保険

2017年3月 1日 (水)

2017年4月からの保険料率改定

現在1%となっている標準利率が今年の4月から0.25%に下げられることに伴い、今月になって各社が保険料率の改定を公表しています。その内容をみてみましょう。

みどり生命(2016年12月22日発表)
http://www.midori-life.com/company/infomation.html#kaitei
定期保険、終身保険について保険料率引き上げ。こども保険は販売停止。

アフラック(2017年1月20日発表)
http://www.aflac.co.jp/info/revised_rates.pdf
定期保険、終身保険などについて予定利率を改定。保険料率引き上げとなる例が多いものの、若齢の定期特約などでは引き下げとなっています。また、商品によっては改定時期が4月ではなく、3月または7月となっています。

メットライフ生命(2017年2月1日発表)
http://www.metlife.co.jp/about/press/2017/pdf/170201.pdf
終身保険について保険料率引き上げ。終身保険(低解約返戻金型)は3月から、終身保険(引受基準緩和型)は2月から改定。

日本生命(2017年2月22日発表)
http://www.nissay.co.jp/news/2016/pdf/20170202.pdf
学資保険、年金保険、終身保険などの保険料を引き上げ。定期保険などは改定せず。

明治安田生命(2017年2月23日発表)
http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2016/pdf/20170223_01.pdf
主力商品「ベストスタイル」について保険料引き下げ。定期保険、終身保険などについて保険料引き上げ。

住友生命(2017年2月23日発表)
http://www.sumitomolife.co.jp/about/newsrelease/pdf/2016/170223a.pdf
基本的に保険料引き上げ。ただし商品・年齢によっては引き下げとなる場合も(「ドクターGO」30歳契約など)。

三井生命(2017年2月23日発表)
http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/20170223.pdf
保障セレクト保険、定期保険、養老保険などについて保険料率引き上げ。

朝日生命(2017年2月28日発表)
http://www.asahi-life.co.jp/company/pressrelease/20170228.pdf
保険料例のみ記載のため詳細は不明ですが、介護保険、医療保険の保険料例は引き上げ、定期保険の例は引き下げとなっています。

富国生命(2017年2月28日発表)
http://www.fukoku-life.co.jp/about/news/download/20170228.pdf
学資保険、年金保険、定期保険、養老保険について保険料率引き上げ(定期保険は短期の事例で引き下げあり)。「未来のとびら」、「医療大臣プレミアエイト」については改定なし。

かんぽ生命(2017年2月28日発表)
http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/press/2017/abt_prs_id001136.html
保障性の高い一部商品について保険料率引き下げ、養老保険、終身保険、学資保険などについては基本的に引き上げ(条件によっては引き下げ)。

まっさきに保険料率改定を公表した「みどり生命」は、2008年に共済から移行した生命保険会社です。しかし改定時期の4ヶ月以上も前に公表するのはめずらしいです。まあ、早ければいい・遅ければ悪いといったたぐいのものではありませんが。

前回の標準利率改定でも同様のブログを書きましたが、傾向としては前回とほぼ同様かと思います。マイナス金利政策下で運用収益がきわめて厳しい状況にある以上、貯蓄性商品の予定利率引き下げ(=保険料引き上げ)はやむなし、ただし主力商品あるいは保障性商品では現行水準を維持したい、というところが見えます。

ちなみに定期保険の料率が上がるか下がるかについてはややバラツキが見られますが、これは保険期間が短期か長期かで予定利率の変化の受け方が大きく異なるためだと思われます。さらに(おそらくは)予定利率以外の計算基礎も変更している可能性があるので、話はそう単純ではないでしょうが…

2016年10月15日 (土)

生保の資本調達

日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という複雑骨折感ありありの政策を導入してから1ヶ月近くたちますが、長期金利は0%近辺どころか▲10bps近くですっかり落ち着きつつあります。来年4月からの標準利率も0.25%に下がってしまいます。ほんとうに、生保関係者にとってはマイナス金利政策については恨み言しか出てきません。

(やってみたかっただけですすみません)

そんな中でかろうじてメリットを挙げるならば「調達がしやすい」ということでしょうか。実際、生保各社の資本調達の動きが活発です。今年度に入ってからの調達動向をちょっとまとめておこうと思います。

