アクチュアリー

2022年11月28日 (月)

2022年度上半期のコロナ関連給付

生保各社の2022年度上半期業績が発表されました。その中で以下の会社が新型コロナウイルス関連の保険金等の支払状況を公表しています。

  • 日本生命グループ
  • 第一生命グループ
  • 明治安田生命
  • 住友生命グループ
  • T&Dグループ
  • かんぽ生命

これらの会社について時系列でみてみます。なお、かんぽ生命は2020年度・2021年度の上半期の金額を開示していないため、以下の集計ではかんぽ生命を除いています。

まずは死亡保険金額から。

  • 2020年度上半期:55億円(526件)
  • 2020年度下半期:153億円(2,220件)
  • 2021年度上半期:256億円(3,611件)
  • 2021年度下半期:270億円(3,718件)
  • 2022年度上半期:244億円(3,790件)

2021年度上半期からは大きな変動なく推移しているように思われます。ちなみに厚生労働省が公表しているデータによれば、日本での死亡者数は次の通りです。

  • 2020年度上半期:957人
  • 2020年度下半期:7,589人
  • 2021年度上半期:8,482人
  • 2021年度下半期:10,540人
  • 2022年度上半期:16,614人

死亡から支払までは一定のタイムラグがあるので、2022年度上半期の死亡数の増加が生保の2022年度下半期の保険金支払に現れるのかどうかが気になります。

次に入院給付金です。

  • 2020年度上半期:10億円(6,546件)
  • 2020年度下半期:47億円(42,000件)
  • 2021年度上半期:145億円(113,596件)
  • 2021年度下半期:409億円(327,329件)
  • 2022年度上半期:2,395億円(1,965,900件)

第1四半期に引き続き激増です。ただ、この入院給付金のほとんどがいわゆる「みなし入院」によるものであり、2022年9月26日からはみなし入院の支払対象が重症化リスクの高い人に限定されたことから、2022年度下半期には落ち着くのではないでしょうか。

2022年8月14日 (日)

2022年度第1四半期:コロナ関連給付の急増

生保各社の2022年度第1四半期業績が発表されました。その中での新型コロナウイルス感染症に係る支払の状況についてまとめてみます。

2022年度第1四半期報告で新型コロナウイルス関連の保険金等の支払状況を公表しているのは、私の調べた範囲では以下の会社でした:

  • 日本生命グループ
  • 第一生命グループ
  • 明治安田生命
  • T&Dグループ
  • かんぽ生命

(収支への影響額のみ開示している会社は他にもあるのですが、ここでは件数および支払金額を開示している会社を挙げています。)

これらの会社について前年・前々年同期と比べてみましょう。なお、かんぽ生命は2020年度・2021年度の第1四半期の金額を開示していないため、以下の集計ではかんぽ生命を除いています。

まずは死亡保険金額から。

  • 2020年度第1四半期:23億円(221件)
  • 2021年度第1四半期:117億円(1,583件)
  • 2022年度第1四半期:107億円(1,553件)

第1四半期でみると、2022年度は2021年度と同程度の水準となっています。ちなみにかんぽ生命を含めた2022年度第1四半期の保険金額は174億円(3,567件)となっています。

次に入院給付金です。

  • 2020年度第1四半期:3億円(1,687件)
  • 2021年度第1四半期:40億円(32,966件)
  • 2022年度第1四半期:783億円(651,368件)

…とんでもない激増ぶりです。かんぽ生命を含めると2022年度第1四半期の給付金額は883億円、件数はじつに904,643件です。

実は2021年度通年での入院給付金支払額は609億円(上記の会社のほか、住友生命グループを含む)ですので、2022年度は最初の3ヶ月だけで2021年度の総額を上回っています。オミクロン株の感染力の強さがよくわかります。

しかもこの金額は2022年6月末までの数字ですので、基本的に第6波までしか含まれていません。第6波は2021/12/15~2022/04/30としている資料がありましたのでこの定義に従うと、この間の全国の感染者数の平均は44,920人/日、最多は2月5日の104,169人です。一方、7月以降の感染者数は直近(8月13日)までの平均が140,066人。したがって第7波の入院給付金額の影響はさらに増加する可能性があります。

