保険

2018年11月22日 (木)

三井生命の社名変更

2015年度に日本生命グループに入った三井生命が「大樹生命」に社名を変更するそうです。

新社名の「大樹」は三井生命の主力商品名ですね。

日経新聞の見出しには「90年の伝統」とありますが、実は三井生命はその間にも一度社名変更をしており、1947年から1952年までは「中央生命保険」という社名でした。この経緯は前回紹介した「保険業界戦後70年史」にも書かれています。

財閥系生命保険会社は、第二会社の設立に際し、財閥商号の使用を禁止され、三井生命保険は中央生命保険、住友生命保険は国民生命保険、安田生命保険は光生命保険、野村生命保険は東京生命保険、日産生命保険は日新生命保険というように、商号変更を余儀なくされたのです。(p32)

ここで「第二会社」という表現が出てきていますが、これは保険会社が戦争により壊滅的な打撃を受けたため、再建のために別会社を設立したものです。したがって三井生命の歴史は、正確には以下のようになります。

  • 1914年:「高砂生命保険株式会社」として発足
  • 1927年:三井財閥下に入り、「三井生命保険株式会社」に社名変更
  • 1947年8月:第二会社である「三井生命保険相互会社」を設立
  • 1947年11月:「中央生命保険相互会社」に社名変更
  • 1952年6月:「三井生命保険相互会社」に社名を戻す
  • 2004年4月:株式会社化し、「三井生命保険株式会社」に改組
  • 2015年12月:日本生命によるTOB成立→日本生命グループ入り
  • 2019年?:「大樹生命保険株式会社」に社名変更?

日経新聞で「90年の伝統」と言っているのは1927年を起点としたものですが、「中央生命」への社名変更以外にも正式な法人名という意味では(組織変更などがあるので)けっこう変わっています。ちなみにこの社名の歴史は、生命保険協会の「会員会社の変遷図」を参考にしました。

さて、このほかにも日本生命グループでは、マスミューチュアル生命が「ニッセイ・ウェルス生命」へと社名を変更することを予定しており、さらに代理店向け新会社の設立も発表されています。

2019年度は耳新しい生命保険会社が増えそうですね。

2018年10月30日 (火)

書評:保険業界戦後70年史

(2018.11.5 社名の誤りを訂正しました。ご指摘ありがとうございました。)

戦後の生損保経営史をつづった本。これはマニアックですよ。

戦争被害からの第二会社の設立から高度経済成長、バブルを経て、失われた20年までの生保・損保業界が詳しく述べられています。

著者の九條守氏はおそらく損保業界の人なのでしょう、どちらかといえば損保のほうが詳しく書かれていますが、生保も、特に営業体制の歴史が概観できたのは有益でした。

明治の創業期の生保の営業は、 生命保険事業というものに関する世間の理解がまだ浅いことを理由に「名家・紳商等」、つまり知識層・富裕層を相手にした代理店扱が主であったとのことです(ただし第一生命は経費節減のため代理店扱を採用しなかった)。これに対して小口・月掛の簡易保険事業が国による独占事業として営まれていたわけですが、戦後、国による独占が解除されても、事業費効率の観点から民間生保各社は小口・月掛への進出をためらっていたという話は耳新しかったです。

また、このブログでも以前に取り上げた「戦争未亡人の雇用による女性営業職員の増加」が俗説かどうかという話ですが、本書では上記の小口・月掛への進出に関連して、以下のように書かれています。

生命保険各社の「月掛保険」は販売好調だったのですが、やはり当初懸念したとおり、この毎月の保険料を集金する業務が、契約件数が増加するに従って、保険会社の悩みの種になってきました。(略)

そこで、生命保険会社は、保険料の集金業務に特化したパート従業員を雇用することにしました。これらのパート従業員は、主に戦争未亡人が採用されました。終戦直後で働き口も非常に少ない状況の中、生活に窮していた戦争未亡人には、集金だけをして報酬を貰える仕事は魅力的でした。(略)

