会計

2020年8月18日 (火)

新型コロナウイルス関連の動き(2020年度第1四半期)

生命保険各社から、2020年度第1四半期報告が公表されています。

報道では緊急事態宣言に伴う営業自粛によって新契約獲得が大幅に落ち込んだことを中心に取り上げられていますが、このブログでは以前のエントリで保険金の支払いに関することを取り上げましたので、そちらを追ってみることにしましょう。

この第1四半期で新型コロナウイルス感染症に関する保険金や給付金の支払いがどれくらいあったかをいくつかの会社が公表していますので、以下にまとめてみました(いずれもグループ内の国内会社のみ)。

  日本生命グループ 第一生命グループ 明治安田生命グループ 合計
死亡保険金(件数) 約100件 55件 48件 約200件
死亡保険金(金額) 約14.8億円 約3.8億円 約2.7億円 約21.3億円
入院給付金(件数) 約620件 520件 372件 約1,500件
入院給付金(金額) 約1.2億円 約0.7億円 約1.0億円 約2.9億円

新型コロナウイルス感染症に関する支払状況を公表していたのは私の見た限りではこの3社(3グループ)だけでしたが、いずれも収支への影響は限定的、といってよさそうです。

さて、以前のエントリでも書いたとおり、多くの会社が今回の新型コロナウイルス感染症による死亡を災害死亡保険金の対象とするように災害死亡関係の特約の約款を改定しました。通常であれば「どのようなときに保険金が支払われるか」は契約したときに決定され、契約後に変更されることはありません。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症に関する災害死亡保険金の支払いについては、既存の契約にも遡及適用されました。保険料は変更されていませんから、この「新型コロナウイルス感染症による災害死亡」は、保険料を設定した時点では想定されていなかったものです。アクチュアリー的にはこの部分の金額がどれだけあったのかが気になるところなのですが、それを開示しているのは明治安田生命だけでした(2020年4~6月で9件、約0.2億円)。

まあ、災害死亡保険金かどうかは業界アクチュアリーのマニアックな興味に過ぎないのですが、新型コロナウイルス感染症に関して保険金や給付金がちゃんと支払われたということは、契約者や被保険者の経済的サポートがきちんと行われたということでもあるので、開示する会社がもっと増えればいいのに、と思います。

2014年4月11日 (金)

標準利率設定ルール改正(案)(その4)(完)

さて、長々と解釈してきた「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)」ですが、今回はまとめとして全体を通じたコメントを述べたいと思います。

1: 対象商品が分かりにくい。

第一号・第二号保険契約の定義についてはその2で取り上げましたが、けっこう解釈が複雑です。また、その際にも書いたとおり、特に第二号保険契約の

当該保険金の額が保険料の額又は被保険者のために積み立てた金額に比して妥当なもの

というのが不明確です(一応「一時払年金」と類推しているのですが)。監督指針か何かで規定されるのでしょうが、規定としてはちょっと漠然としすぎてますよね。

2: 一時払終身の対象利率が短すぎる。

今回の改正の趣旨は、上記の改正案のページで次のように書かれています。

○ 今般、制度創設当時(平成8年)と比べると、

(1) 一時払い終身保険など貯蓄性の高い商品の取扱いの増加、

(2) 超長期国債の流通量の増加など保険会社の運用手段の多様化、

(3) 貯蓄性の高い商品の負債特性に対応した資産運用手法(ALM)の高度化

等、状況の変化が認められることから、告示を改正し、標準利率の改定方法の見直しを行う。

しかし、一時払終身の対象利率は、10年国債と20年国債を50%:50%で保有するようなポートフォリオを想定していることになります。私の感覚では、これはいかにも短いように思われます。

3: 安全率係数は必要なのか?

