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2024年9月

2024年9月28日 (土)

プロポーショナリティ原則

日本における経済価値ベースのソルベンシー規制に関する検討も、2025年度末からの施行を前に、だいぶ煮詰まってきました。今年の5月に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性」が公表され、2024年秋ごろを目途に(つまりもうすぐ)法令等の改正案がパブリック・コメントに付される予定となっています。

さて、経済価値ベースのソルベンシー規制の第1の柱におけるESRの算出には「プロポーショナリティ原則」(比例性の原則)というものがあります。これはICSにもあるものですが、以下のように説明されています。

計算及び評価は、プロポーショナリティ原則に従うこととする。すなわち、ある特定の要素又は方法を当該計算及び評価に適用した結果、得られる数値の質又は当該数値に関連するリスクの評価が重要な改善を示さないにもかかわらず、複雑性が顕著に増加することを示せる場合、当該要素又は方法を適用しない、あるいは簡素化することができる。

ESRの計算は複雑なので、厳密・正確にやろうとするときわめて大きな労力がかかる部分があります。そのような部分において、労力のわりにESRに与える影響が小さい場合、労力をかけない方法を使うことができる、という原則です。コスパを考えた計算方法を採用してよいと言ってもよいかもしれません。コスト(計算のための労力)とパフォーマンス(ESRの正確性)を天秤にかけるということですね。

しかし、ネット上などでよく「コスパがいい」「コスパが悪い」と言われているものは、しばしば「値段が安い」「値段が高い」を言い換えただけだったりして、「コスパって言ってるけどコストしか見てへんやんけ!」というツッコミを入れたくなります。これと同じように、プロポーショナリティ原則においても「影響僅少のため、プロポーショナリティ原則に照らして計算を簡便化する」という人がときどき見られます。かかる負荷との対比をちゃんと考えないと「比例性」と呼べるものにはならないんじゃないかな、と思います。

そうは言っても負荷が大きい(複雑性が顕著に増加する)ことを実際に示すのはなかなか難しいだろうな、とは思います。上記の「残論点の方向性」の中ではプロポーショナリティ原則において適用し得る簡便的な取扱いの例が示されていますが、そこに挙げられている例はどれも「複雑性の増加」が顕著すぎて、原則どおり計算している会社って存在しないんじゃないの?と思えるようなものばかりです。

まあ、ここであんまり緩い例を当局が出してしまうと「こんな緩い計算でもいいんだ」というシグナリングになってしまうため、例示の線引きはなかなか難しいことは理解しますが、一方で「こんな些細なことしかプロポーショナリティ原則として簡便化が認められないのだ」という逆のシグナリングになってしまい、ESR実務に携わる人の過大な足枷になってしまうのではないかという懸念もあります。実際にどのようなところに落ち着くのか、要注目です。

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