アクチュアリー

2017年3月 1日 (水)

2017年4月からの保険料率改定

現在1%となっている標準利率が今年の4月から0.25%に下げられることに伴い、今月になって各社が保険料率の改定を公表しています。その内容をみてみましょう。

みどり生命(2016年12月22日発表)
http://www.midori-life.com/company/infomation.html#kaitei
定期保険、終身保険について保険料率引き上げ。こども保険は販売停止。

アフラック(2017年1月20日発表)
http://www.aflac.co.jp/info/revised_rates.pdf
定期保険、終身保険などについて予定利率を改定。保険料率引き上げとなる例が多いものの、若齢の定期特約などでは引き下げとなっています。また、商品によっては改定時期が4月ではなく、3月または7月となっています。

メットライフ生命(2017年2月1日発表)
http://www.metlife.co.jp/about/press/2017/pdf/170201.pdf
終身保険について保険料率引き上げ。終身保険(低解約返戻金型)は3月から、終身保険(引受基準緩和型)は2月から改定。

日本生命(2017年2月22日発表)
http://www.nissay.co.jp/news/2016/pdf/20170202.pdf
学資保険、年金保険、終身保険などの保険料を引き上げ。定期保険などは改定せず。

明治安田生命(2017年2月23日発表)
http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2016/pdf/20170223_01.pdf
主力商品「ベストスタイル」について保険料引き下げ。定期保険、終身保険などについて保険料引き上げ。

住友生命(2017年2月23日発表)
http://www.sumitomolife.co.jp/about/newsrelease/pdf/2016/170223a.pdf
基本的に保険料引き上げ。ただし商品・年齢によっては引き下げとなる場合も(「ドクターGO」30歳契約など)。

三井生命(2017年2月23日発表)
http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/20170223.pdf
保障セレクト保険、定期保険、養老保険などについて保険料率引き上げ。

朝日生命(2017年2月28日発表)
http://www.asahi-life.co.jp/company/pressrelease/20170228.pdf
保険料例のみ記載のため詳細は不明ですが、介護保険、医療保険の保険料例は引き上げ、定期保険の例は引き下げとなっています。

富国生命(2017年2月28日発表)
http://www.fukoku-life.co.jp/about/news/download/20170228.pdf
学資保険、年金保険、定期保険、養老保険について保険料率引き上げ(定期保険は短期の事例で引き下げあり)。「未来のとびら」、「医療大臣プレミアエイト」については改定なし。

かんぽ生命(2017年2月28日発表)
http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/press/2017/abt_prs_id001136.html
保障性の高い一部商品について保険料率引き下げ、養老保険、終身保険、学資保険などについては基本的に引き上げ(条件によっては引き下げ)。

まっさきに保険料率改定を公表した「みどり生命」は、2008年に共済から移行した生命保険会社です。しかし改定時期の4ヶ月以上も前に公表するのはめずらしいです。まあ、早ければいい・遅ければ悪いといったたぐいのものではありませんが。

前回の標準利率改定でも同様のブログを書きましたが、傾向としては前回とほぼ同様かと思います。マイナス金利政策下で運用収益がきわめて厳しい状況にある以上、貯蓄性商品の予定利率引き下げ(=保険料引き上げ)はやむなし、ただし主力商品あるいは保障性商品では現行水準を維持したい、というところが見えます。

ちなみに定期保険の料率が上がるか下がるかについてはややバラツキが見られますが、これは保険期間が短期か長期かで予定利率の変化の受け方が大きく異なるためだと思われます。さらに(おそらくは)予定利率以外の計算基礎も変更している可能性があるので、話はそう単純ではないでしょうが…

2016年9月 3日 (土)

標準利率:来年4月から0.25%に

保険会社が責任準備金を積み立てる際の重要な計算基礎の一つである標準利率。これが改定されることが決定しました。

まずはその決定方法を確認しておきましょう。具体的な規定は平成8年大蔵省告示第48号にありますが、概要は以下のとおりです。

  • 過去の10年国債応募者利回りを基礎データとする。
  • 毎年10月1日における、「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」と「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」のうち低いほうを対象利率とする。
  • 対象利率に安全率係数をかけたものを基準利率とする。
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離していた場合には、翌年4月からの標準利率を改定する。
  • 改定後の標準利率は、基準利率を0.25%単位で丸めた値。