標準利率の設定ルールは、「対象利率の決定において、国債の、短期の過去平均と長期の過去平均の低いほうを取る」という部分と、基準利率の決定において安全率係数をかける」という部分で、金利を低く設定する仕組みが二重にかかっています。利率を低く設定するというのは負債(責任準備金)評価としては保守的ということになるのですが、一時払商品においてはマッチングをしてしまえば資産と負債がパラレルに動くことになり、将来の金利変動のリスクは比較的小さく抑えられます。解約の急増などによるデュレーションの変化で金利変動の影響が拡大するリスクはありますが、これは責任準備金を保守的に評価したところでカバーできる類のリスクではないと思います。利率を低く設定することで、むしろ資産の評価利率と乖離した負債評価利率を用いなければならないことになり、ALMが困難になる面もあるのではないか、という気がします。

4: 0.25%刻みは粗すぎるのではないか?

11月に日経がこの改正の記事を載せたときのエントリで述べたとおり、実態として各社は、現在の標準利率(1%)よりも低い予定利率で一時払商品を販売しています。このとき、各社の予定利率は0.1%程度の刻みになっているものが多いようです。

現在のように金利が低いと、0.25%という刻みは相対的に大きすぎます。1%よりも低い水準でありうる標準利率は、(0%は論外としても)0.25%、0.5%、0.75%の3通りしかありません。前回のエントリにも書きましたが、現在の金利水準で新しいルールを適用すると、一時払養老・一時払年金の標準利率は0.5%になってしまいます。そのような環境下で10年国債金利が0.7%になっても、標準利率は改定されず、従って生保会社は0.7%の一時払養老を販売したくてもできません(できなくはないが、初期の生保会社の負担が大きくなります)。現行制度下では10年国債金利が0.7%なら予定利率0.7%の一時払養老を普通に売ることができるので、今回の改正はむしろ制約を強めるものとなってしまっています。

5: 肝心の金利上昇には対応していない。

今回の改正案について、日経の記事はこのように書いています。

一時払い終身保険などの貯蓄性保険が対象で、金利が上がる際に生保が機動的に保険料を引き下げやすくなる。

しかし、前回のエントリで見たとおり、基準金利設定における安全率係数は現行のものよりも高金利に厳しいものになっています。上に述べたとおり、もともと利率を低く設定する方向に強いバイアスがかかっている標準利率のルールにおいて、高い金利水準での安全率係数を厳しく設定するのは、もはや高金利では一時払商品を売るなと言っているのではないかとも思われます。(金利差の分は配当で支払えばいいということなのかもしれませんが、販売時点で標準責任準備金差額の大幅な会社負担が生じるという点は配当では解消されませんし、販売時に将来の期待配当をどこまで説明できるのかという点も疑問が残ります。)

これまた前回のエントリで示しましたが、金利(対象利率)が7%のときには現行ルールでも基準金利は3.9%、新ルールでは3.4%と半分以下になってしまいます。1990年には10年国債・20年国債とも7%を超える利回りとなっていました。そのような金利水準が再来したとき、3.5%程度の予定利率の商品を誰が買うんでしょうね…

結論として、今回の告示改正案はあまり「いい方向」にならないのではないか、という感覚を持っています。4.で述べたとおり、金利が低い時には現在よりも実質的な制約がきびしくなります(一時払養老で言えば、現在:1%以下で自由に決められるvs改正案:0.5%に実質的に固定される)し、かといって、5.で述べたとおり、金利上昇時に効果的に働くルールかというとそうでもありません。現行ルールでは金利上昇の恩恵が標準利率に及ぶのは10年かかりますが、新ルールでは一時払商品は1年で効果が及ぶ、と、部分的によくなっているところはあるものの、この負債評価ルールでちゃんとしたALMをやれ、というのはなかなかに難しい注文のような気がします。

(念のため申し上げますが、あくまでも個人的なコメントということで。)

P.S. ためしに条文のかたちにしてみました。もともと新旧対比表になっているので、こうしたからといってあまり分かりやすくはなっていないのですが、まあご参考に。

2014年4月 7日 (月)

標準利率設定ルール改正(案)(その3)

思いのほか長くなってしまいましたが、「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)」の内容の第3回です。