以下、順番にコメント。

なお、劣後債については利率のステップアップ条項があり、かつステップアップ時に繰上償還(コール)が可能となっているものが一般的です。例えば30年の劣後債で、当初10年間は固定金利、10年経過時にステップアップ(かつ繰上償還可能)といった感じです。こういうのを「30NC10」と書いたりしますので、以下この書き方をします。

日本生命

30NC10の劣後債700億円と、35NC15の劣後債300億円、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、30NC10のほうは当初10年間の利率が0.94%、35NC15のほうは当初15年間の利率は1.12%。

ステップアップ後は変動金利になるのが一般的ですが、ステップアップ後も固定金利になっているのが珍しいですね。何でそうしたのかは分かりませんが。

朝日生命

ニュースリリースだと基金を110億円、劣後ローンを20億円調達する予定となっています。

社員総代会の議案を見ると、基金は8月末までに調達となっていますね。

期間・利率などは不明。

住友生命

60NC5を700億円、60NC10を300億円の、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、60NC5のほうは当初利率が0.84%、60NC10のほうは当初15年間の利率は1.04%。

第一生命

ドル建ての永久劣後債を25億ドル。10年ステップアップです(「PerpNC10」と書きます)。シンガポール取引所上場。利率は当初10年間が4.00%。

三井生命

PerpNC5を300億円、30NC10を500億円。あわせて800億円の調達です。私募。

利率については、PerpNC5のほうは当初利率が0.74%、30NC10のほうは当初利率が0.86%。

明治安田生命

劣後ではないです。基金募集です。証券化した国内公募。期間5年のものを1,000億円調達。利率は0.28%。

ちなみに基金については、償却(債券の償還と同じ意味です)時に「基金償却積立金」を積み立てる必要があるため、劣後と違って期間は一般にそれほど長くありません。

富国生命

PerpNC10を500億円。当初利率は1.02%。

それぞれの格付けを記載しようかと思ったのですが面倒(だしあまり利率に効いてなさそう)なので調べていません。一般論としては、劣後債は保険金支払能力格付けに対して1ノッチ下、基金は1~2ノッチ下に設定されます。最近の格付変更に関しては、上の会社の中では三井生命が日本生命傘下となったことによる格上げがあったぐらいなので、今の保険金支払能力格付けを見れば発行当時の格付けは大体わかると思います。

この金利環境は経済価値ベースで見るとかなりのものですし、各社とももう少し調達額を増やしたりするんでしょうか。

2016年9月 3日 (土)

標準利率:来年4月から0.25%に

保険会社が責任準備金を積み立てる際の重要な計算基礎の一つである標準利率。これが改定されることが決定しました。

まずはその決定方法を確認しておきましょう。具体的な規定は平成8年大蔵省告示第48号にありますが、概要は以下のとおりです。

  • 過去の10年国債応募者利回りを基礎データとする。
  • 毎年10月1日における、「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」と「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」のうち低いほうを対象利率とする。
  • 対象利率に安全率係数をかけたものを基準利率とする。
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離していた場合には、翌年4月からの標準利率を改定する。
  • 改定後の標準利率は、基準利率を0.25%単位で丸めた値。

9月1日に10年国債の入札があり、応募者利回りが決定したため、来年4月から適用される標準利率が決まりました。具体的な数値は次のようになっています。

  • 現在の標準利率は1%
  • 「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」は0.361%
  • 「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」は0.983%
  • したがって対象利率は0.361%
  • 対象利率に安全率係数をかけた基準利率は0.325%
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離しているので、来年4月からの標準利率は改定される
  • 改定後の標準利率は、0.325%を0.25%単位で丸めた0.25%

さて、では今後この標準利率がさらに変わることはあるでしょうか? 変わるためには0.5%以上の乖離が必要なので、基準利率が0.75%以上となるかマイナス0.25%以下となるか、いずれかの状態が生じることが条件となります。

まず上がるほうから。基準利率が0.75%以上となるためには、対象利率が0.834%以上とならなければいけません。しかし現在の金利環境を見ると、最長の40年国債でも利回りは0.5%そこそこ…当面、生じることはなさそうです。

ではマイナス0.25%以下になることはあるでしょうか。7月の10年国債の入札時には応募者利回りがマイナス0.243%まで低下し、「すわ!」と思われましたが、それ以降はやや持ち直しており、こちらも生じる可能性は低そうです。しかしそもそも10年金利がマイナスになることすら昨年までは想像もできなかったので、もはや何が起こるか分かりません。