1951(昭和26)年に、明治生命保険は、集金業務をしていた女性パート従業員に保険募集も任せ、女性外務員として営業活動を行うことを始めました。その際、明治生命保険は、米国プルデンシャル社と提携し、同社の「デビット・システム」を導入しました。(P88-90)

米山先生の「戦後生命保険システムの改革」では女性営業職員の増加が昭和30年代に入ってからとのヒアリングに基づいていることを考えると、戦後すぐは戦争未亡人は営業ではなく集金を行っており、昭和26年から会社が営業への活用も行うようになったという本書の記述はいろいろとつじつまが合います。

他にも興味深く読んだ部分は多いのですが、いくつか残念な点が。

まずは誤植が多い。「ジブラルタ生命」が「ジブラルタル生命」になっていたり、「アメリカン ファミリー ライフ アシュアランス カンパニー オブ コロンバス日本支社」が「アメリカン・ファミリー・アシュアランス・オブ・コロンバス日本支社」になっていたり「更生特例法」が「更正特例法」になっていたり。

また、相互会社の資金調達について

資金調達が、株式会社は自社の株式発行で比較的容易であるが、相互会社は利子返済義務がある基金を機関投資家等から募る必要があり困難。(P30)

とありますが、証券化手法を用いた基金募集が主流になった現在ではやや古い議論かなと思います。相互会社についてはほかにも大和生命の破綻に関連して

相互会社であれば、保険契約者に高リスクの負担を強いるような大胆で無謀な経営は行うことが難しく、安全・慎重に臨むような経営をすると考えられますが、株式会社の場合は、株主が利益の最大化を求めるため、ハイリスク・ハイリターンの危険な経営をするおそれがあるというのです。これは、株式会社化が裏目に出て、株式会社化が破綻の要素となった不幸なケースだったのかもしれません。 (P295)

と書かれているのですが、1997~2000年に破綻した生保の多くは相互会社でしたよね?

そして一番首をかしげたのはこの部分。

1999(平成11)年度の時点における生命保険会社の保険料等収支状況(保険料等収入から保険金等支払金を差し引いた額)を見ると、大半の会社(日産生命保険は既に破綻)はマイナスであり、「逆ザヤ」状態でした。プラスを維持している生命保険会社は、大手は日本生命保険と安田生命保険の2社、中堅生命保険会社は太陽生命保険、大同生命保険、富国生命保険の3社だけだったのです。 (P160)

こんな「逆ザヤ」の定義は、少なくとも私は聞いたことがありません。百歩譲ってネットキャッシュフローを簡易的に算出しようとしたのだとしても、事業費と資産運用からのキャッシュフローが抜けてますし…

ちなみに「生命保険会社のディスクロージャー虎の巻」では、生命保険業界の逆ざや額の定義は次のようになっています。

順ざや/逆ざや額=(基礎利益上の運用収支等の利回り-平均予定利率)×一般勘定責任準備金

まあそんなわけで財務的な部分はちと首をかしげる部分もあるものの、保険業界の歴史は多くが公式資料に基づいた「カタい」話になりがちなところ、護送船団行政の中での商品認可に関する大蔵省(当時)と各社の綱引きであるとか、2000年前後における生損保両方を巻き込んだ業界大再編の構想といった『業界ウラ話』的な要素も多分に含まれていて、楽しく読ませていただきました。

2018年8月16日 (木)

日本生命の総資産、かんぽ抜く

2018年度の第1四半期決算が出ましたね。そこではこんなニュースが。

日本生命の総資産が2018年6月末で初めてかんぽ生命を抜いたというものです。

で、過去の両社の推移がどうだったか、単体と連結の総資産をみてみました。

Totalassets

年次データなら「インシュアランス統計号」とかでまとめてデータ取れるけど、四半期ごとのデータってそれぞれの会社のHPから拾ってこないといけないんですね…直近2年以内なら生命保険協会のHPにありますけど…

さて、このグラフを見るといくつかのことがわかります。

まず、日本生命の総資産は2012年ごろまではおおむね横ばいだったのが、以降右肩上がりに伸びています。これは株式相場の上昇によるところが大きいでしょう(子会社株式以外の株式は「その他有価証券」に分類され、貸借対照表上は時価評価されます)。

