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2016年8月

2016年8月15日 (月)

シン・ゴジラにおける生保保険金支払い(ネタバレ全開)

大評判の映画「シン・ゴジラ」、観に行ってきました。いやーすごいです。ここんとこずっと頭の中でこの映画の音楽が流れっぱなしです。

で、このブログであれば当然「ゴジラによる被害に伴う保険会社の保険金支払いはどの程度になるか?」ということをエントリにしたくなります。

これはとりもなおさず「ゴジラがどのように暴れ回るか」を明らかにすることですので、ネタバレ全開です。まだ観ていない方は観てからこのエントリを読んでください。

第1形態

ゴジラ(ここではまだ「巨大不明生物」)のしっぽが東京湾アクアライン付近に現れる場面です。アクアラインで崩落事故が発生しますが、大河内首相が「死者は出ていないんだろう?」ということから、人的被害は軽微であることが分かります。災害入院給付が多少あるかもしれませんが、とりあえず金額軽微とします。海上保安官に重軽傷者が出ていますが、これは職務上の傷病のため民間保険会社の出番はないものとしましょう。

第2形態~第3形態

ゴジラ(ここでもまだ「巨大不明生物」)が多摩川に入り、呑川を遡上して蒲田から上陸、品川まで行ったところで急に東京湾に戻るまでです。この上陸に関しては翌日のニュースで「死者・行方不明者は100人を超え」たと報じられていますので、死者100名とします。

生命保険協会の統計によれば、2015年3月末保有契約ベースでの東京都の平均保険金額(個人保険)は619.4万円。ただし、1人で複数加入しているケースがあります。2015年3月末の東京都の保有契約数が1,730万件であるのに対して、2014年10月末の東京都の人口は1,339万人であるため、おおむね1人あたり1.3件加入していることになります。この分を考慮すると、東京都の人口1人あたりの保険金額は約800万円。したがって100人だと約8億円となります。

上記は個人保険の金額なので、団体保険を加えます。団体保険に関しては、東京都は被保険者数178百万人に対して保有保険金額が252.6兆円なので、1件あたり約140万円。団体保険の重複加入は考えにくいのでこれの100人分として1.4億円。

ここまで災害関係の特約が含まれていませんので、その金額を加味する必要があります。2015年3月末時点での個人保険保有契約(全国)は857兆円、それに対する災害死亡保障の金額は148兆円(災害保障特約+災害割増特約+傷害特約)、したがって個人保険の保険金1あたりの災害死亡保険金額は0.17となります。つまり上記の8億円の0.17倍で、災害死亡保険金額は約1.4億円となります。

次に災害入院保障です。災害入院者数は死亡者数の1.5倍程度、入院日数は10日と見積もってみます。1件あたりの災害入院日額は約6,000円ですので、災害入院による給付金支払見積額は1,200万円程度となります。

以上を合計すると、ここでの支払総額は約11億円ということになります。

第4形態

さて、ここから先はケタが変わります。とりあえず、鎌倉上陸から都心部へ向うまでは避難がそれなりになされ、人的被害は軽微とします。

被害が大規模に発生するのはやはり熱焔と熱線の放出からでしょう。ゴジラは東京駅近くで活動を停止しますが、それまでの熱焔と熱線の放出によって、新橋、虎ノ門、永田町、銀座(少なくとも4丁目)が火の海と化します。東京駅を中心に半径2km以内に致命的な被害が生じるものとします。区でいえば千代田区・港区・中央区にわたります。

これらは特に人の集まる地域であるため、人口比では、実際の面積よりも多めに、千代田区の7割、港区の5割、中央区の9割が被害を受けるとします。ここで被害想定は実際の人口ではなく昼間人口を用いるべきです。少し古いですが、東京都については平成22年(2010年)の区別昼間人口のデータがあり、

  • 千代田区:819,247人(夜間人口47,115人)
  • 港区:886,173人(夜間人口205,131人)
  • 中央区:605,926人(夜間人口122,762人)

となっています。この昼間人口の半分がすでに避難していたとしても、被害対象者総数は78万人となります。この半数が生存していたとして死亡者は39万人。保険金支払額は約4.2兆円となります。2015年度中の業界全体の死亡保険金支払額(災害保険金を含む)が約2.9兆円と比べてみるとその金額の大きさが分かります。

もうこれ以上は計算しませんが、上記の試算ではまだ足りません。被災地域にいて生き残った残りの半数に対する入院給付が発生します。特にゴジラは放射線を発するため、急性放射線障害の発生により治療が長引くことも考えられます(映画では半減期が20日程度であることが判明する場面が出てきますが、そこは今後の除染等への影響であって、急性被爆の影響が小さいことにはなりませんからね)。


さて、ゴジラによる保険金支払の想定をざっくりとしてみました。ここまでで想定していない被害想定として、次のような運用面への影響があります。

  • 投資用不動産の損害(被災地域はオフィス地域であり、生命保険会社の持ちビルも多数あると思いますので、これらの賃料収入の喪失と修復費用が大規模に発生します。一方で東京地域以外の不動産価格が上昇していることがほのめかされてもいます)
  • 経済環境の影響(劇中でも国債や為替が暴落しているというセリフが出てきます。国債価格の下落は生保の経済価値的にはプラスかもしれませんが、その前にバランスシートの傷みが大変なことになります)

そして何より、被災地域には生命保険会社の本社が集中しています。その意味では、そもそも本社が機能を喪失した状態で保険金支払ができるのか、というBCP的観点が最も重要ですね。

最近「エマージング・リスク」ということがたびたび言われます。現在は起こることが思いもつかないが、起こる可能性がある事象で、ひとたび起こると大きな影響があるリスクのことであり、要するに「想定外を想定せよ」ということです。さすがにゴジラが東京を襲うことを想定するのは荒唐無稽に過ぎますが、こういった作品をきっかけにしてリスクのヒントにする、というのはあり得ると思うのですが、いかがでしょうか。

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