これまで、今回の告示改正案に関して、(1)商品によって異なる標準利率が適用されること、(2)異なる標準利率が適用される商品がどのようなものか、について述べてきました。今回は、その「異なる標準利率」が一体何か、について述べます。

前々回の繰り返しになりますが、現在の標準利率は、次のようなステップを年1回、10月に行い、翌年4月からの契約について標準利率を改定するかどうかを決めます。直近のデータを用いて、実際に数値を当てはめてみましょう。

  1. 「対象利率」を決めます。現在のルールでは、対象利率は、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」と「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」のうち低いほう。
    2013年10月1日現在のデータでは、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」は0.939%、「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」は1.329%ですので、対象利率は0.939%となります。
  2. 対象利率を元に「基準利率」を決めます。基準利率とは、対象利率に一定の安全率(掛け目)をかけたものです。
    対象利率が0.939%のとき、基準利率は0.845%となります。
  3. 現在の標準利率と基準利率を比べて、一定の幅以上の乖離がある場合、標準利率を改定します。
    現在の標準利率1%に対して、基準利率は0.845%と、乖離幅は0.155%となっています。
    0.5%以上の乖離があった場合に改定されるルールになっているため、2014年4月からの標準利率は改定されませんでした。

では新しく一時払商品に適用されるルールを、直近のデータに当てはめてみましょう。実際の施行予定は2015年4月の契約からですが、ここでは2014年7月以降の契約に適用されるものと考えて、2014年4月1日現在を基準日にした数値を当てはめてみます。

まずは第一保険契約から。

  1. 対象利率は、「基準日の属する月の前月から過去3月間の利付国庫債券(10年)の流通利回りの平均値に基準日の属する月の前月から過去3月間の利付国庫債券(20年)の流通利回りの平均値を加えて2で除した値」と「基準日の属する月の前月から過去1年間の利付国庫債券(10年)の流通利回りの平均値に基準日の属する月の前月から過去3月間の利付国庫債券(20年)の流通利回りの平均値を加えて2で除した値」のいずれか低いほうです。
    2014年1月1日~2014年3月31日までの3ヶ月間のデータでは、
    10年国債の平均が0.629%、20年国債の平均が1.495%、和半は1.062%。
    2013年4月1日~2014年3月31日までの1年間のデータでは、
    10年国債の平均が0.695%、20年国債の平均が1.572%、和半は1.133%。
    したがって対象利率は1.062%となります。
  2. 対象利率に一定の安全率(掛け目)をかけた基準利率は、0.946%となります。
  3. 現在の標準利率(1%とします)に対して、基準利率は0.946%であり、乖離幅は0.054%となっています。新しいルールでは、一時払商品に関しては0.25%以上の乖離があった場合に改定されるルールになっていますが、乖離幅が0.25%に達しないため、2014年7月以降の契約についても1%が適用されることになります。

次に第二保険契約。

  1. 対象利率は、「基準日の属する月の前月から過去3月間の利付国庫債券(10年)の流通利回りの平均値」と「基準日の属する月の前月から過去1年間の利付国庫債券(10年)の流通利回りの平均値」のいずれか低いほうです。
    2014年1月1日~2014年3月31日までの3ヶ月間のデータでは、
  2. 10年国債の平均が0.629%。
    2013年4月1日~2014年3月31日までの1年間のデータでは、
    10年国債の平均が0.695%。
    したがって対象利率は0.629%となります。
  3. 対象利率に一定の安全率(掛け目)をかけた基準利率は、0.566%となります。
  4. 現在の標準利率(1%とします)に対して、基準利率は0.566%であり、乖離幅は0.434%と0.25%以上の乖離があるため、2014年7月以降の契約については、0.566%を0.25%単位で丸めた0.5%が適用される、ということになります。

対象利率の計算に関して、従来のルールとの違いをまとめると以下のとおりになります。

  • 過去データの使用期間
    現在は過去3年と過去10年のデータを使用、一時払に適用する新ルールでは過去3ヶ月と過去1年のデータを使用
  • 年限
    現在は10年国債のみ、一時払に適用する新ルールのうち一時払終身に適用するものは10年国債と20年国債の和半
  • 使用する利回り
    現在は応募者利回り、一時払に適用する新ルールでは流通利回り