最近の債券市場サーベイにも表れていますが、国債市場の機能度の低下は目を覆うものがあります。それが規制上の重大な要素に直結している生命保険業界の関係者としては、一刻も早く金利市場が正常化してほしいものです。

2016年8月15日 (月)

シン・ゴジラにおける生保保険金支払い(ネタバレ全開)

大評判の映画「シン・ゴジラ」、観に行ってきました。いやーすごいです。ここんとこずっと頭の中でこの映画の音楽が流れっぱなしです。

で、このブログであれば当然「ゴジラによる被害に伴う保険会社の保険金支払いはどの程度になるか?」ということをエントリにしたくなります。

これはとりもなおさず「ゴジラがどのように暴れ回るか」を明らかにすることですので、ネタバレ全開です。まだ観ていない方は観てからこのエントリを読んでください。

第1形態

ゴジラ(ここではまだ「巨大不明生物」)のしっぽが東京湾アクアライン付近に現れる場面です。アクアラインで崩落事故が発生しますが、大河内首相が「死者は出ていないんだろう?」ということから、人的被害は軽微であることが分かります。災害入院給付が多少あるかもしれませんが、とりあえず金額軽微とします。海上保安官に重軽傷者が出ていますが、これは職務上の傷病のため民間保険会社の出番はないものとしましょう。

第2形態~第3形態

ゴジラ(ここでもまだ「巨大不明生物」)が多摩川に入り、呑川を遡上して蒲田から上陸、品川まで行ったところで急に東京湾に戻るまでです。この上陸に関しては翌日のニュースで「死者・行方不明者は100人を超え」たと報じられていますので、死者100名とします。

生命保険協会の統計によれば、2015年3月末保有契約ベースでの東京都の平均保険金額(個人保険)は619.4万円。ただし、1人で複数加入しているケースがあります。2015年3月末の東京都の保有契約数が1,730万件であるのに対して、2014年10月末の東京都の人口は1,339万人であるため、おおむね1人あたり1.3件加入していることになります。この分を考慮すると、東京都の人口1人あたりの保険金額は約800万円。したがって100人だと約8億円となります。

上記は個人保険の金額なので、団体保険を加えます。団体保険に関しては、東京都は被保険者数178百万人に対して保有保険金額が252.6兆円なので、1件あたり約140万円。団体保険の重複加入は考えにくいのでこれの100人分として1.4億円。

ここまで災害関係の特約が含まれていませんので、その金額を加味する必要があります。2015年3月末時点での個人保険保有契約(全国)は857兆円、それに対する災害死亡保障の金額は148兆円(災害保障特約+災害割増特約+傷害特約)、したがって個人保険の保険金1あたりの災害死亡保険金額は0.17となります。つまり上記の8億円の0.17倍で、災害死亡保険金額は約1.4億円となります。

次に災害入院保障です。災害入院者数は死亡者数の1.5倍程度、入院日数は10日と見積もってみます。1件あたりの災害入院日額は約6,000円ですので、災害入院による給付金支払見積額は1,200万円程度となります。

以上を合計すると、ここでの支払総額は約11億円ということになります。

第4形態

さて、ここから先はケタが変わります。とりあえず、鎌倉上陸から都心部へ向うまでは避難がそれなりになされ、人的被害は軽微とします。

被害が大規模に発生するのはやはり熱焔と熱線の放出からでしょう。ゴジラは東京駅近くで活動を停止しますが、それまでの熱焔と熱線の放出によって、新橋、虎ノ門、永田町、銀座(少なくとも4丁目)が火の海と化します。東京駅を中心に半径2km以内に致命的な被害が生じるものとします。区でいえば千代田区・港区・中央区にわたります。

これらは特に人の集まる地域であるため、人口比では、実際の面積よりも多めに、千代田区の7割、港区の5割、中央区の9割が被害を受けるとします。ここで被害想定は実際の人口ではなく昼間人口を用いるべきです。少し古いですが、東京都については平成22年(2010年)の区別昼間人口のデータがあり、

  • 千代田区:819,247人(夜間人口47,115人)
  • 港区:886,173人(夜間人口205,131人)
  • 中央区:605,926人(夜間人口122,762人)