新型コロナウイルス感染症の発症から給付金の請求・支払までは一定のタイムラグがあるため、今回の第1四半期は2月にピークを迎えた第6波の影響がほぼそのまま支払に現れたものと思われます。第7波がどこまで続くのかは現時点では不透明ですが、第2四半期だけでなく第3四半期以降も影響が続くかもしれません。

体調不良であることを自覚してから受診の前に保険加入するモラルリスクの存在も指摘されており、コロナ感染に対し給付を行う保険について各社が見直しを検討するようになってきました。2020年ごろは欧州や米国の保険会社がコロナによる混乱の極みにありましたが、日本の生保はこれから本格的な対応を迫られそうです。

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2022年7月29日 (金)

世界のIAIGs指定状況(2022.7.26アップデート版)

国際的に活動する保険グループ(Internationally Active Insurance Groups; IAIGs)のリストについて、7月26日にアップデートされていました。

IAIGとは基本的に以下の要件を満たす保険グループとされます。IAIGに指定されると、国際的な保険資本要件ICS(Insurance Capital Standard)をはじめとする規制要件に服することとになります(ただしICSは現在モニタリング期間中であり、まだ規制は実施されていない)。

  • 国際的活動要件
    • 3以上の国または地域で保険料が計上されており、かつ
    • 本国外のグロス収入保険料が、グループ合計のグロス収入保険料の10%以上あること
  • 規模要件
    • 総資産が500億米ドル以上、または
    • グロス収入保険料が100億米ドル以上

2022年7月26日現在、IAIGの数は49。これまでは具体的な保険グループ名のわからないIAIGがあったのですが、今回初めてすべてのIAIGがグループ名とともに公表されました。

国・地域別の内訳は以下のとおりです。

  • 欧州:26グループ
    • フランス:8グループ
    • スイス:5グループ
    • ドイツ:3グループ
    • 英国:3グループ
    • オランダ:2グループ
    • オーストリア:1グループ
    • ベルギー:1グループ
    • フィンランド:1グループ
    • イタリア:1グループ
    • スペイン:1グループ
  • 北米:13グループ
    • 米国:9グループ
    • カナダ:4グループ
  • アジア太平洋:8グループ
    • 日本:4グループ
    • 香港:2グループ
    • シンガポール:1グループ
    • オーストラリア:1グループ
  • 南アフリカ:2グループ

直前の公表は2022年2月10日現在のもので、その時点ではIAIGは48グループの名前が公表されていました。その時から新たに追加されたのはフィンランドのSampo Groupです。なんでEU加盟国なのに社名公表してなかったのか、謎です…(今回初めてIAIG要件に該当したのかもしれませんが)。

さて、今までは社名未公表のIAIGがあったので、それがどこかといろいろ推測してきましたが、今回の全社公表でIAIGのリストが完成したといえます。ICSのモニタリング期間は2024年に終了する予定であり、国際的な保険監督規制の体制に向けていよいよ整ってきたといえるかもしれません。

2022年4月11日 (月)

書評『法令読解ノート 改訂版』

11年前、「法令読解ノート」というブログエントリを書いたんですよ。

そうしたらですね… 先日、そのエントリに次のようなコメントが。

●上記の書評でご紹介いただきありがとうございました。お蔭をもちましてこの3月10日に、発行後10年以上を経て、同書の改訂版を発行するに至りました。つきましては、唯一の書評に敬意を表して謹呈させていただきたいと思っていますので、お届け先をお知らせください。
●なお、改訂は、引用法令をこの間の改正に対応させたほか読み易さ分かり易さの観点から、焦点を絞り、スリム化(約15頁減)したものです(価格据置)。
●リバウンドの兆しが報道され始めましたが、ブレークスルー感染もある中では、「よく食べ良く寝て適度の運動に溜め込み過ぎず」により免疫力を維持・向上させるしかないと思われます。どうかご自愛の上、お過ごしください。

ということで出版元の公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会様から改訂版をご恵投いただきました!