過去データの使用期間の短縮は今回の改正の本質的なものであり、マッチングが比較的容易な一時払商品にはより直近のデータを使用する、という考えに基づくものだと解釈されます。

また年限も、一時払終身のように長期のものについては、超長期国債にマッチングさせることを勘案して、20年国債を基礎データとして取りこんでいます(一時払養老や一時払年金の場合も、保険期間が20年以上のものについては、一時払終身と同じルールを適用することが可能になっています)。ただ、10年と20年の和半(つまり平均15年)というのはちょっと短いんじゃないの? という感覚がぬぐえません。

最後の利回りの違いは更新の頻度であって(過去3ヶ月の応募者利回りでは3つしかデータがない)、本質的な違いではないと個人的には考えています。ちなみに流通利回りは、財務省の国債金利情報のページに載っており、毎営業日更新されています。

次に、上記のステップ2、つまり基準利率の計算で用いられる安全率については、次のような表になっています。

対象利率安全率係数
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、4.0%以下の部分 0.5
4.0%を超える部分 0.25

現在の表は下のとおり。

対象利率安全率係数
0%を超え、1.0%以下の部分 0.9
1.0%を超え、2.0%以下の部分 0.75
2.0%を超え、6.0%以下の部分 0.5
6.0%を超える部分 0.25

見てお分かりのとおり、金利の高いところでの安全率係数が異なっています。このため、

  • 対象利率が5%のとき、現在の安全率係数による基準利率は3.15%、新しい安全率係数による基準利率は2.9%
  • 対象利率が7%のとき、現在の安全率係数による基準利率は3.9%、新しい安全率係数による基準利率は3.4%
  • 対象利率が9%のとき、現在の安全率係数による基準利率は4.4%、新しい安全率係数による基準利率は3.9%

と、金利が上がるほど差が広がっていきます。そして、今回の新しい表は、一時払以外の商品の標準利率にも同様に適用されます。

日経の記事では、今回の告示改正に関して、

金利が上がる際に生保が機動的に保険料を引き下げやすくなる。

と書いていますが、かなり高い水準の金利では逆に現在の制度よりも標準利率が上がりにくい構造になってしまっている、ということです。

(ちなみに記事では「保険料を引き下げやすく」となっていますが、今回の告示改正は保険料そのものを規定するものではありません。この点については11月のエントリ参照。)

次回は、今回の告示改正案についてのまとめとして、個人的に思うところをコメントします。

2014年4月 4日 (金)

標準利率設定ルール改正(案)(その2)

前回に続いて、「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)」の内容について取り上げます。

今回、普通の保険商品とは別に標準利率を設定することになった保険(前回は「一時払終身保険」「一時払養老保険」と書いていました)は、告示(案)では「第一号保険契約」と「第二号保険契約」と書かれています。これらの定義を見てみましょう。まずは第一号保険契約から。(原文は漢数字ですが、読みにくいので適宜アラビア数字に直しています)

保険料を一時に払い込むことを内容とする保険契約(特別勘定(法第118条第1項の規定により設ける特別の勘定をいう。以下この表及び第9項において同じ。)を設けるものを除く。)であって、次に掲げる要件の全てを満たす保険契約

一 法第3条第4項第1号に掲げる保険又は同項第2号に掲げる保険(同項第1号に掲げる保険に併せて引き受けるものに限る。)のうち、被保険者の死亡(余命が一定の期間以内であると医師により診断された身体の状態及び重度の障害に該当する状態を含む。以下この表において同じ。)又は同項第2号イ、ロ、ニ及びホに掲げる事由に関し保険金を支払うことを約する保険に係る保険契約(被保険者の死亡に関する保険金の額(その締結の日から一定期間を経過した後保険金の額が増額又は減額されることが定められる場合にあっては、増額又は減額後の保険金の額)が保険料(保険業法施行規則(平成8年大蔵省令第5号。以下「規則」という。)第53条第1項第4号に規定する既契約の責任準備金、返戻金の額その他の被保険者のために積み立てられている額(以下この表において「転換価額」という。)を含む。)の額未満のものを除く。)