となっています。この昼間人口の半分がすでに避難していたとしても、被害対象者総数は78万人となります。この半数が生存していたとして死亡者は39万人。保険金支払額は約4.2兆円となります。2015年度中の業界全体の死亡保険金支払額(災害保険金を含む)が約2.9兆円と比べてみるとその金額の大きさが分かります。

もうこれ以上は計算しませんが、上記の試算ではまだ足りません。被災地域にいて生き残った残りの半数に対する入院給付が発生します。特にゴジラは放射線を発するため、急性放射線障害の発生により治療が長引くことも考えられます(映画では半減期が20日程度であることが判明する場面が出てきますが、そこは今後の除染等への影響であって、急性被爆の影響が小さいことにはなりませんからね)。


さて、ゴジラによる保険金支払の想定をざっくりとしてみました。ここまでで想定していない被害想定として、次のような運用面への影響があります。

  • 投資用不動産の損害(被災地域はオフィス地域であり、生命保険会社の持ちビルも多数あると思いますので、これらの賃料収入の喪失と修復費用が大規模に発生します。一方で東京地域以外の不動産価格が上昇していることがほのめかされてもいます)
  • 経済環境の影響(劇中でも国債や為替が暴落しているというセリフが出てきます。国債価格の下落は生保の経済価値的にはプラスかもしれませんが、その前にバランスシートの傷みが大変なことになります)

そして何より、被災地域には生命保険会社の本社が集中しています。その意味では、そもそも本社が機能を喪失した状態で保険金支払ができるのか、というBCP的観点が最も重要ですね。

最近「エマージング・リスク」ということがたびたび言われます。現在は起こることが思いもつかないが、起こる可能性がある事象で、ひとたび起こると大きな影響があるリスクのことであり、要するに「想定外を想定せよ」ということです。さすがにゴジラが東京を襲うことを想定するのは荒唐無稽に過ぎますが、こういった作品をきっかけにしてリスクのヒントにする、というのはあり得ると思うのですが、いかがでしょうか。

2016年7月23日 (土)

偽サイトにご注意

各保険会社の公式サイトに、7月21日あたりから急に「偽サイトにご注意」のお知らせが目立つようになりました。ざっと見たところ、以下の会社に注意を促す表現が見つかりました。

掲載の日付は、ほとんどの会社で7月21日か7月22日になっています。しかし、これらの会社を見る限り、規模は関係なさそうですし、外資系か国内社かという点も関係なさそうですし、グループ内で1社だけがターゲットになっている会社もあれば、複数のグループ会社がターゲットになっているところもあり、どうにも法則が見出せません。

書かれている「偽サイト」へのアクセスはさすがにしていませんが、他の保険会社に波及する可能性も否定できません。ご注意ください。

2016年6月27日 (月)

Brexitによって保険規制はどうなるか

(このブログの記事はどれも個人的なコメントではありますが、今回のエントリもそうですので、念のためにあらかじめおことわりしておきます。)

英国が国民投票でEU離脱を選択してしまいました。残留派の女性議員の射殺事件以降はなんとなく残留優勢の雰囲気があったために楽観していましたが、いやもう驚きの一語です。

さて、このEU離脱によって保険業界的に気になるのは、「ソルベンシーⅡはどうなるのか?」ということでしょう。なんといっても今年の1月1日に施行されたばかりですし。

英国アクチュアリー会の発行する“The Actuary”に、このことに関する記事が早速載っています。

Brexit: UK insurers continue to be bound by Solvency II for now

記事の論調では、当面(英国が正式にEU脱退するまで)は大きな影響はないだろう、とされています。理由として、

  • EUソルベンシーⅡ指令に基づく法律が英国の法律として成立しているため、当面はその法律下の義務に服する
  • すでにかなりのコストをかけてソルベンシーⅡ対応を行なってしまった

といったことが挙げられています。

イングランド銀行および金融行為規制機構(FCA)も同様に、当面の変化はないこと・金融機関の健全性は金融危機時よりはるかに高まっていること、を中心とした声明を発表しています。

Statement from the Governor of the Bank of England following the EU referendum result

