映画「パラサイト 半地下の家族」
カンヌ国際映画祭で、韓国映画としては初のパルムドールを受賞した作品、『パラサイト 半地下の家族』を観てきました。以下ネタバレ含むのでご注意を。
半地下の家に住む貧しい家族、キム一家。便器が一家の目の位置より上にあるような家で、4人家族の全員が失業中であり、インターネットは近隣の家のWi-Fiの「おこぼれ」を拾ってつなぐような有様。そんな中、長男のギウは大学受験に失敗しつづけているにもかかわらず、友人の大学生ミニョクから家庭教師の仕事を紹介されます。家庭教師先は高校2年生の女の子、パク・ダヘ。ダヘの家庭教師はミニョクがやっていたのですが、留学のためギウに代わってほしいと言ってきたのです。
ギウは妹のギジョンの手を借りて大学の入学証書を偽造してもらい、有名大学の学生としてダヘの家庭教師を始めます。ダヘの家は高台にある有名建築家の建てた家であり、ダヘはIT企業の社長の娘でした。ダヘとダヘの母親からの信頼を獲得したギウは、ダヘの弟ダソンの美術の家庭教師として、身分を偽った妹のギジョンを送り込みます。さらに父親を運転手に、母親を家政婦に送り込んで、裕福なパク一家に「パラサイト」することとなります。
パク一家が泊りがけのキャンプに出かけた日、すっかり有頂天になったキム一家が、留守となったパク家で自宅のように振舞って酒盛りをしていると、前の家政婦ムングァンがインターホンを鳴らします。追い出したはずの前の家政婦の訪問に訝しみながらも家へと入れると、ムングァンは誰も知らなかった秘密を明らかにします…
観ている中でいくつかの作品が思い浮かびました。一家で犯罪行為を重ねる様は、同じくパルムドール受賞作の『万引き家族』を感じさせましたし、善良な一家をだますというダークな側面は『クリーピー 偽りの隣人』を彷彿とさせる部分がありました。しかし物語が進むにつれ、それらのどれともまったく似ていない作品であることがわかりました。
この作品は何といっても貧乏なキム一家と裕福なパク一家の対比が見事であり、そこには韓国に横たわる強烈な貧富の格差を感じます。韓国は1997年に通貨危機に陥ってIMFの救済を受けた際、猛烈な経済・財政のリストラを経験したことから、貧富の差が大幅に拡大しました。本作ではその格差が、キム一家の住む「半地下」とパク一家の住む「高台」で象徴的に表されています。この点、上述のキャンプの日、大雨のためキャンプを中止してパク一家が戻ってきたことから慌ててパク家を脱出して帰るキム一家が階段を延々と降りる部分の描写が本当に見事です。
もう一つ、「におい」という要素が本作のカギを握ります。パク家にうまくパラサイトしたキム一家に対し、パク家の息子が、美術家庭教師と運転手と家政婦のにおいが似ていると指摘され、緊張が走るシーンがあります。また、キム父(キム・ギテク)に運転された車に乗っているパク家の宗主、IT企業の社長であるパク・ドンイクがたまに顔をしかめます。ギテクからする「におい」のためです。このようにキム一家のにおいは貧乏の象徴としてのにおいであり、ドンイクには「古くなった切り干し大根のよう」と例えられます。ドンイクにおそらく悪意はないものの、それを聞いてしまったギテクは、パク一家との「身分の違い」を突き付けられた気持ちになったのではないでしょうか。
パク家で酒盛りをしている中、長男のギウは「将来、ダヘと結婚したい」と夢を語ります。しかし、ギウの実の父親と母親は偽名を使ってそれぞれ運転手と家政婦になっているため、ギウは「結婚式には偽の父親と母親が必要だ」と言い出します。実の両親にしてみればかなりショックな発言だと思いますが、ギウがそれを気にしている様子はありません。おそらくこれも、貧富の差が固定された社会が当然となっているギウと、IMF救済前を知るギテクとの違いであり、ギテクにとっては自分の息子がそのように生きていかざるを得ない社会への怒りとなったのではないか、と感じられます。
明るい話ではないのでおすすめをするのがためらわれる作品ではあるのですが、韓国社会の今がよく見えますし、ストーリー中のどんでん返しも韓国ならではの部分があり、映画館に足を運んだ甲斐のある作品でした。
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