9月1日に10年国債の入札があり、応募者利回りが決定したため、来年4月から適用される標準利率が決まりました。具体的な数値は次のようになっています。

  • 現在の標準利率は1%
  • 「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」は0.361%
  • 「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」は0.983%
  • したがって対象利率は0.361%
  • 対象利率に安全率係数をかけた基準利率は0.325%
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離しているので、来年4月からの標準利率は改定される
  • 改定後の標準利率は、0.325%を0.25%単位で丸めた0.25%

さて、では今後この標準利率がさらに変わることはあるでしょうか? 変わるためには0.5%以上の乖離が必要なので、基準利率が0.75%以上となるかマイナス0.25%以下となるか、いずれかの状態が生じることが条件となります。

まず上がるほうから。基準利率が0.75%以上となるためには、対象利率が0.834%以上とならなければいけません。しかし現在の金利環境を見ると、最長の40年国債でも利回りは0.5%そこそこ…当面、生じることはなさそうです。

ではマイナス0.25%以下になることはあるでしょうか。7月の10年国債の入札時には応募者利回りがマイナス0.243%まで低下し、「すわ!」と思われましたが、それ以降はやや持ち直しており、こちらも生じる可能性は低そうです。しかしそもそも10年金利がマイナスになることすら昨年までは想像もできなかったので、もはや何が起こるか分かりません。

最近の債券市場サーベイにも表れていますが、国債市場の機能度の低下は目を覆うものがあります。それが規制上の重大な要素に直結している生命保険業界の関係者としては、一刻も早く金利市場が正常化してほしいものです。

2016年6月27日 (月)

Brexitによって保険規制はどうなるか

(このブログの記事はどれも個人的なコメントではありますが、今回のエントリもそうですので、念のためにあらかじめおことわりしておきます。)

英国が国民投票でEU離脱を選択してしまいました。残留派の女性議員の射殺事件以降はなんとなく残留優勢の雰囲気があったために楽観していましたが、いやもう驚きの一語です。

さて、このEU離脱によって保険業界的に気になるのは、「ソルベンシーⅡはどうなるのか?」ということでしょう。なんといっても今年の1月1日に施行されたばかりですし。

英国アクチュアリー会の発行する“The Actuary”に、このことに関する記事が早速載っています。

Brexit: UK insurers continue to be bound by Solvency II for now

記事の論調では、当面(英国が正式にEU脱退するまで)は大きな影響はないだろう、とされています。理由として、

  • EUソルベンシーⅡ指令に基づく法律が英国の法律として成立しているため、当面はその法律下の義務に服する
  • すでにかなりのコストをかけてソルベンシーⅡ対応を行なってしまった

といったことが挙げられています。

イングランド銀行および金融行為規制機構(FCA)も同様に、当面の変化はないこと・金融機関の健全性は金融危機時よりはるかに高まっていること、を中心とした声明を発表しています。

Statement from the Governor of the Bank of England following the EU referendum result

FCA: Statement on European Union referendum result

長期的な見通しについては「今後の英国とEUとの関係次第」とのことですが、上記“The Actuary”の記事にあるとおり、保険業界としてはEU市場へのアクセスの確保が要望されているようです。

ということで規制の面で短期間に急激な変化が生じることはあまりなさそうですが、気になるのは金融環境のほうです。今回の国民投票の結果により他のEU各国にも動揺が生じており、すでに「自国でも国民投票を」といった声が上がっている国がいくつかあるようです。英国もスコットランドの動向をはじめとして不安があり、このまま動揺が広がれば欧州危機のような混乱をもたらしかねません。

経済価値ベースのソルベンシー評価においては、経済価値が正しく評価できることが大前提となります。正しい経済価値が評価できない場合、経済価値ベース評価の代表選手であるソルベンシーⅡはもとより、日本でのソルベンシー規制の検討、さらに国際的な保険資本規制の枠組みであるICSにも影響するかもしれません。

規制動向そのものだけでなく、金融環境にも要注目の状況が続きそうです。

2016年6月20日 (月)

6月14日の金利

ご承知のとおり、標準責任準備金の計算基礎となる予定利率(標準利率)は、国債の応募者利回りと流通利回りから決定されます。詳細な規定は下記の過去エントリを見ていただければ。