また、2015年12月末から、連結総資産が単体総資産を大きく上回っています。これは三井生命の買収によるもので、それ以降もオーストラリアのMLCの買収による増加(2016年12月末から)があり、今回(2018年6月末)からはマスミューチュアル生命が加わっています。

一方のかんぽ生命の総資産は減少を続けていますが、これは民営化する前の旧簡易生命保険契約が養老保険中心であり、その満期による減少と思われます。

ちなみに、民営化前の旧簡易生命保険契約は独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構(「機構」)に承継され、機構からかんぽ生命に出再されるという形になっています。このため、かんぽ生命にとっては旧簡易生命保険契約は「受再保険」に分類され、「個人保険」や「個人年金保険」には計上されていません。ただし、機構のHPには旧簡易生命保険のデータが(かなり細かく)掲載されています。

郵政民営化でかんぽ生命が事業を開始したのが2007年10月ですから、そこから10年と9ヶ月。ひとつの歴史的な出来事といえるかもしれません。

2018年4月 3日 (火)

日本法人化

(2018.4.3 社名の誤りを訂正しました。ご指摘ありがとうございました。)

アヒルのCMで有名な「アフラック」という生命保険会社がありますね。この会社、正式名称は「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」という名前でした。昨年度まで。

2018年4月2日から、「アフラック生命保険株式会社」という名称で営業しています。

正確には両者は別の法人で、「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」は米国の法人の日本支店、「アフラック生命保険株式会社」は日本で登記された日本の法人です。保険業法上も免許が別になっており、「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」のほうは保険業法第185条の外国保険業免許、「アフラック生命保険株式会社」は保険業法第3条の保険業免許を取得しています。

2018年4月2日はほかにも「カーディフ生命保険株式会社」「カーディフ損害保険株式会社」が営業を開始していますね。

で、金融庁のサイトを見ると、生命保険会社の免許一覧が早くも更新されています。外国生命保険業免許に基いて営業しているのはチューリッヒ生命1社なんですね。一方、損害保険会社の免許一覧のほうには外国損害保険業免許の会社がずらりと並んでいます。

ここで「外国保険業免許と日本の保険業免許は何が違うのか?」「外国生命保険業者の数が、生命保険と損害保険で大きく違うのはなぜか?」といった疑問が出てきます。

外国保険業免許と日本の保険業免許の違いについては、まず設立のための必要資金が違います。日本で保険会社を設立するためには資本金は最低10億円かかるのに対して、外国保険会社の日本支店の場合、資本金(供託金といいます)は2億円で済みます。実際には高いソルベンシー・マージン比率を確保するためにより多くの金額が必要になる可能性はありますが、まあ法的な最低限度は外国保険会社のほうが低くなっています。

また、生命保険と損害保険の違いについては、損害保険の一つである海上保険をイメージすると分かりやすいかと思います。海上保険は船舶や航空機で輸送される貨物に対する保険であり、当然ながら世界中で補償が発生します。グローバルな会社を顧客としている場合、その会社に保険を提供している側もグローバルに支店を持っておく必要があるわけです。

まあ、ここに書いたような理由だけで決まるほど単純ではありませんが、会社形態の微妙な違いから、会社の戦略を推測したりするのもなかなかおもしろいのではないでしょうか。

2018年1月26日 (金)

アクチュアリーの経営トップ

日本生命の社長が交代するというニュースがありました。

この次期社長の清水博氏はアクチュアリーです。こんな本も書いておられます。

出版が1994年とかなり古いですが、剰余はすべて契約者に還元すべきとされていた相互会社において自己資本を積み立てる「エンティティ・キャピタル・モデル」を提唱した本です。

さて、アクチュアリーが社長になることについては4年ほど前にも似たようなエントリを書いたのですが、今はどのような生保会社にアクチュアリーが経営トップとしておられるのでしょうか。調べてみるとこんな感じです。

  • 明治安田生命:根岸秋男社長
  • 三井生命:有末真哉社長(4月1日から会長)
  • SBI生命:飯沼邦彦社長
  • アリアンツ生命:加藤隆社長
  • アクサダイレクト生命:住谷貢会長(非常勤)
  • プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン:倉重光雄会長兼CEO(ジブラルタ生命会長、プルデンシャル生命会長(非常勤))