法令読解ノートの表紙

さっそく拝読いたしましたよ。

この本は筆者の畠中信夫氏が白鴎大学法学部で教鞭をとっておられたときに法学部の1年生を対象とした講義レジュメが元になっているため、冒頭が次のような文から始まります。

本書をひもとく人の大部分は、いわゆる「六法」を手元に持っておられると思います。

手元に持ってなくて申し訳ありません… なのにご恵投までいただいて本当に申し訳ありません…

が、そんな法学門外漢の私にもとても役に立ったんですよ。このブログをご覧になる方はアクチュアリーが多いと思いますが、アクチュアリーの主な活躍フィールドである保険や年金の世界が免許業種や登録業種である以上、法令とは無縁ではいられません(まあ免許や登録が不要でも法令とは無縁ではいられませんが…)。そのときに「法令の読み方」を知らなかったらどうにもならないわけです。

上述の畠中氏の講義を受講した学生の感想文にはこうあります:

…今まで全く法律に触れたことはなかったので、六法の見方や、法令番号や、法令の構成や、ただし書き、柱書きの意味や、法令用語の使い方など、法律を学ぶための基礎の基礎を教えてもらって、本当に有難いと思います。正直、受講して良かったと素直に思える講義だったと思います。…

本書を読んで、私もまったく同様の思いです。

この『法令読解ノート』には書かれていないことですが、法令には「一般の人が読んでわかることを配慮したもの」と「専門家しか読むことを想定していないもの」があります。で、保険業法は後者の典型です。前回のブログエントリにも書いた通り、『法令読解ノート』の中で「重要文化財級の条文」とまで書かれてしまうようなものが出てきます。たしかに保険業法施行規則第1条の2の2第1項第1号ハ(1)(iv)って読ませる気ないとしか思えませんよね。保険関係者が法律の読み方に慣れるためには保険法の条文構成から見るのがいいかもしれません。

とにかくこの『法令読解ノート 改訂版』、今まで誰も教えてくれなかった法令の初歩の初歩を理解するには唯一最適の書です。現在はまだ全国労働基準関係団体連合会のサイトでしか入手できないようですが、Amazonで入手可能になりましたらまたお知らせしたいと思います。

 

2021年9月24日 (金)

アクチュアリー試験の合格まで何年かかるのか?(2020年度試験合格者版)

2020年度アクチュアリー試験の合格者が発表されました。

まず大きな情報としては、全科目合格者が100名となったということが挙げられます。この数は現在の試験制度になってから最多ではないかと思います。過去20年ほど調べましたが、これまでの最多は2014年度の95名でした。

さて、その全科目合格者100名の、全科目合格までの年数分布は次のようになりました。

  • 3年:3名
  • 4年:6名
  • 5年:7名
  • 6年:14名
  • 7年:9名
  • 8年:2名
  • 9年:9名
  • 10年:9名
  • 10年超:34名

合格者数が最も多いのは6年(14名)となっているものの、前回と比べて全般的にやや年数が伸びています。平均は9.7年でした。

前回は5年と8年に山があったのですが、5年の山が6年にずれ、8年の山が10年超に向けてよりなだらかに分布するようになったイメージです。メジアンも9.5年となっており、全体的に年数の長いほうに分布がずれた印象がありますが、これが継続するのかどうかはわかりませんね。

全体的に年数が長くなったということは、長らく試験を受けていた人の中に合格者が出たということでもあります。今回、20年超が3名いまして、これもおそらくは過去最多ではないかと思います。

2021年7月 4日 (日)

世界のIAIGs指定状況(2021.7.2アップデート版)

さて、6月28日に2021年のICSの仕様書も発表されました。これに合わせる形で(なのかどうかは知りませんが)、IAIGsのリストも2021年7月2日現在に更新されています。

IAIGsの指定は最低1年ごとに更新することとなっています。最初のリスト開示が2020年7月1日だったので、今回のリストは2021年版といっていいかと思います。じっさい、IAIGsのグループ数は、これまでの48から49に増加しています。また、IAIGsを有する国または地域(jurisdiction)の数も、16から18に増加しています。

国または地域の数が2つ増えたにもかかわらず、IAIGsの数は1つしか増えていません。ということは、IAIGsでなくなったグループがあるということですね。具体的なIAIGsのリストを見ると、英国のRSA Insurance Group plcがリストから消えています。カナダのIntactとオランダのTrygに買収されたためのようです。