FCA: Statement on European Union referendum result

長期的な見通しについては「今後の英国とEUとの関係次第」とのことですが、上記“The Actuary”の記事にあるとおり、保険業界としてはEU市場へのアクセスの確保が要望されているようです。

ということで規制の面で短期間に急激な変化が生じることはあまりなさそうですが、気になるのは金融環境のほうです。今回の国民投票の結果により他のEU各国にも動揺が生じており、すでに「自国でも国民投票を」といった声が上がっている国がいくつかあるようです。英国もスコットランドの動向をはじめとして不安があり、このまま動揺が広がれば欧州危機のような混乱をもたらしかねません。

経済価値ベースのソルベンシー評価においては、経済価値が正しく評価できることが大前提となります。正しい経済価値が評価できない場合、経済価値ベース評価の代表選手であるソルベンシーⅡはもとより、日本でのソルベンシー規制の検討、さらに国際的な保険資本規制の枠組みであるICSにも影響するかもしれません。

規制動向そのものだけでなく、金融環境にも要注目の状況が続きそうです。

2016年6月20日 (月)

6月14日の金利

ご承知のとおり、標準責任準備金の計算基礎となる予定利率(標準利率)は、国債の応募者利回りと流通利回りから決定されます。詳細な規定は下記の過去エントリを見ていただければ。

要するに標準利率の設定対象は「一時払養老・一時払年金」「一時払終身」「その他の保険」に分かれるのですが、このうち一時払終身保険の標準利率は、10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半に基いて定められます。

6月14日、その「10年国債の流通利回りと20年国債の流通利回りの和半」がついにマイナスとなりました。

先日パブリックコメントが締め切られた標準利率設定ルールの改正案が実際に改正・施行されればマイナスの標準利率が導入されることになるわけですが、とうとう一時払終身保険にまでマイナスの標準利率が適用される可能性が出てきました。

マイナスの標準利率が即マイナスの予定利率を意味するわけではありませんが、いずれにせよ保険会社は標準利率に基づく責任準備金の積立負担を負うわけで、以前のエントリで述べたように改定頻度が上がったにもかかわらず平準払と同じ安全率係数が適用されていることも含めて、標準利率についてはさらなる見直しの機運が生じてくるかもしれません。が、うーん、もはやベースとなる金利自体がマイナスの中では意味がないか…

2016年6月 6日 (月)

不妊治療保険

いささか古いネタで恐縮ですが、不妊治療に係る保険の引受けを可能とするための保険業法施行規則の改正が4月1日付で施行されています。

「保険業法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について

パブコメ時点から来るのではないかと想像していた意見が、案の定提出されていました。

検査を受けて、医師から妊娠の可能性が低いと言われた。しかし、妊娠するかどうかの結果は誰にも分からないと思う。今回のニュースをみて是非、保険に入りたいと思った。是非、医師の診断後で治療を受けている、いないを問わず誰でも入れる保険になる事を願う。費用の負担が少しでも軽減されると、10年後20年後の少子化問題も軽減されると思う。

今回不妊治療に係る規定を追加していただき大変喜んでいる。現在不妊治療中の人も大変金銭的に困っている方も多いので、治療中の人も当該保険の引受け対象になればすごくありがたい。検討をお願いしたい。

これらに関する金融庁の回答は

貴重なご意見として承ります。

とそっけないものですが、いやいや、貴重なご意見もなにも、「現在不妊治療中の人が加入する不妊治療保険」って、法律上無効ですから。

その規定は保険法にあります。

第68条(遡及保険)

傷害疾病定額保険契約を締結する前に発生した給付事由に基づき保険給付を行う旨の定めは、保険契約者が当該傷害疾病定額保険契約の申込み又はその承諾をした時において、当該保険契約者、被保険者又は保険金受取人が既に給付事由が発生していることを知っていたときは、無効とする

2. 傷害疾病定額保険契約の申込みの時より前に発生した給付事由に基づき保険給付を行う旨の定めは、保険者又は保険契約者が当該傷害疾病定額保険契約の申込みをした時において、当該保険者が給付事由が発生していないことを知っていたときは、無効とする。

保険法の条文の中には約款で別途定めれば異なる要件とすることができるもの(任意規定といいます)もありますが、この条文に関してはそのようなことができない「強行規定」とされ、実際、「論点体系 保険法2」(山下友信、永沢徹編著)にも次のように書かれています。