要するに標準利率の設定対象は「一時払養老・一時払年金」「一時払終身」「その他の保険」に分かれるのですが、このうち一時払終身保険の標準利率は、10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半に基いて定められます。

6月14日、その「10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半」がついにマイナスとなりました。

先日パブリックコメントが締め切られた標準利率設定ルールの改正案が実際に改正・施行されればマイナスの標準利率が導入されることになるわけですが、とうとう一時払終身保険にまでマイナスの標準利率が適用される可能性が出てきました。

マイナスの標準利率が即マイナスの予定利率を意味するわけではありませんが、いずれにせよ保険会社は標準利率に基づく責任準備金の積立負担を負うわけで、以前のエントリで述べたように改定頻度が上がったにもかかわらず平準払と同じ安全率係数が適用されていることも含めて、標準利率についてはさらなる見直しの機運が生じてくるかもしれません。が、うーん、もはやベースとなる金利自体がマイナスの中では意味がないか…

2016年5月31日 (火)

2015年度大手生保決算

2015年度の主要生保の決算が出揃いました。

さて、生命保険会社の決算開示は「決算のお知らせ」と「補足資料」から構成されています。

「決算のお知らせ」には以下のような内容が含まれています(以下は第一生命の例です。株式会社と相互会社で項目の表記や順番に若干の相違がありますが、おおむね似たような項目構成です)。

  1. 主要業績
  2. 2015年度末保障機能別保有契約高
  3. 2015年度決算に基づく契約者配当金例示
  4. 2015年度の一般勘定資産の運用状況
  5. 貸借対照表
  6. 損益計算書
  7. 株主資本等変動計算書
  8. 経常利益等の明細(基礎利益)
  9. 債務者区分による債権の状況
  10. リスク管理債権の状況
  11. ソルベンシー・マージン比率
  12. 2015年度特別勘定の状況
  13. 保険会社及びその子会社等の状況
  14. 保険種類別の概況

「補足資料」は資産関係の詳細な情報が含まれており、有価証券の明細や含み損益の状況、貸付金の明細などが載っています。

これらに加え、各社共通の開示内容としては記者会見資料があります。これは上記の定型の決算発表様式には掲載されていない情報を補足的に回答しているもので、平均予定利率や含み益がゼロとなる日経平均株価、銀行窓販での販売状況などが載っています。

と、ここまでが「生保の決算開示」として関係者になじみ深いものだったのですが、今回の決算開示の特徴としては、これら以外に独自の開示を行う会社が増えたということが挙げられます。

上場している第一生命をはじめとして、このような決算説明資料の開示は過去もある程度は行われていたのですが、決算開示当日にこのように大手が揃って開示するのは今回が初めてではないかと思われます。

その背景ですが、やはり最近活発となったM&Aにあると思われます。

上記の定型の開示様式はあくまでも単体決算がベースであり、連結関係の情報は「保険会社及びその子会社等の状況」だけです。このため、業績を含めた形でグループ全体の情報を開示しようと思うと、独自形式にならざるを得ません。逆に言えば、今年からグループベースでの表示の重要性が格段に増している、ということです。

実際、2015年3月末と2016年3月末の連結総資産および連単倍率(総資産ベース)を比較すると次のようになります。

会社名 2015年3月末 2016年3月末
日本生命 62.6兆円(1.006倍) 70.6兆円(1.113倍)
第一生命 49.8兆円(1.353倍) 49.9兆円(1.391倍)
明治安田生命 36.6兆円(1.003倍) 39.1兆円(1.071倍)
住友生命 27.5兆円(1.005倍) 31.8兆円(1.150倍)

2015年3月末の時点では第一生命以外の連単倍率はほとんど1倍だったのに対し、2016年3月末ではかなり変化しているのが分かるかと思います。(連単倍率だけ見るとあまり大きく変化していないようですが、連単倍率がこれだけ変化するためには総資産にして数兆円の変化が必要なのです)

これからも連結ベースは独自開示が続くのでしょうか。あるいは、連結ベースでも何らかの統一様式の作成が進むのでしょうか。今後の開示の動向に注目です。

2016年4月28日 (木)