ということで、現在わかっているIAIGsは、国または地域別には次のとおりになります。

  • フランス:8グループ
  • 英国:3グループ
  • ドイツ:3グループ
  • オランダ:2グループ
  • オーストリア:1グループ
  • ベルギー:1グループ
  • イタリア:1グループ
  • スペイン:1グループ
  • スイス:5グループ
  • 米国:8グループ
  • カナダ:3グループ
  • 日本:4グループ
  • 香港:2グループ
  • シンガポール:1グループ
  • オーストラリア:1グループ
  • 南アフリカ:2グループ
  • 不明:3グループ

不明となっている3グループのうち1つは前回のエントリで述べたとおり米国と思われ、また全体で国または地域の数が18と公表されていることから、あとの2グループは上記に含まれない国または地域となります。この2つの国または地域から今後IAIGsの開示がなされるのか(それともなされないのか)注視していきたいと思います。

2021年4月 5日 (月)

世界のIAIGs指定状況(2021.4.1アップデート版)

少し前に世界のIAIGs指定状況をお知らせしました。2021年4月1日時点でIAIS(保険監督者国際機構)が各国地域の保険監督当局が公表したIAIGsをまとめたリストによると、世界で48あるIAIGsのうち47が公表されています。

本社所在地域別には以下のとおりです。

  • EU:21グループ
    • フランス:8グループ
    • 英国:4グループ
    • ドイツ:3グループ
    • オランダ:2グループ
    • オーストリア:1グループ
    • ベルギー:1グループ
    • イタリア:1グループ
    • スペイン:1グループ
  • スイス:5グループ
  • 北米:11グループ
    • 米国:8グループ
    • カナダ:3グループ
  • アジア太平洋:8グループ
    • 日本:4グループ
    • 香港:2グループ
    • シンガポール:1グループ
    • オーストラリア:1グループ
  • 南アフリカ:2グループ

前回のエントリでは34グループありましたが、そこから増えたのは、スイス(5)、米国(2)、カナダ(3)、オーストラリア(1)、南アフリカ(2)です。通常は、もうすでに指定がなされているものを国として開示するかどうかの判断になるので、ある国の指定グループ数が前回と異なっているという状況は発生しません。ただし米国は前回書いた通り例外で、州ごとに監督当局が異なるため、前回の指定数6から今回は8に変わっています。ニューヨーク州の分が追加されていますね。

じつは2月17日の時点で40グループまで開示されており、残る8グループはスイスと中国だろうと思っていました。スイスはこういう個別企業のことは開示しないイメージがあったのですが、今回の開示には入っていますね。南アフリカにIAIGsがあるのは盲点でしたが、開示された2社はいずれもアフリカで広く展開している保険会社であり、名前を見ればIAIGsに入るのも納得です。

ということで、開示されていないIAIGは1社となりました。前回の推測によれば残るは中国…ということになりますが、IAISの公表によれば、48の指定IAIGsは「16の国または地域(jurisdictions)」からとされており、今回までに開示したのは「16の国または地域」となっています。つまりこれ以上開示国が追加される余地がありません(香港については"China, Hong Kong"と書かれており、中国本土とは別のjurisdictionの扱いになっていると思われます)。

つまりあと1社についてはjurisdictionを増やさない形で追加がなされる必要があるわけですが、それがありえそうなのは1カ国しかありません。…米国です。米国は、ニューヨーク、ネブラスカ、ペンシルベニア、デラウェア、マサチューセッツ、ニュージャージー、ミズーリの7つの州がこれまでにIAIGsを公表していますので、これ以外のどこかの州にIAIGがある、ということなのでしょう。

さて、48のIAIGsのリストが完成するのはいつなのでしょうか。答え合わせをしてみたいものです。

2020年11月 2日 (月)