本条1項の規定の趣旨は、保険制度を悪用して少額の保険料を負担することにより多額の保険給付を受けることになるという事態を防止しようとすることにあり、したがってその趣旨には公序性が認められるので、その性質上強行規定である(萩本編著・一問一答63頁)。

まあ保険金が直ちに受け取れる保険なんて、そんなものは保険ではなくてただの利益供与ですよね。「不妊治療の人が加入できないなんて、そんなの可哀想だ!」という人がいたとしても、加入しようとしている人が保険会社の社員や役員の場合には同じことは言わないでしょう。

それにしてもこの不妊治療保険については誤解が多いようで、パブコメに対してこういう意見もありました。

保険各社がこのような「商品」を発売することに反対である。

相互扶助の精神に基づく国民皆保険制度の基本が揺るがされる可能性があることは避けるべきであり、有効な治療は全国民が恩恵を受けられるべき。不妊治療の経済負担を安易に民間保険会社に託すことは国が責任逃れをしていることである。

また、アメリカでは不妊治療が保険会社の商品となった結果、一定の妊娠成功率がある病院にしか保険金が支払われないために、患者の選別が行われたり、「非配偶者間生殖医療」が勧められたり、保険会社がクリニックの治療方針に関与するなどの問題が生じている。それから、アメリカのがん保険会社が日本で大儲けしているように、日本経済には独自の哲学があるにもかかわらずアメリカの考え方に振り回されているのではないかが気になる。

いや、「公的制度でカバーすべきだから民間が商品を作るべきではない」って何か違いませんか? ちなみに、不妊治療については次のような公的助成制度があります。

厚生労働省:不妊に悩む夫婦への支援について

ただ公的助成だけあって、対象となる治療は限定されていますし、所得制限もあります。今回の保険業法施行規則の改正によって民間での不妊治療保険の道が開かれた(というより、明確化された)ことになりますので、これによってより多くの人に役立てる保険が開発されれば、と思います。

保険法の大家、山下友信先生による新著。ちなみに「保険法1」のほうは総則と損害保険です。しかしこの本、定価5,184円なのに、出版当初はなぜかAmazonで8,000円を超える値段がついていました。

2016年5月31日 (火)

2015年度大手生保決算

2015年度の主要生保の決算が出揃いました。

さて、生命保険会社の決算開示は「決算のお知らせ」と「補足資料」から構成されています。

「決算のお知らせ」には以下のような内容が含まれています(以下は第一生命の例です。株式会社と相互会社で項目の表記や順番に若干の相違がありますが、おおむね似たような項目構成です)。

  1. 主要業績
  2. 2015年度末保障機能別保有契約高
  3. 2015年度決算に基づく契約者配当金例示
  4. 2015年度の一般勘定資産の運用状況
  5. 貸借対照表
  6. 損益計算書
  7. 株主資本等変動計算書
  8. 経常利益等の明細(基礎利益)
  9. 債務者区分による債権の状況
  10. リスク管理債権の状況
  11. ソルベンシー・マージン比率
  12. 2015年度特別勘定の状況
  13. 保険会社及びその子会社等の状況
  14. 保険種類別の概況

「補足資料」は資産関係の詳細な情報が含まれており、有価証券の明細や含み損益の状況、貸付金の明細などが載っています。

これらに加え、各社共通の開示内容としては記者会見資料があります。これは上記の定型の決算発表様式には掲載されていない情報を補足的に回答しているもので、平均予定利率や含み益がゼロとなる日経平均株価、銀行窓販での販売状況などが載っています。

と、ここまでが「生保の決算開示」として関係者になじみ深いものだったのですが、今回の決算開示の特徴としては、これら以外に独自の開示を行う会社が増えたということが挙げられます。

上場している第一生命をはじめとして、このような決算説明資料の開示は過去もある程度は行われていたのですが、決算開示当日にこのように大手が揃って開示するのは今回が初めてではないかと思われます。

その背景ですが、やはり最近活発となったM&Aにあると思われます。

上記の定型の開示様式はあくまでも単体決算がベースであり、連結関係の情報は「保険会社及びその子会社等の状況」だけです。このため、業績を含めた形でグループ全体の情報を開示しようと思うと、独自形式にならざるを得ません。逆に言えば、今年からグループベースでの表示の重要性が格段に増している、ということです。