標準利率設定ルールの改正

先日のエントリで「現行法令上は」と断り書きを入れておいてよかったな、という感じで、標準利率の設定ルールの改正案がパブリックコメントに付されています。

それにしても表題が長い。

今回の改正はまさにマイナス金利に対応したもので、「標準責任準備金計算の基礎となる予定利率の算出に当たって、0%以下の国債利回りの平均値(指標金利)に対応する安全率係数を設定する」とうたわれています。

具体的には、現在以下のようになっている安全率係数の表を、

対象利率 安全率係数
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

次のように改めるというもの。

対象利率 安全率係数
0%以下の部分 1.0
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

意図はもちろん分かるんですが、この表を当てはめた結果としてどのような標準利率になるかは、実は自明ではないように思われます。つまり、

  • 基準利率の「区分」とは?
  • 対象利率の「部分」とは?

というところが、今回の改正案でははっきりしません。

具体的に考えてみましょう。

現在の安全率係数をグラフにすると、次のようになります。

Illustration_1

0%以下を含めると、こう。

Illustration_2

例えば基準利率が2.6%のときは、下のグレー部分の面積ということになります。

Illustration_3

基準利率がマイナスとなった場合、例えば-0.3%では以下のとおり。グレー部分の面積がないので、ゼロであることが分かります。

Illustration_4

さて、では改正後はどのようになるでしょう。明らかに次のようになりますね。

Illustration_5

改正案で、基準利率が2.6%の場合を見てみます。

Illustration_6_2

あれ…?

そうです、改正案の場合、基準利率がプラスのときに「0%以下の部分」をどのように解釈すればよいかが明示的ではないのです。

では基準利率がマイナスの場合はどうでしょう。

Illustration_7

当然、こうだと思いますよね。しかし、こう考えることもできます。

Illustration_8

基準利率がプラスのときに「0%以下の部分」が明確でないのと同じように、基準利率がマイナスのときに「0%を超える部分」をどう解釈するかという問題も考えられます。(とはいえ、さすがにこれは牽強付会だと自分でも思いますが。)

「0%以下の部分」について下のような解釈をするとしても、まだ問題は残ります。

Illustration_7

この「0%以下の部分に安全率係数をかけたもの」はプラスでしょうか、マイナスでしょうか。

基準利率が2.6%のときの「2.0%を超え、4.0%以下の部分」について2.6%-2.0%=0.6%、と計算しますよね。同じように当てはめると、基準利率が-0.3%のときの「0%以下の部分」については、0%-(-0.3%)=0.3%、とプラスになるとも考えられます。これが「-0.3%に決まってんだろ!」というのなら、先ほどの「基準利率が2.6%のときの『2.0%を超え、4.0%以下の部分』」についても-1.4%(=2.6%-4.0%)ということになっちゃいません?

と、うだうだと述べてきたのが屁理屈に過ぎないことは重々承知しているのですが、構成として一貫性を欠いているというのはあると思うんですよねえ。

それにしても、マイナスの標準利率が発生した場合、実務上は相当に混乱が予想されます。システム上、予定利率に符号エリアを用意している会社なんてないでしょうし…

今回のパブリックコメントでは施行時期について明示していませんが、意見の中には「システム対応が膨大」みたいな意見も来るのではないでしょうか。

2016年2月 9日 (火)

マイナスの標準利率はありうるか

日銀が金融政策の一環としてマイナス金利を導入しました。

この発表を受けて国債金利が大幅に低下し、10年国債は0.1%を割ってしまいました。9年物までマイナス金利となっており、10年金利がマイナスとなる事態もあながち荒唐無稽とは言えない状況になってきています。

さて、このマイナス金利の保険会社への影響といえば標準利率がどうなるかということでしょうが、そもそも標準利率がマイナスになることはあるのでしょうか。

標準利率の決定プロセスは以下のようになっています。

  • 対象利率を決定する。
  • 対象利率に安全率係数を適用し、基準利率を決定する。
  • 基準利率と現在の標準利率を比較し、一定以上の乖離があった場合は標準利率を変更する。

最初の「対象利率」については、平準払の保険については、10年国債金利の応募者利回りの3年平均と10年平均のいずれか低い方とされています。一時払の保険については、財務省が公表する流通利回り(10年、あるいは10年と20年の平均)の直近3ヶ月平均と直近1年平均のいずれか低い方とされています。いずれにしろ、この平均を計算する段階ではマイナスがあり得ます。