世界のIAIGs指定状況

前回のエントリでご紹介したとおり日本のIAIGsが公表されたので、じゃあ世界ではどうなっているのかも見ておきましょう。

2020年7月1日にIAIS(保険監督者国際機構)が各国地域の保険監督当局が公表したIAIGsをまとめたリストを公表しています。

この時点で掲載されているのが30グループ。金融庁が公表した分を合わせると34グループということになります。

本社所在地域別には以下のとおりです。

  • EU:21グループ
    • フランス:8グループ
    • 英国:4グループ
    • ドイツ:3グループ
    • オランダ:2グループ
    • オーストリア:1グループ
    • ベルギー:1グループ
    • イタリア:1グループ
    • スペイン:1グループ
  • 米国:6グループ
  • アジア:7グループ
    • 日本:4グループ
    • 香港:2グループ
    • シンガポール:1グループ

国・地域別にみたときにはフランスが最多というのが少々意外でしたが、まあここはEUをひっくるめて考えるのが適切なのかもしれません。ちなみにEUの保険監督規制を担うEIOPA(欧州保険年金監督局)は5月18日にIAIGsのリストを公表していますが、そこでは英国を除く17グループが記載されています。英国のほうは監督当局であるPRA(健全性規制機構)が5月28日に公表していますね。

さて、最初に示したIAISのリストを見ると、おもしろいことに気がつきます。リストにはIAIGsに該当する保険グループと担当となる監督当局、およびその所在国(地域)が記載されており、ほとんどは国(地域)と監督当局が一対一に対応しているのですが、米国だけは異なっているのです。米国は州によって保険規制が異なり、したがって担当監督当局といえば州の保険監督当局になるためです。つまり、米国は州を監督の単位としてみるか、「アメリカ合衆国」という国を単位としてみるか、という二つの見方があるのです。前者の立場をとると、IAIGsの定義の一つが「3つ以上の国」ではなく「3つ以上の州」で営業していること、となります。米国では州をまたいで営業している保険会社なんていくらでもあるので、これだと米国でIAIGsに該当する保険会社が爆増してしまいます。このため、IAIGsの定義を定めるところで、わざわざ「米国は一つの国とみなすが、EUメンバー国はそれぞれ別扱いとする」ということが書かれています(ICP CF23.0.a.5)。

米国に関する、この「連邦か州か」という単位の扱いに関しては悩ましく、IAIGsに対する資本規制であるICSの計算にも影響を及ぼしています。ICSはグループ全体の連結ベースでの規制資本を計算するのが基本的な考え方ですが、米国は、単体ベース(要するに州ごと)の規制資本をまず計算してそれをグループ全体で合計する「合算法(Aggregation method)」を主張しています。IAIGsの指定にあたっての判断は米国を一つとして見るが、ICSの計算は州ごとにやることを認めてほしい…ってことですね。まあ実務負荷を考えるとわからなくはない主張ではありますが。

上述の34グループのIAIGsも監督当局が公表したものですし、他にまだ公表されていないものもあるかもしれません。ICS自体もモニタリング期間中は公表されない扱いになっていますので、どれくらいのことが公表情報から得られるのかは不透明ですが、合算法の扱いも含めて今後の状況には要注目かと思います。

2020年10月31日 (土)

金融庁が日本のIAIGsを公表

昨日、金融庁が「IAIGs等向けモニタリングレポート」を公表し、その中で日本のIAIGsとして該当する会社を指定しました。

IAIGsとは「国際的に活動する保険グループ(Internationally Active Insurance Groups)」のことです。銀行には国際的な監督規制としていわゆるバーゼル規制がありますが、保険については国ごとに規制を行うことが主であり、複数の国をまたいだグローバルな規制はあまり行われていませんでした。しかし近年、保険業界においてもグローバルに展開する保険グループに対する規制が整備されてきており(ComFrameと呼ばれます)、その規制を適用する対象としてIAIGsというものが定義されました。

ComFrameの中ではIAIGsは次の条件を満たす保険グループとして定義されています。

  • 国際的活動要件
    • 3以上の国または地域で保険料が計上されており、かつ
    • 本国外のグロス収入保険料が、グループ合計のグロス収入保険料の10%以上あること
  • 規模要件
    • 総資産が500億米ドル以上、または
    • グロス収入保険料が100億米ドル以上