実際、2015年3月末と2016年3月末の連結総資産および連単倍率(総資産ベース)を比較すると次のようになります。

会社名 2015年3月末 2016年3月末
日本生命 62.6兆円(1.006倍) 70.6兆円(1.113倍)
第一生命 49.8兆円(1.353倍) 49.9兆円(1.391倍)
明治安田生命 36.6兆円(1.003倍) 39.1兆円(1.071倍)
住友生命 27.5兆円(1.005倍) 31.8兆円(1.150倍)

2015年3月末の時点では第一生命以外の連単倍率はほとんど1倍だったのに対し、2016年3月末ではかなり変化しているのが分かるかと思います。(連単倍率だけ見るとあまり大きく変化していないようですが、連単倍率がこれだけ変化するためには総資産にして数兆円の変化が必要なのです)

これからも連結ベースは独自開示が続くのでしょうか。あるいは、連結ベースでも何らかの統一様式の作成が進むのでしょうか。今後の開示の動向に注目です。

2016年4月28日 (木)

標準利率設定ルールの改正

先日のエントリで「現行法令上は」と断り書きを入れておいてよかったな、という感じで、標準利率の設定ルールの改正案がパブリックコメントに付されています。

それにしても表題が長い。

今回の改正はまさにマイナス金利に対応したもので、「標準責任準備金計算の基礎となる予定利率の算出に当たって、0%以下の国債利回りの平均値(指標金利)に対応する安全率係数を設定する」とうたわれています。

具体的には、現在以下のようになっている安全率係数の表を、

対象利率 安全率係数
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

次のように改めるというもの。

対象利率 安全率係数
0%以下の部分 1.0
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

意図はもちろん分かるんですが、この表を当てはめた結果としてどのような標準利率になるかは、実は自明ではないように思われます。つまり、

  • 基準利率の「区分」とは?
  • 対象利率の「部分」とは?

というところが、今回の改正案でははっきりしません。

具体的に考えてみましょう。

現在の安全率係数をグラフにすると、次のようになります。

Illustration_1

0%以下を含めると、こう。

Illustration_2

例えば基準利率が2.6%のときは、下のグレー部分の面積ということになります。

Illustration_3

基準利率がマイナスとなった場合、例えば-0.3%では以下のとおり。グレー部分の面積がないので、ゼロであることが分かります。

Illustration_4

さて、では改正後はどのようになるでしょう。明らかに次のようになりますね。

Illustration_5

改正案で、基準利率が2.6%の場合を見てみます。

Illustration_6_2

あれ…?

そうです、改正案の場合、基準利率がプラスのときに「0%以下の部分」をどのように解釈すればよいかが明示的ではないのです。

では基準利率がマイナスの場合はどうでしょう。

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当然、こうだと思いますよね。しかし、こう考えることもできます。

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基準利率がプラスのときに「0%以下の部分」が明確でないのと同じように、基準利率がマイナスのときに「0%を超える部分」をどう解釈するかという問題も考えられます。(とはいえ、さすがにこれは牽強付会だと自分でも思いますが。)

「0%以下の部分」について下のような解釈をするとしても、まだ問題は残ります。

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この「0%以下の部分に安全率係数をかけたもの」はプラスでしょうか、マイナスでしょうか。

基準利率が2.6%のときの「2.0%を超え、4.0%以下の部分」について2.6%-2.0%=0.6%、と計算しますよね。同じように当てはめると、基準利率が-0.3%のときの「0%以下の部分」については、0%-(-0.3%)=0.3%、とプラスになるとも考えられます。これが「-0.3%に決まってんだろ!」というのなら、先ほどの「基準利率が2.6%のときの『2.0%を超え、4.0%以下の部分』」についても-1.4%(=2.6%-4.0%)ということになっちゃいません?

と、うだうだと述べてきたのが屁理屈に過ぎないことは重々承知しているのですが、構成として一貫性を欠いているというのはあると思うんですよねえ。

それにしても、マイナスの標準利率が発生した場合、実務上は相当に混乱が予想されます。システム上、予定利率に符号エリアを用意している会社なんてないでしょうし…

今回のパブリックコメントでは施行時期について明示していませんが、意見の中には「システム対応が膨大」みたいな意見も来るのではないでしょうか。

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