次に基準利率の計算は、対象利率を区分した上で、以下の安全率係数を掛けます。

対象利率 安全率係数
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

この基準利率を計算する段階でマイナス金利部分には安全率係数が存在しないため、マイナスの基準利率は生じない、ということになります。したがってマイナスの標準利率は(少なくとも現行法令上は)あり得ないということになります。

さて、それでは標準利率がゼロという状態はあり得るでしょうか。これは起こりえます。

上のとおり計算された基準利率と現在の標準利率が0.5%以上乖離しているとき(一時払保険の場合は0.25%以上乖離しているとき)は標準利率が改定されますが、標準利率は0.25%単位で決定されるため、基準利率が0.125%を下回るときには改定後の標準利率が0%となってしまいます。上の安全率係数から逆算すると、対象利率が0.13888....%を下回ると、標準率が0%ということになります。

現在の10年国債金利は0.02%。対象利率は一定期間の平均をもとに計算するため、このことが直ちに標準利率の改定となるわけではありませんが、少なくとも標準利率0%というのがまったくの絵空事とは言えないような環境になってしまっています。

(2016.2.11追記)

「対象利率区分に金利がマイナスのときの安全率係数が設定されていないから、対象利率がマイナスのときには基準利率は定義できないのでは」という意見がちらほら見られるので補足です。

基準利率は対象利率を「0%を超え、1.0%以下の部分」「1.0%を超え、2.0%以下の部分」「2.0%を超え、4.0%以下の部分」「4.0%を超える部分」というそれぞれの「部分」に分けて安全率係数を適用するので、対象利率がマイナスの場合はいずれの「部分」もゼロということになり、結果として基準利率はゼロである、というのが自然な解釈ではないでしょうか。そもそも「対象利率がマイナスのときには基準利率は定義できない」のだとすると、対象利率区分が「0%を超え」るところからしか始まっていないため、対象利率がゼロのときの基準利率も定義できない理屈になりますが、これは直感的におかしいでしょう。

2015年2月 1日 (日)

保険計理人の実務基準の改正

1月29日に、日本アクチュアリー会が「生命保険会社の保険計理人の実務基準」の改正案をパブリックコメントに付しました(2月19日まで意見募集)。

    内容は、現在は将来10年間の分析としている1号収支分析について、新たに保有契約の消滅まで将来収支計算を行う「長期収支分析」(実務基準上は「1号収支分析(1-2)」または「1号収支分析(2-2)」)を行うこととしたものです。

    これには「金融セクター評価プログラム」(Financial Sector Assessment Program; FSAP)という背景があります。このFSAPというのは、各国の金融システムが健全なものになっているか(世界的なシステミック・リスクを引き起こすような脆弱性を抱えていないか)を評価するもので、5年に1回行われます。そして、日本においては2012年に評価が実施されました。

    評価にあたっては当然ながら評価基準が必要となるわけですが、保険における評価基準は保険監督者国際機構(International Association of Insurance Supervisors; IAIS)の策定した保険コア・プリンシプル(Insurance Core Principles; ICP)です。このICPは全部で26の原則から構成されていますが、ICP14ではソルベンシー評価のための資産・負債の評価基準について規定されています。

    2012年のFSAPにおいて、日本はこのICP14に関してPartially Obsevedという評価がなされています。評価のレベルは「Observed」「Largely Observed」「Partially Observed」「Not Observed」の実質4段階(このほか「Not Applicable」があります)。通知表的に言えば「よくできました」「できました」「もうすこし」「がんばりましょう」というところでしょうか。

    このようにICP14に関して「もうすこし」という評価を受けた主な原因が「将来収支分析は保有契約の残存期間すべてについて行うべきところ、将来10年間しか行っていない」ということだったので、今回の長期収支分析の新設ということになったと思われます。

    ただ、これは少し議論のねじれを感じます。

    ICP14はあくまでもソルベンシー評価のための資産・負債の評価であり、会計について言及しているわけではありません。一方で保険計理人に求められる将来収支分析(1号収支分析)は、会計上の責任準備金の十分性について分析を行うものです。(実務基準において「会計上」と明記しているわけではありませんが、「ソルベンシー評価用の責任準備金」というものが保険業法上どこにも規定されておらず、保険業法でいう「責任準備金」が会計上そのまま取り扱われていることを考えると、実務基準が対象としているのは会計上の責任準備金であるとするのが自然です。)