二 その保険期間が被保険者の死亡の時又は法第3条第4項第2号イ、ロ、ニ若しくはホに掲げる事由が生じた時までとされるもの

ほぼ呪文ですね。少しずつ解読していくことにしましょう。

保険料を一時に払い込むことを内容とする保険契約(特別勘定(法第118条第1項の規定により設ける特別の勘定をいう。以下この表及び第9項において同じ。)を設けるものを除く。)であって、次に掲げる要件の全てを満たす保険契約

これは一時払保険のことを言っています。ただし変額保険は除くと。

「次に掲げる要件」のうち最初のものは非常にややこしいので後回しにして、まずは第2号のほうから。

二 その保険期間が被保険者の死亡の時又は法第3条第4項第2号イ、ロ、ニ若しくはホに掲げる事由が生じた時までとされるもの

条文にはリンクを張ったので適宜参照してください。

前者の、保険期間が「死ぬまで」というのはまさしく終身保険のことですね。法第3条第4項第2号は第三分野保険のことで、いわゆる三大疾病終身保険や重度疾病終身保険といったものを後者でカバーしています。

では、後回しにした第1号の内容。

一 法第3条第4項第1号に掲げる保険又は同項第2号に掲げる保険(同項第1号に掲げる保険に併せて引き受けるものに限る。)のうち、被保険者の死亡(余命が一定の期間以内であると医師により診断された身体の状態及び重度の障害に該当する状態を含む。以下この表において同じ。)又は同項第2号イ、ロ、ニ及びホに掲げる事由に関し保険金を支払うことを約する保険に係る保険契約(被保険者の死亡に関する保険金の額(その締結の日から一定期間を経過した後保険金の額が増額又は減額されることが定められる場合にあっては、増額又は減額後の保険金の額)が保険料(保険業法施行規則(平成8年大蔵省令第5号。以下「規則」という。)第53条第1項第4号に規定する既契約の責任準備金、返戻金の額その他の被保険者のために積み立てられている額(以下この表において「転換価額」という。)を含む。)の額未満のものを除く。)

カッコが多いのが読みにくい原因の一つなので、カッコで括られた部分を消してみます。

一 法第3条第4項第1号に掲げる保険又は同項第2号に掲げる保険のうち、被保険者の死亡又は同項第2号イ、ロ、ニ及びホに掲げる事由に関し保険金を支払うことを約する保険に係る保険契約

「法第3条第4項第1号に掲げる保険」というのは第三分野ではない純粋な生命保険のこと。「同項第2号に掲げる保険」というのは第三分野保険のこと。死亡または第三分野の発生事由に基づく保険が対象(つまり純粋生存保険は対象ではない)ということですね。つまり、これは「生命保険または第三分野保険で、給付要件に死亡または第三分野給付が含まれるもの」と言っていることになります。ただし、傷害死亡のみを給付要件とする保険は対象外です。

以下、カッコを復元しながら要件を確認しましょう。第三分野保険についても「同項第1号に掲げる保険に併せて引き受けるものに限る」とあるので、死亡給付または生存給付が必須になります。「余命が一定の期間以内であると医師により診断された身体の状態及び重度の障害に該当する状態を含む」というのは、リビングニーズと高度障害をカバーする文言。

そして対象外の要件がもう一つあります。

被保険者の死亡に関する保険金の額が保険料(保険業法施行規則第53条第1項第4号に規定する既契約の責任準備金、返戻金の額その他の被保険者のために積み立てられている額(以下この表において「転換価額」という。)を含む。)の額未満のものを除く。

要は「保険料(あるいは「保険料+転換価格」)よりも保険金のほうが小さい契約は対象外」ということです。今回の告示改正案は、一時払商品について市中金利との連動性を高めるようにするものですが、保険料よりも保険金のほうが小さい契約というのは、要は契約者にとっては利回りがマイナスになる(つまり掛け捨て要素が強く出る)ため、市中金利への連動が低くても構わない、ということで対象外になっていると思われます。

