標準生命表の改定
本日、金融庁告示第31号「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準の一部を改正する件」が公布されました。即日施行ですので、保険関係法規集のほうも改正を反映しました。
今回の改正の内容は、本エントリのタイトルどおり「標準生命表の改正」です。生命保険の契約は長いので、生命保険会社は将来の保険金の支払いに備えて責任準備金を積立てておくことが保険業法で義務付けられています。この責任準備金の計算に用いられる死亡率が「標準生命表」です。マスコミ報道などではこの標準生命表について「生命保険会社が保険料を決定する基準」などと書かれていることがありますが、標準生命表が保険料を直接に規定するわけではありません。
この「標準生命表」は、日本アクチュアリー会が作成したものを金融庁が検証するという建て付けになっています。今回の改正では以下のようなスケジュールで進められました。
- 2017年3月31日:日本アクチュアリー会が標準生命表の改定案を公表、パブリックコメントを実施(意見受付は4月21日まで)
- 2017年5月12日:日本アクチュアリー会がパブリックコメントの結果を公表、金融庁に提出
- 2017年6月8日:金融庁が告示改正案を公表、パブリックコメントを実施(意見受付は7月8日まで)
- 2017年8月17日:金融庁がパブリックコメントの結果を公表、官報にて告示改正を公布
上記のとおり、パブリックコメントが日本アクチュアリー会によるものと金融庁によるものの2回実施されています。日本アクチュアリー会によるパブリックコメントでは特段の意見はなかったのですが、金融庁のほうは6の個人より6件のコメントがあったとのことです。コメントの概要には5件しか載っていないのですが、その中にこんな意見がありました。
アクチュアリーファームに勤める著名なアクチュアリーがブログを書いているのをご存知ですか?このブログには、標準利率について多角的な観点から何度もコメントしてありました。標準利率のルール改定の際には、参考にしたでしょうか。しかし、お気づきかもしれませんが、今回の標準死亡率は、このブログにはスルーされてしまいました。なぜとお考えでしょうか。こういった日本を代表するアクチュアリーの意見が全く反映されないからでしょう。もっと専門家の意見を聞くべきだと思います。
えーと、ここで言っておられる「標準利率についてのコメント」とは、このへんのエントリのことでしょうか?
だとすると、私のようなアクチュアリーを「著名」と言っていただけるのは汗顔の至りですが、ブログで取り上げなかったのは、標準死亡率について「べき論」を言うことが難しいから、ということに過ぎません。
標準利率は当時の改正内容が複雑であったことから解説が必要に思われたことと、設定・変更のプロセスが告示で規定されていることからコメントしやすかったという状況がありました。また経済環境に基づくわけなので、他金融商品との整合性等、比較に基づいたコメントのしようもありました。
一方で標準死亡率については、そもそも「どうあるべきか」を言うことが難しい基礎率なのです。例えば標準死亡率改定の頻度はおおむね10年ごとになっていますが、この頻度が少ないのか多いのかということすら一概に言うことはできません。米国のCSO表などは20年近く改定されていなかったということもありましたが、改定頻度を下げることは社会実態から乖離した基礎率を使うことにつながり、それは生保の健全性の中核たる責任準備金の基礎率としてどうなのよ、という話にもなります。
また、国債の市場価格を反映して計算される標準利率と異なり、標準生命表は「死亡率」の話です。したがって標準生命表について語るためには生命保険会社各社の死亡率と標準死亡率との乖離状況を問題とすべきということになるのですが(そうでないと責任準備金に対するマージンが適切かどうかの議論ができない)、販売商品や引受査定の方法などで生命保険会社それぞれの死亡率は異なる(つまり会社の個別性がある)ため、この点からも標準死亡率に関する「べき論」を一概に語るのが難しいのです。
まあそんなわけで今回は特にコメントしなかったのですが、最近更新をサボっているという反省もありますので、これからはエントリの頻度を上げていきたいと思います。
« ワンコインランチ問題 | トップページ | 映画「ドリーム」 »
「アクチュアリー」カテゴリの記事
- 標準利率設定ルール改正(案)(その4)(完)(2014.04.11)
- アクチュアリー試験日程(2018.12.13)
- アクチュアリーの経営トップ(2018.01.26)
- 2018年4月の保険料率改定(2017.11.13)
- 標準生命表の改定(2017.08.17)
「保険」カテゴリの記事
- 日本生命グループ、国内4生保体制(2019.02.05)
- 標準利率設定ルール改正(案)(その4)(完)(2014.04.11)
- 2015年度 生命保険業界に起こること(2015.04.01)
- 年頭挨拶(2017.01.05)
- 三井生命の社名変更(2018.11.22)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/554939/65677024
この記事へのトラックバック一覧です: 標準生命表の改定:
コメント