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2016年6月

2016年6月27日 (月)

Brexitによって保険規制はどうなるか

(このブログの記事はどれも個人的なコメントではありますが、今回のエントリもそうですので、念のためにあらかじめおことわりしておきます。)

英国が国民投票でEU離脱を選択してしまいました。残留派の女性議員の射殺事件以降はなんとなく残留優勢の雰囲気があったために楽観していましたが、いやもう驚きの一語です。

さて、このEU離脱によって保険業界的に気になるのは、「ソルベンシーⅡはどうなるのか?」ということでしょう。なんといっても今年の1月1日に施行されたばかりですし。

英国アクチュアリー会の発行する“The Actuary”に、このことに関する記事が早速載っています。

Brexit: UK insurers continue to be bound by Solvency II for now

記事の論調では、当面(英国が正式にEU脱退するまで)は大きな影響はないだろう、とされています。理由として、

  • EUソルベンシーⅡ指令に基づく法律が英国の法律として成立しているため、当面はその法律下の義務に服する
  • すでにかなりのコストをかけてソルベンシーⅡ対応を行なってしまった

といったことが挙げられています。

イングランド銀行および金融行為規制機構(FCA)も同様に、当面の変化はないこと・金融機関の健全性は金融危機時よりはるかに高まっていること、を中心とした声明を発表しています。

Statement from the Governor of the Bank of England following the EU referendum result

FCA: Statement on European Union referendum result

長期的な見通しについては「今後の英国とEUとの関係次第」とのことですが、上記“The Actuary”の記事にあるとおり、保険業界としてはEU市場へのアクセスの確保が要望されているようです。

ということで規制の面で短期間に急激な変化が生じることはあまりなさそうですが、気になるのは金融環境のほうです。今回の国民投票の結果により他のEU各国にも動揺が生じており、すでに「自国でも国民投票を」といった声が上がっている国がいくつかあるようです。英国もスコットランドの動向をはじめとして不安があり、このまま動揺が広がれば欧州危機のような混乱をもたらしかねません。

経済価値ベースのソルベンシー評価においては、経済価値が正しく評価できることが大前提となります。正しい経済価値が評価できない場合、経済価値ベース評価の代表選手であるソルベンシーⅡはもとより、日本でのソルベンシー規制の検討、さらに国際的な保険資本規制の枠組みであるICSにも影響するかもしれません。

規制動向そのものだけでなく、金融環境にも要注目の状況が続きそうです。

2016年6月20日 (月)

6月14日の金利

ご承知のとおり、標準責任準備金の計算基礎となる予定利率(標準利率)は、国債の応募者利回りと流通利回りから決定されます。詳細な規定は下記の過去エントリを見ていただければ。

要するに標準利率の設定対象は「一時払養老・一時払年金」「一時払終身」「その他の保険」に分かれるのですが、このうち一時払終身保険の標準利率は、10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半に基いて定められます。

6月14日、その「10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半」がついにマイナスとなりました。

先日パブリックコメントが締め切られた標準利率設定ルールの改正案が実際に改正・施行されればマイナスの標準利率が導入されることになるわけですが、とうとう一時払終身保険にまでマイナスの標準利率が適用される可能性が出てきました。

マイナスの標準利率が即マイナスの予定利率を意味するわけではありませんが、いずれにせよ保険会社は標準利率に基づく責任準備金の積立負担を負うわけで、以前のエントリで述べたように改定頻度が上がったにもかかわらず平準払と同じ安全率係数が適用されていることも含めて、標準利率についてはさらなる見直しの機運が生じてくるかもしれません。が、うーん、もはやベースとなる金利自体がマイナスの中では意味がないか…

2016年6月 6日 (月)