まとめると、第一号保険契約というものは、

  • 一時払終身保険あるいは一時払第三分野保険(ただし死亡給付が必須で、生存給付のついていないもの)で、
  • 利回りがマイナスではないもの

ということになります。

次に第二号保険契約。

保険料を一時に払い込むことを内容とする保険契約(特別勘定を設けるものを除く。)であって、次の各号に掲げる保険契約のいずれかに該当するもの

一 法第3条第4項第1号に掲げる保険又は同項第2号に掲げる保険(同項第1号に掲げる保険に併せて引き受けるものに限る。)のうち、被保険者の生存及びその保険期間の満了前の被保険者の死亡又は同項第2号イ、ロ、ニ及びホに掲げる事由に関し保険金を支払うことを約する保険に係る保険契約(保険期間の満了後に支払う被保険者の生存に関する保険金の額又はその保険期間の満了前に支払う被保険者の死亡に関する保険金の額(その締結の日から一定期間を経過した後保険金の額が増額又は減額されることが定められる場合にあっては、増額又は減額後の保険金の額)が保険料(転換価額を含む。次号において同じ。)の額未満のものを除く。)

二 法第3条第4項第1号に掲げる保険のうち、被保険者の生存に関して保険金を支払うことを主たる目的とする保険に係る保険契約(前号に掲げるものを除く。)であって、当該保険契約に基づき被保険者の生存に関して支払う保険金以外の金銭の支払(契約者配当(法第114条第1項に規定する契約者配当をいう。)又は社員に対する剰余金の分配及び解約による返戻金の支払を除く。)が、当該保険契約で定める被保険者の死亡に関し支払う保険金に限られ、当該保険金の額が保険料の額又は被保険者のために積み立てた金額に比して妥当なもの

こんどは「次の各号に掲げる保険契約のいずれかに該当するもの」になっているので、順番にみましょう。同じようにカッコ内を消してみます。

一 法第3条第4項第1号に掲げる保険又は同項第2号に掲げる保険のうち、被保険者の生存及びその保険期間の満了前の被保険者の死亡又は同項第2号イ、ロ、ニ及びホに掲げる事由に関し保険金を支払うことを約する保険に係る保険契約

保険金が支払われる要件が「生存」および「保険期間の満了前の死亡」または「第三分野給付」ということですね。つまり養老保険または生存給付ありの医療保険、ということになります。生存時の保険金支払には制限がないので、こども保険のように保険期間の途中で祝い金が支払われるタイプも含まれるでしょう。

カッコ内は第一号保険契約と同じです。つまり第三分野保険には死亡給付または生存給付が必須ですし、利回りがマイナスになるものは対象外です。

さてもう一つの要件に移りましょう。

二 法第3条第4項第1号に掲げる保険のうち、被保険者の生存に関して保険金を支払うことを主たる目的とする保険に係る保険契約であって、当該保険契約に基づき被保険者の生存に関して支払う保険金以外の金銭の支払が、当該保険契約で定める被保険者の死亡に関し支払う保険金に限られ、当該保険金の額が保険料の額又は被保険者のために積み立てた金額に比して妥当なもの

「主たる目的」とか「妥当なもの」とか、ずいぶんと表現があいまいですが、「妥当」を「近い」と解釈すると、

  • 主に生存給付
  • 生存以外は死亡給付のみ
  • 死亡給付は保険料または責任準備金に近い額

ということになります。「主たる目的」と「妥当」の解釈次第ではありますが、一時払年金がこれに該当するように思われます。

まとめると、第二号保険契約というものは、

  • 生存給付のある一時払保険(ただし利回りがマイナスになるもの以外)、または
  • 一時払年金のように生存給付が中心で死亡給付要素が小さいもの

と考えられます。(ただ、後者は解釈がこれでいいのか、文言だけでは判断がつきません。このため、前回のエントリでは「一時払養老保険」とのみ書きました。)