    にも関わらずFSAPのコメントは「会計上の責任準備金」に対して適用される部分に(言い方は悪いですが)ケチをつけており、ややお門違いの感を受けるのです。

    ただ、これは日本において会計上の評価基準とソルベンシー確保のための評価基準が峻別されていないことによるものです。米国ではSAPとGAAPという形で明確に違いが設けられているので、(米国が何でも優れているというつもりは毛頭ないのですが)そのような考え方の峻別をきちんと行って、日本でもあるべき議論が正しく進むことが望まれます。

    2015年1月11日 (日)

    書評「12大事件でよむ現代金融入門」

    この年末年始はいくつかの良書に出逢えましたが、これもその一つです。

    まずは目次を挙げましょう。

    • 第1章 ニクソン・ショックの衝撃-現代経済が"金離れ"したとき
    • 第2章 中南米危機にみる累積債務問題の重石-原油が世界をかき回す
    • 第3章 プラザ合意の落とし物-強いドルはアメリカの国益?
    • 第4章 ブラック・マンデーの悪夢-リスク・マネジメントの始まり
    • 第5章 日本のバブル崩壊による痛手-邦銀の凋落がはじまった
    • 第6章 ポンド危機で突かれた欧州通貨制度の綻び-ヘッジファンドの台頭と通貨制度の脆弱さ
    • 第7章 P&Gなど事故多発…デリバディブズの挫折-金融工学の暴走とリーマン危機への伏線
    • 第8章 アジア通貨危機で再び新興国の連鎖破綻-新興国リスクとドル依存体制の限界
    • 第9章 ITバブル崩壊の狂騒-「ニュー・エコノミー」という幻想と変貌する金融機関
    • 第10章 リーマン危機に連なる"ゲーム"-アメリカ型金融モデルの崩壊
    • 第11章 ギリシャ財政不安でユーロ絶体絶命-ユーロ圏の南北問題と問われつづける共同体理念
    • 第12章 終わらないフラジャイル・ワールド-次なる震源地はどこだ?

    金融のリスク管理に携わっていると、過去の実績に基づいて何かを行う、ということはしばしば批判の対象となります。例えばヒストリカル・ボラティリティに基づくVaRはその遅行性からリスク指標としての有効性に疑問が呈されますし、ヒストリカル・ストレスシナリオは「もう一回ブラック・マンデーが起こると思うか?」と冷笑されます。

    しかし、本書を読んで思うのは「歴史は繰り返す」であり、著者もそう書いています。

    つぶさに市場経済を観察しながら抱くのは、金融にはあまり学習効果が効かない、という認識です。経済社会は何度も危機に直面し、そのたびに教訓を得たはずなのに、数年後にまた似たような危機を繰り返している

    もちろん、それはまったく同じことがもう一度起こるということではありません。ただ、振り返ってみれば似たような事象は過去にいくらでも起こっているのです。

    たとえば直近の欧州通貨危機。これは、「金融政策に強い『縛り』がある中で財政政策しか対処方法を持たない国は、金融環境の変化に対してきわめて脆弱である」という状況から生じたと考えれば、ドルペッグであることによる金融政策と財政政策の間隙をヘッジファンドに突かれたアジア通貨危機と同じです。そのように考えると、ユーロの危機は、金融政策と財政政策という二つの手段を取りうるようにならない限り(つまりユーロという通貨を放棄しない限り)抱えつづけるとも考えられます。

    日本においては歴史的な低金利となっていますが、過去に起こった金利の急騰(=国債の暴落)として、タテホ・ショックなどがあります。

    その後も長期金利は超低水準で推移しましたが、徐々に「国債バブル」への警戒感が強まり、一方的に金利が低下する地合いは終焉を迎えます。そして9月に、鉄工所の耐火煉瓦材料として利用される電融マグネシアの世界的メーカーであったタテホ化学工業が、国債先物で286億円の損失を出したことが明らかになりました。損失額は同社年間売上高の約4倍にものぼるといわれました。この事件は「タテホ・ショック」として、海外でも報道されるほどの注目を集めます。本件も氷山の一角にすぎないのではないかという思惑が広まって、株式市場や債券市場が急落したからです。長期金利は、5月の2.55%から10月にはなんと6%以上に跳ね上がったのでした。