不妊治療保険

いささか古いネタで恐縮ですが、不妊治療に係る保険の引受けを可能とするための保険業法施行規則の改正が4月1日付で施行されています。

「保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について

パブコメ時点から来るのではないかと想像していた意見が、案の定提出されていました。

検査を受けて、医師から妊娠の可能性が低いと言われた。しかし、妊娠するかどうかの結果は誰にも分からないと思う。今回のニュースをみて是非、保険に入りたいと思った。是非、医師の診断後で治療を受けている、いないを問わず誰でも入れる保険になる事を願う。費用の負担が少しでも軽減されると、10年後20年後の少子化問題も軽減されると思う。

今回不妊治療に係る規定を追加していただき大変喜んでいる。現在不妊治療中の人も大変金銭的に困っている方も多いので、治療中の人も当該保険の引受け対象になればすごくありがたい。検討をお願いしたい。

これらに関する金融庁の回答は

貴重なご意見として承ります。

とそっけないものですが、いやいや、貴重なご意見もなにも、「現在不妊治療中の人が加入する不妊治療保険」って、法律上無効ですから。

その規定は保険法にあります。

第68条(遡及保険)

傷害疾病定額保険契約を締結する前に発生した給付事由に基づき保険給付を行う旨の定めは、保険契約者が当該傷害疾病定額保険契約の申込み又はその承諾をした時において、当該保険契約者、被保険者又は保険金受取人が既に給付事由が発生していることを知っていたときは、無効とする

2. 傷害疾病定額保険契約の申込みの時より前に発生した給付事由に基づき保険給付を行う旨の定めは、保険者又は保険契約者が当該傷害疾病定額保険契約の申込みをした時において、当該保険者が給付事由が発生していないことを知っていたときは、無効とする。

保険法の条文の中には約款で別途定めれば異なる要件とすることができるもの(任意規定といいます)もありますが、この条文に関してはそのようなことができない「強行規定」とされ、実際、「論点体系 保険法2」(山下友信、永沢徹編著)にも次のように書かれています。

本条1項の規定の趣旨は、保険制度を悪用して少額の保険料を負担することにより多額の保険給付を受けることになるという事態を防止しようとすることにあり、したがってその趣旨には公序性が認められるので、その性質上強行規定である(萩本編著・一問一答63頁)。

まあ保険金が直ちに受け取れる保険なんて、そんなものは保険ではなくてただの利益供与ですよね。「不妊治療の人が加入できないなんて、そんなの可哀想だ!」という人がいたとしても、加入しようとしている人が保険会社の社員や役員の場合には同じことは言わないでしょう。

それにしてもこの不妊治療保険については誤解が多いようで、パブコメに対してこういう意見もありました。

保険各社がこのような「商品」を発売することに反対である。

相互扶助の精神に基づく国民皆保険制度の基本が揺るがされる可能性があることは避けるべきであり、有効な治療は全国民が恩恵を受けられるべき。不妊治療の経済負担を安易に民間保険会社に託すことは国が責任逃れをしていることである。

また、アメリカでは不妊治療が保険会社の商品となった結果、一定の妊娠成功率がある病院にしか保険金が支払われないために、患者の選別が行われたり、「非配偶者間生殖医療」が勧められたり、保険会社がクリニックの治療方針に関与するなどの問題が生じている。それから、アメリカのがん保険会社が日本で大儲けしているように、日本経済には独自の哲学があるにもかかわらずアメリカの考え方に振り回されているのではないかが気になる。

いや、「公的制度でカバーすべきだから民間が商品を作るべきではない」って何か違いませんか? ちなみに、不妊治療については次のような公的助成制度があります。

厚生労働省:不妊に悩む夫婦への支援について

ただ公的助成だけあって、対象となる治療は限定されていますし、所得制限もあります。今回の保険業法施行規則の改正によって民間での不妊治療保険の道が開かれた(というより、明確化された)ことになりますので、これによってより多くの人に役立てる保険が開発されれば、と思います。

保険法の大家、山下友信先生による新著。ちなみに「保険法1」のほうは総則と損害保険です。しかしこの本、定価5,184円なのに、出版当初はなぜかAmazonで8,000円を超える値段がついていました。

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