そして、この要件を満たす保険グループとして、日本では以下の4グループが指定されました。

  • 第一生命グループ
  • 東京海上グループ
  • MS&ADグループ
  • SOMPOグループ

ComFrameでのIAIGsの要件は以前から公表されていたので上記の4グループが該当することはわかっていたのですが、上記の要件を満たさない場合でもIAIGsとする、あるいは上記の要件を満たしてもIAIGsとしない、という裁量権を監督当局が持つ旨が規定されていたため、上記4グループがIAIGsとなるかどうかは確定したものではありませんでした。それが今回確定した、ということになります。(ちなみに、IAIGsの指定は随時見直されますので、永続的にこの4グループだけ、というわけではありません。)

さて、IAIGsに指定されると何があるのか、ですが、まずはICS(Insurance Capital Standard)という資本規制がかかります。とは言っても、現在のICSはモニタリング期間(いわば試行期間)と位置付けられており、2024年までは資本が規制水準を下回ったとしても監督上の措置はとられません。しかし金融庁への報告義務はあるので、日本のローカルな資本規制(つまりソルベンシー・マージン基準)とは別に、ICSベースでの資本計算やリスク計算などの対応を行う必要があります。また、金融庁は金融庁で日本のソルベンシー・マージン基準を経済価値ベースにバージョンアップすることを検討しているので、それへの対応も進めないといけません。つまり、IAIGsは

  • 現行のソルベンシー・マージン基準(日本のローカルな資本規制)→やらなきゃいけない(報告しなければならないし、監督措置もある)
  • ICS(国際的な資本規制)→やらなきゃいけない(監督措置はしばらくないが、報告しなければならない)
  • 経済価値ベースのソルベンシー規制(日本のローカルな資本規制)→2025年までにやらなきゃいけない

ということで、3つの資本規制に対応する必要が出てきています。なお最後の「経済価値ベースのソルベンシー規制」については金融庁にまとめページがあります。

ComFrameとICSについてはこちら。

また金融庁からは、IAIGsの指定と合わせて、グループベースの統合リスク管理に関するセクションを新設した「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案が公表されていますね。

今後、日本の経済価値ベースのソルベンシー規制の検討がどのように進むのか、またICSがモニタリング期間中にどのような見直しがなされるのかについては引き続き要注目ですね。

2020年8月31日 (月)

生保の国債の残存期間別残高

生命保険会社各社から2019年度のディスクロージャー誌(アニュアルレポート)が出てきています。それぞれの会社のホームページにも掲載されていますが、生命保険協会には全社を一覧としてまとめたページがあります。今年は新型コロナウイルスの影響か、一部の会社については現時点で「今後掲載予定」になっていますね。

さて、アニュアルレポートで開示されている項目の中に、有価証券の残存期間別残高というものがあります。これは法令(保険業法施行規則別表(第59条の2第1項第3号ハ関係(生命保険会社)))に規定されているもののため、すべての生命保険会社が掲載しています。そして、残存期間は「1年以下」「1年超3年以下」「3年超5年以下」「5年超7年以下」「7年超10年以下」「10年超(期間の定めのないものを含む)」の6区分となっています。

さて、この残存期間別の構成比がどうなっているのか見てみましょう。少し情報が古いですが、財務省の国債市場特別参加者会合の資料に載っていました。

Life_jgb_by_year

(第64回国債市場特別参加者会合(2015年12月14日)参考資料P9より)

一見してお分かりのとおり、生命保険会社が保有する国債は長期化がどんどん進められており、10年超の占率は2009年度末の41%から2014年度末には72%となっています。この結果、10年超の債券の6割超を生損保が保有している、という状況になりました。

Jgb_holders

(第64回国債市場特別参加者会合(2015年12月14日)参考資料P8)

このように生命保険会社の国債保有がどんどん長期化されている中、「残存10年超」がひとくくりにされているのは、さすがに区分として大きすぎるのではないでしょうか。遡ってみると、この開示を規定した保険業法施行規則の別表は1998年11月の改正によって設けられています。1998年当時、発行国債の最長年限は20年でした。いまや30年国債や40年国債が発行され、20年~40年国債の毎年の発行額は、10年国債の発行額に近い水準になっています。「10年超20年以下」を設けるなど、もう少し細分化を進めてもよいような気がします。

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