    この金利低下は元々黒田日銀のQQEによって一層強まっていますが、これにはリスク性資産(特に株式)の価格上昇という副作用が伴っています。アベノミクスの喧伝のされ方もあって、これが誤ったメッセージとなっている可能性に著者も懸念を表明しています。

    時間を買うはずの金融政策が、「金融政策によって、以前のような経済成長率を取り戻せる」という誤ったメッセージを人びとに与えている側面は否定できないのです。

    また著者は、ウクライナ問題へのロシアの対応から、冷戦はまだ完全には終結していない、との認識を示します。

    つまり、現在の私たちは、超金融緩和時代の終焉とポスト冷戦時代の終焉という2つの巨流が、一気に交差する局面に立たされているのです。そうした中で、将来には、今までにはなかったパターンの危機が起きる可能性があります。

    しかしながら、これまで「歴史は繰り返す」をずっと経験してきたわれわれにとって、今までになかったことが今後起こりうるかもしれないにせよ、学ぶべきは歴史であると思われます。

    本書は、その時代を知らない者にとってはまさにタイトルのとおり「入門」であり、その時代を知る者にとっては再び当時をひもとくきっかけになる本だと思います。

    2014年12月25日 (木)

    4月からの標準利率

    ごぶさたしています。このブログで私の生存確認をしている人もいると聞きましたが、なんとか生きています。

    さて、前回と同じ話になってしまうのですが、新しいルールの下での標準利率がいよいよ決まります。一時払保険に適用される新しい標準利率は平成27年4月1日以降の契約からとなりますが、「標準利率自体が何%になるか」というのは、その3ヵ月前にあたる平成27年1月1日時点で決まります。

    標準利率設定の元データは財務省の公表する流通利回りですから、年内最終日である12月26日に決定することとなります。その意味では今日を含めてあと2日ほどデータが足りないのですが、まあ確定と言っていいでしょう。すなわち、

    • 第1号保険契約(一時払終身保険等)については、標準利率は1%
    • 第2号保険契約(一時払養老保険等)については、標準利率は0.5%

    となります。

    そもそも機動的に標準利率が変更されるような仕組みを導入したにもかかわらず、安全率係数のかけ方が平準払商品と同じというのがどうにも解せません。「予定利率を保証している期間は平準払と一時払で変わらない」という意見もありますが、だとしたら保険期間別に安全率係数を設けるべきです。あるアクチュアリーの方とは、「一時払保険は安全率係数なくっていいんじゃね?」という話をしました。

    法令上、責任準備金は「標準基礎率によって計算された責任準備金と、プライシング上の予定基礎率によって計算された責任準備金の大きい方」となります。したがって、標準利率より低い予定利率を設定することに問題は生じません。

    逆に標準利率より高い予定利率を使用した場合、保険会社は追加の積立負担を負うことになります。つまり、標準利率とは、実質的に「保険会社が設定できる予定利率の上限」を規定していることになるのです。

    このこと自体は標準利率の意義そのものではあるのですが、たとえば今後10年国債金利が0.8%に戻ったとしても、標準利率は0.5%のままとなります(安全率係数を加味すると、改定のトリガーである0.25%を超えないため)。マッチング運用がきちんとできていてALMリスクをちゃんとコントロールしている会社であっても、市中金利に追随した利率設定をするのに大きな制約を受ける、というのは、やはり制度として何かおかしいでしょう。「ちゃんとしたALMができる会社ばかりではない」という反論も考えられますが、そもそも商品のプライシングは個別審査を受けるので、その際に会社の特質を考えればよい話です。事前に中途半端な「しばり」をかけるのはいかがなものかと。

    いずれにせよ賽は振られてしまいましたし、現下の金利水準では「高い予定利率をつけたい」という会社もないでしょうから、私の感じているモヤモヤは当面は杞憂に過ぎません。ただし、金利が反騰したときに何が起こるか…気になります。

    2015.1.5追記:すみません、「12月26日に決定」と書きましたが、マーケットは12月30日まで開いているので、12月30日に決定の誤りでした。最終的に決まった標準利率は上記のとおりなのですが。

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