社長・会長という意味では現在6名(4月から7名)ということですね。

で、日本生命の経営トップがアクチュアリーということになると、アクチュアリーという職種自体に関心が向くわけで、次のような記事が出てました。

一生食いっぱぐれない専門職 「アクチュアリー」って何だ?(週刊文春2018年2月8日号)

天下の文春様でアクチュアリーの記事を目にする日が来ようとは。さっそく記事を見てみたいと思います。

正会員は日本全体でも1700人ほどしかいない。

日本アクチュアリー会のサイトを見ると、2017年3月31日現在で正会員1,654人とありますね。

保険会社の役員には必ずアクチュアリーがいて、経営会議には主席アクチュアリー役として参加する。

「主席アクチュアリー役」って特定の会社にしかない役職のような気がしますが…それはさておき、保険会社の役員には必ずアクチュアリーがいるというのは本当でしょうか。

で、調べてみました。生命保険会社だけですが。

最近は「役員」といってもいろいろな種類がありますが、取締役・監査役・執行役・執行役員のいずれかで、2017年のアニュアルレポートにアクチュアリー(日本アクチュアリー会の正会員)が載っているかどうかを調べてみたところ、生保41社中、役員にアクチュアリーのいる生保は27社。意外にも1/3の会社は役員にアクチュアリーがいないのですね。

外資系の会社などですと外国のアクチュアリー資格を持つ人が役員にいるケースもあったりしますし、その意味では目安程度の数字ですが、文春にあるとおり、「生保大手4社のうち2社のトップがアクチュアリー出身となった」今回をきっかけに、アクチュアリーが経営に参画する場面がもっと増えるといいですね。

2017年11月13日 (月)

2018年4月の保険料率改定

11月9日・10日と、アクチュアリー会の年次大会がありました。その2日目のプログラムに、このブログでも以前にエントリとして上げた標準生命表の改定をテーマとしたプレゼンテーションがあったのですが(私はそこで司会をやってました)、標準生命表改定の検討を行なってきた標準死亡率調査部会の部会長によるプレゼンとあって、標準生命表導入の経緯や背景、その改定手続き、生命表作成に関する論点など、幅広くお話しいただきました。

生命表がテーマとして論じられることはやはり改定のとき以外はなかなか幅広くは行なわれないので、生保のアクチュアリーやアクチュアリー試験の受験生の方は必読かと思います。アクチュアリー会会員の方はぜひアクチュアリー会のウェブサイトから入手を。ちなみにアクチュアリー会の会員以外も、標準生命表2018の作成に関する資料は入手できます。

で、この標準生命表2018は来年4月から適用されるのですが、この改定を受け、団体保険の保険料率の改定が明治安田生命から発表されていますね。私の知る限り、標準生命表の改定を契機とした保険料率改定の発表はこれが業界初ではないかと思います。

これから来年4月に向けて、各社とも個人保険を含め保険料率の改定の検討(改定するかしないかを含めて)が進められると思いますので、要注目です。

なお蛇足ながら、標準生命表自体は保険料を決定付けるものではなく、あくまでも法定の標準責任準備金の計算基礎にすぎません。ただ、保険料は責任準備金を積み立てるための大きな財源要素の一つであるため、標準生命表が変わって標準責任準備金の水準が変わると、保険料率を変えることを検討する必要が生じる、ということです。マスコミなどでは標準生命表自体が保険料の計算基礎であるかのように書かれていることがありますが、そうではないので念のため。

2017年8月17日 (木)

標準生命表の改定

本日、金融庁告示第31号「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準の一部を改正する件」が公布されました。即日施行ですので、保険関係法規集のほうも改正を反映しました。

今回の改正の内容は、本エントリのタイトルどおり「標準生命表の改正」です。生命保険の契約は長いので、生命保険会社は将来の保険金の支払いに備えて責任準備金を積立てておくことが保険業法で義務付けられています。この責任準備金の計算に用いられる死亡率が「標準生命表」です。マスコミ報道などではこの標準生命表について「生命保険会社が保険料を決定する基準」などと書かれていることがありますが、標準生命表が保険料を直接に規定するわけではありません。

