終焉とポスト冷戦時代の終焉という2つの巨流が、一気に交差する局面に立たされているのです。そうした中で、将来には、今までにはなかったパターンの危機が起きる可能性があります。

しかしながら、これまで「歴史は繰り返す」をずっと経験してきたわれわれにとって、今までになかったことが今後起こりうるかもしれないにせよ、学ぶべきは歴史であると思われます。

本書は、その時代を知らない者にとってはまさにタイトルのとおり「入門」であり、その時代を知る者にとっては再び当時をひもとくきっかけになる本だと思います。

2015年1月 2日 (金)

書評「システム障害はなぜ起きたか」

サブタイトルに「みずほの教訓」とあるとおり、みずほフィナンシャルグループが起こしたシステム障害の原因を考察するものです。

といっても、実はこれ、2002年の出版です。みずほは過去に2度、大規模なシステム障害を起こしていますが、これは最初のシステム障害に関するものです。

日経コンピュータの連載をまとめたとあって、他の単なる批判本とは一線を画しています。そのことは、本書の出版の趣旨に如実に表れています。

水に落ちた犬を皆でたたくのは、日本のメディアの悪い癖である。 過去の例を見ると、事故や障害の最中は報道が加熱するが、収束するとなんとなくうやむやになっていく。読者もまた、自分にも同じトラブルが起こりかねないことを忘れがちだ。将来に備えた教訓を引き出していないから、数年後に同じことがまた繰り返される。

こうした事態を避けるために、情報化の総合誌である『日経コンピュータ』編集部は、本書を緊急出版する。

内容は、いわゆるメインフレームに詳しくない者にも分かりやすく書かれています。例えば銀行システムの肝となる勘定系システムについて、その複雑さ・膨大さは次のように書かれています。

本稼働から15年あまりが経過した勘定系システムは都市銀行の場合、利用しているコンピューター・プログラムを見ると、全体で1億行(ライン)に迫るまで膨らんでいる。1人のエンジニアが1カ月仕事をしたとして、開発できるプログラムは、500〜800行と言われる。単純計算すると、1億行を開発するには、1000人のエンジニアが10年間開発を続けないといけない量である。

このような大規模なシステムの統合に関して、日経コンピュータの記者は、会見の場面で、経営トップのシステム統合を現場任せとする認識の低さに危機感を持ちます。案の定、現場では3行による綱引きが起こっていました。旧富士銀のシステムのほうが旧第一勧銀のシステムよりも優れていることが認識されながら、旧第一勧銀の勘定系システムを残すことについて、行司役を求められたコンサルティング会社がレポートを書きます。

確かに両行の勘定系システムには若干の差はあるものの、この差は2002年4月に新銀行を作るまでに解消できる。つまり、第一勧銀の勘定系システムを機能強化して、富士銀と同等の機能を盛り込めばよい。よって、「第一勧銀と富士銀のシステムに有意差はない」という理屈を作ったのである。A.T.カーニーは、こうした主旨の報告書を提出した。(略)

三行はこの報告書作成料として4000万円を予定していたが、割り勘にできないという理由で、3900万円に値切った。

そして2002年4月1日のシステム稼働を迎え、障害が発生します。システム部門は不眠不休で作業を続けたものの、口座振替の未処理データが完全になくなるまで18日を要することとなりました。

このあたりのトラブルの詳細は本書を読んでいただければいいのですが、本書の白眉は、みずほの事例にとどまらず、成功事例をきちんと取り上げていることです。

成功事例の筆頭に上がっているのは北洋銀行です。この銀行は、破綻した北海道拓殖銀行の事業継承に伴い、なんと旧拓銀のシステムに一本化します。事務とシステムは分かちがたく結びついているので、このことは、社内用語から事務のやり方から何から、北洋銀行側がすべて旧拓銀方式に合わせるということを意味しています。このことが可能になったのは、統合を率いたのが経営トップ(当時副頭取、出版時点で頭取)であったこと、それにシステム以外の部門の理解を得られたこととされています。

この他にも東京三菱銀行(システム部門と利用部門からなるプロジェクトチームを組成し、両者の意思疎通をスムーズに実現)やUFJ銀行(事務部門が事務変更の受け入れを早期に表明)といった事例が挙げられています。

このように成功事例と失敗事例の双方を取り上げることで、実務に携わる人間にとっては何を抑えておかなければならないかがより明確になっています。

けっこう古い本(図書館で借りたのですが、ちょっと手が痒くなるくらい)だったのですが、いや、とても実践的で参考になる良書でした。

こちらは2度目のシステム障害の際に書かれた本。同じく担当者目線という点でとても参考になる本です。

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