世界のIAIGs指定状況
前回のエントリでご紹介したとおり日本のIAIGsが公表されたので、じゃあ世界ではどうなっているのかも見ておきましょう。
2020年7月1日にIAIS(保険監督者国際機構)が各国地域の保険監督当局が公表したIAIGsをまとめたリストを公表しています。
この時点で掲載されているのが30グループ。金融庁が公表した分を合わせると34グループということになります。
本社所在地域別には以下のとおりです。
- EU:21グループ
- フランス:8グループ
- 英国:4グループ
- ドイツ:3グループ
- オランダ:2グループ
- オーストリア:1グループ
- ベルギー:1グループ
- イタリア:1グループ
- スペイン:1グループ
- 米国:6グループ
- アジア:7グループ
- 日本:4グループ
- 香港:2グループ
- シンガポール:1グループ
国・地域別にみたときにはフランスが最多というのが少々意外でしたが、まあここはEUをひっくるめて考えるのが適切なのかもしれません。ちなみにEUの保険監督規制を担うEIOPA(欧州保険年金監督局)は5月18日にIAIGsのリストを公表していますが、そこでは英国を除く17グループが記載されています。英国のほうは監督当局であるPRA(健全性規制機構)が5月28日に公表していますね。
さて、最初に示したIAISのリストを見ると、おもしろいことに気がつきます。リストにはIAIGsに該当する保険グループと担当となる監督当局、およびその所在国(地域)が記載されており、ほとんどは国(地域)と監督当局が一対一に対応しているのですが、米国だけは異なっているのです。米国は州によって保険規制が異なり、したがって担当監督当局といえば州の保険監督当局になるためです。つまり、米国は州を監督の単位としてみるか、「アメリカ合衆国」という国を単位としてみるか、という二つの見方があるのです。前者の立場をとると、IAIGsの定義の一つが「3つ以上の国」ではなく「3つ以上の州」で営業していること、となります。米国では州をまたいで営業している保険会社なんていくらでもあるので、これだと米国でIAIGsに該当する保険会社が爆増してしまいます。このため、IAIGsの定義を定めるところで、わざわざ「米国は一つの国とみなすが、EUメンバー国はそれぞれ別扱いとする」ということが書かれています(ICP CF23.0.a.5)。
米国に関する、この「連邦か州か」という単位の扱いに関しては悩ましく、IAIGsに対する資本規制であるICSの計算にも影響を及ぼしています。ICSはグループ全体の連結ベースでの規制資本を計算するのが基本的な考え方ですが、米国は、単体ベース(要するに州ごと)の規制資本をまず計算してそれをグループ全体で合計する「合算法(Aggregation method)」を主張しています。IAIGsの指定にあたっての判断は米国を一つとして見るが、ICSの計算は州ごとにやることを認めてほしい…ってことですね。まあ実務負荷を考えるとわからなくはない主張ではありますが。
上述の34グループのIAIGsも監督当局が公表したものですし、他にまだ公表されていないものもあるかもしれません。ICS自体もモニタリング期間中は公表されない扱いになっていますので、どれくらいのことが公表情報から得られるのかは不透明ですが、合算法の扱いも含めて今後の状況には要注目かと思います。
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