この「標準生命表」は、日本アクチュアリー会が作成したものを金融庁が検証するという建て付けになっています。今回の改正では以下のようなスケジュールで進められました。

上記のとおり、パブリックコメントが日本アクチュアリー会によるものと金融庁によるものの2回実施されています。日本アクチュアリー会によるパブリックコメントでは特段の意見はなかったのですが、金融庁のほうは6の個人より6件のコメントがあったとのことです。コメントの概要には5件しか載っていないのですが、その中にこんな意見がありました。

アクチュアリーファームに勤める著名なアクチュアリーがブログを書いているのをご存知ですか?このブログには、標準利率について多角的な観点から何度もコメントしてありました。標準利率のルール改定の際には、参考にしたでしょうか。しかし、お気づきかもしれませんが、今回の標準死亡率は、このブログにはスルーされてしまいました。なぜとお考えでしょうか。こういった日本を代表するアクチュアリーの意見が全く反映されないからでしょう。もっと専門家の意見を聞くべきだと思います。

えーと、ここで言っておられる「標準利率についてのコメント」とは、このへんのエントリのことでしょうか?

だとすると、私のようなアクチュアリーを「著名」と言っていただけるのは汗顔の至りですが、ブログで取り上げなかったのは、標準死亡率について「べき論」を言うことが難しいから、ということに過ぎません。

標準利率は当時の改正内容が複雑であったことから解説が必要に思われたことと、設定・変更のプロセスが告示で規定されていることからコメントしやすかったという状況がありました。また経済環境に基づくわけなので、他金融商品との整合性等、比較に基づいたコメントのしようもありました。

一方で標準死亡率については、そもそも「どうあるべきか」を言うことが難しい基礎率なのです。例えば標準死亡率改定の頻度はおおむね10年ごとになっていますが、この頻度が少ないのか多いのかということすら一概に言うことはできません。米国のCSO表などは20年近く改定されていなかったということもありましたが、改定頻度を下げることは社会実態から乖離した基礎率を使うことにつながり、それは生保の健全性の中核たる責任準備金の基礎率としてどうなのよ、という話にもなります。

また、国債の市場価格を反映して計算される標準利率と異なり、標準生命表は「死亡率」の話です。したがって標準生命表について語るためには生命保険会社各社の死亡率と標準死亡率との乖離状況を問題とすべきということになるのですが(そうでないと責任準備金に対するマージンが適切かどうかの議論ができない)、販売商品や引受査定の方法などで生命保険会社それぞれの死亡率は異なる(つまり会社の個別性がある)ため、この点からも標準死亡率に関する「べき論」を一概に語るのが難しいのです。

まあそんなわけで今回は特にコメントしなかったのですが、最近更新をサボっているという反省もありますので、これからはエントリの頻度を上げていきたいと思います。

2017年3月 1日 (水)

2017年4月からの保険料率改定

現在1%となっている標準利率が今年の4月から0.25%に下げられることに伴い、今月になって各社が保険料率の改定を公表しています。その内容をみてみましょう。

みどり生命(2016年12月22日発表)
http://www.midori-life.com/company/infomation.html#kaitei
定期保険、終身保険について保険料率引き上げ。こども保険は販売停止。

アフラック(2017年1月20日発表)
http://www.aflac.co.jp/info/revised_rates.pdf
定期保険、終身保険などについて予定利率を改定。保険料率引き上げとなる例が多いものの、若齢の定期特約などでは引き下げとなっています。また、商品によっては改定時期が4月ではなく、3月または7月となっています。

メットライフ生命(2017年2月1日発表)
http://www.metlife.co.jp/about/press/2017/pdf/170201.pdf
終身保険について保険料率引き上げ。終身保険(低解約返戻金型)は3月から、終身保険(引受基準緩和型)は2月から改定。

オリックス生命(2017年2月13日発表)
http://www.orixlife.co.jp/about/news/2016/20170213.html
終身保険、定期保険、疾病・医療保険の一部、養老保険等について保険料率引き上げ。

日本生命(2017年2月22日発表)
http://www.nissay.co.jp/news/2016/pdf/20170202.pdf
学資保険、年金保険、終身保険などの保険料を引き上げ。定期保険などは改定せず。

明治安田生命(2017年2月23日発表)
http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2016/pdf/20170223_01.pdf
主力商品「ベストスタイル」について保険料引き下げ。定期保険、終身保険などについて保険料引き上げ。

住友生命(2017年2月23日発表)
http://www.sumitomolife.co.jp/about/newsrelease/pdf/2016/170223a.pdf
基本的に保険料引き上げ。ただし商品・年齢によっては引き下げとなる場合も(「ドクターGO」30歳契約など)。

三井生命(2017年2月23日発表)
http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/20170223.pdf
保障セレクト保険、定期保険、養老保険などについて保険料率引き上げ。

朝日生命(2017年2月28日発表)
http://www.asahi-life.co.jp/company/pressrelease/20170228.pdf
保険料例のみ記載のため詳細は不明ですが、介護保険、医療保険の保険料例は引き上げ、定期保険の例は引き下げとなっています。

富国生命(2017年2月28日発表)
http://www.fukoku-life.co.jp/about/news/download/20170228.pdf
学資保険、年金保険、定期保険、養老保険について保険料率引き上げ(定期保険は短期の事例で引き下げあり)。「未来のとびら」、「医療大臣プレミアエイト」については改定なし。

かんぽ生命(2017年2月28日発表)
http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/press/2017/abt_prs_id001136.html
保障性の高い一部商品について保険料率引き下げ、養老保険、終身保険、学資保険などについては基本的に引き上げ(条件によっては引き下げ)。

第一生命(2017年3月3日発表)
http://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2016_087.pdf
終身保険、養老保険、こども保険、個人年金などについて保険料率引き上げ。

まっさきに保険料率改定を公表した「みどり生命」は、2008年に共済から移行した生命保険会社です。しかし改定時期の4ヶ月以上も前に公表するのはめずらしいです。まあ、早ければいい・遅ければ悪いといったたぐいのものではありませんが。

前回の標準利率改定でも同様のブログを書きましたが、傾向としては前回とほぼ同様かと思います。マイナス金利政策下で運用収益がきわめて厳しい状況にある以上、貯蓄性商品の予定利率引き下げ(=保険料引き上げ)はやむなし、ただし主力商品あるいは保障性商品では現行水準を維持したい、というところが見えます。

ちなみに定期保険の料率が上がるか下がるかについてはややバラツキが見られますが、これは保険期間が短期か長期かで予定利率の変化の受け方が大きく異なるためだと思われます。さらに(おそらくは)予定利率以外の計算基礎も変更している可能性があるので、話はそう単純ではないでしょうが…

2016年10月15日 (土)

生保の資本調達

日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という複雑骨折感ありありの政策を導入してから1ヶ月近くたちますが、長期金利は0%近辺どころか▲10bps近くですっかり落ち着きつつあります。来年4月からの標準利率も0.25%に下がってしまいます。ほんとうに、生保関係者にとってはマイナス金利政策については恨み言しか出てきません。

(やってみたかっただけですすみません)

そんな中でかろうじてメリットを挙げるならば「調達がしやすい」ということでしょうか。実際、生保各社の資本調達の動きが活発です。今年度に入ってからの調達動向をちょっとまとめておこうと思います。

以下、順番にコメント。

なお、劣後債については利率のステップアップ条項があり、かつステップアップ時に繰上償還(コール)が可能となっているものが一般的です。例えば30年の劣後債で、当初10年間は固定金利、10年経過時にステップアップ(かつ繰上償還可能)といった感じです。こういうのを「30NC10」と書いたりしますので、以下この書き方をします。

日本生命

30NC10の劣後債700億円と、35NC15の劣後債300億円、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、30NC10のほうは当初10年間の利率が0.94%、35NC15のほうは当初15年間の利率は1.12%。

ステップアップ後は変動金利になるのが一般的ですが、ステップアップ後も固定金利になっているのが珍しいですね。何でそうしたのかは分かりませんが。

朝日生命

ニュースリリースだと基金を110億円、劣後ローンを20億円調達する予定となっています。

社員総代会の議案を見ると、基金は8月末までに調達となっていますね。

期間・利率などは不明。

住友生命

60NC5を700億円、60NC10を300億円の、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、60NC5のほうは当初利率が0.84%、60NC10のほうは当初15年間の利率は1.04%。

第一生命

ドル建ての永久劣後債を25億ドル。10年ステップアップです(「PerpNC10」と書きます)。シンガポール取引所上場。利率は当初10年間が4.00%。

三井生命

PerpNC5を300億円、30NC10を500億円。あわせて800億円の調達です。私募。

利率については、PerpNC5のほうは当初利率が0.74%、30NC10のほうは当初利率が0.86%。

明治安田生命

劣後ではないです。基金募集です。証券化した国内公募。期間5年のものを1,000億円調達。利率は0.28%。

ちなみに基金については、償却(債券の償還と同じ意味です)時に「基金償却積立金」を積み立てる必要があるため、劣後と違って期間は一般にそれほど長くありません。

富国生命

PerpNC10を500億円。当初利率は1.02%。

それぞれの格付けを記載しようかと思ったのですが面倒(だしあまり利率に効いてなさそう)なので調べていません。一般論としては、劣後債は保険金支払能力格付けに対して1ノッチ下、基金は1~2ノッチ下に設定されます。最近の格付変更に関しては、上の会社の中では三井生命が日本生命傘下となったことによる格上げがあったぐらいなので、今の保険金支払能力格付けを見れば発行当時の格付けは大体わかると思います。

この金利環境は経済価値ベースで見るとかなりのものですし、各社とももう少し調達額を増やしたりするんでしょうか。

2016年9月 3日 (土)

標準利率:来年4月から0.25%に

保険会社が責任準備金を積み立てる際の重要な計算基礎の一つである標準利率。これが改定されることが決定しました。

まずはその決定方法を確認しておきましょう。具体的な規定は平成8年大蔵省告示第48号にありますが、概要は以下のとおりです。

  • 過去の10年国債応募者利回りを基礎データとする。
  • 毎年10月1日における、「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」と「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」のうち低いほうを対象利率とする。
  • 対象利率に安全率係数をかけたものを基準利率とする。
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離していた場合には、翌年4月からの標準利率を改定する。
  • 改定後の標準利率は、基準利率を0.25%単位で丸めた値。

9月1日に10年国債の入札があり、応募者利回りが決定したため、来年4月から適用される標準利率が決まりました。具体的な数値は次のようになっています。

  • 現在の標準利率は1%
  • 「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」は0.361%
  • 「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」は0.983%
  • したがって対象利率は0.361%
  • 対象利率に安全率係数をかけた基準利率は0.325%
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離しているので、来年4月からの標準利率は改定される
  • 改定後の標準利率は、0.325%を0.25%単位で丸めた0.25%

さて、では今後この標準利率がさらに変わることはあるでしょうか? 変わるためには0.5%以上の乖離が必要なので、基準利率が0.75%以上となるかマイナス0.25%以下となるか、いずれかの状態が生じることが条件となります。

まず上がるほうから。基準利率が0.75%以上となるためには、対象利率が0.834%以上とならなければいけません。しかし現在の金利環境を見ると、最長の40年国債でも利回りは0.5%そこそこ…当面、生じることはなさそうです。

ではマイナス0.25%以下になることはあるでしょうか。7月の10年国債の入札時には応募者利回りがマイナス0.243%まで低下し、「すわ!」と思われましたが、それ以降はやや持ち直しており、こちらも生じる可能性は低そうです。しかしそもそも10年金利がマイナスになることすら昨年までは想像もできなかったので、もはや何が起こるか分かりません。

最近の債券市場サーベイにも表れていますが、国債市場の機能度の低下は目を覆うものがあります。それが規制上の重大な要素に直結している生命保険業界の関係者としては、一刻も早く金利市場が正常化してほしいものです。

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