次回は利率について取り上げます。

2014年4月 2日 (水)

標準利率設定ルール改正(案)

本日(正確には昨日ですが)、とても長い名前の法令改正案がパブリック・コメントに付されました。

「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準(平成八年大蔵省告示第四十八号)の一部を改正する件(案)」の公表について

この表題とURLをtweetしようとしたら、なんと140文字を超えてしまいました。長えよ。

それはともかく、この改正は、昨年の11月に日経が報道した「生命保険料 下げやすく」という記事が具体的に法令(告示)の案となったものです。記事になった際、私もエントリとして上げました。(今回の案の公表に合わせて、再度記事が上がってます:金利上昇時、生保保険料下げやすく 金融庁が制度見直し

保険会社は将来の保険金の支払いのために「責任準備金」というものを積み立てますが、今回改正の対象となった告示は、その責任準備金の積み立てについて規定するものです。規定する要素は大きく「積立方式」「予定死亡率」「予定利率」がありますが、今回の改正はこのうち予定利率の規定を見直すというものです。

この予定利率(「標準利率」と言います)は、現在、国債の利回りを基準に、次のようなステップで決められます。

  1. 「対象利率」を決める。現在のルールでは、対象利率は、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」と「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」のうち低いほう。
  2. 対象利率を元に「基準利率」を決める。基準利率とは、対象利率に一定の安全率(掛け目)をかけたもの。例えば対象利率が1%の場合、掛け目は0.9ですので、基準利率は0.9%となります。
  3. 現在の標準利率と基準利率を比べて、一定の幅以上の乖離がある場合、標準利率を改定する。現在は0.5%以上の乖離があった場合、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になります。
  4. 1~3の判定は、現在、年1回、10月に行い、改定は翌年4月からの契約に適用されます。

新しい標準利率設定ルール(平成27年(2015年)4月の契約から適用されます)は、上記1~4のステップが商品によって異なります。

まず一時払終身保険については、次のようなルールになります(太字が今のルールと異なるところ)。

  1. 対象利率は、「『過去3ヶ月の10年国債の流通利回りの平均』と『過去3ヶ月の20年国債の流通利回りの平均』の和半」と、「『過去12ヶ月の10年国債の流通利回りの平均』と『過去12ヶ月の20年国債の流通利回りの平均』の和半」のうち低いほう。
  2. 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる。
  3. 標準利率は、0.25%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる。
  4. 1~3の判定は、年4回、1月・4月・7月・10月に行い、改定は判定の3ヶ月後からの契約が対象。

次に一時払養老保険は次のようなルール。

  1. 対象利率は、「過去3ヶ月の10年国債の流通利回りの平均」と、「過去12ヶ月の10年国債の流通利回りの平均」のうち低いほう。
  2. 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる(一時払終身保険と同じものを使う)。
  3. 標準利率は、0.25%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる。
  4. 1~3の判定は、年4回、1月・4月・7月・10月に行い、改定は判定の3ヶ月後からの契約が対象。

ステップのうち1だけが一時払終身保険と違います。ただし、保険期間20年以上の一時払養老保険は、一時払終身保険と同じルールを適用することができます。

一時払保険以外は、次のようなルールになります。

  1. 対象利率は、「過去3年間の10年国債の応募者利回りの平均」と、「過去10年間の10年国債の応募者利回りの平均」のうち低いほう(現行と同じ)。
  2. 基準利率は、対象利率に掛け目をかける点は同じ。ただし、掛け目は現在のものとは異なる(一時払終身保険と同じものを使う)
  3. 標準利率は、0.5%以上の乖離があった場合に改定することとなり、基準利率を0.25%単位で丸めたものが新しい標準利率になる(現行と同じ)。
  4. 1~3の判定は、年1回、10月に行い、改定は翌年4月からの契約が対象(現行と同じ)。

また、予定利率変動型保険について、予定利率改定時点で適用された上記の標準利率ルールを当てはめることも明記されています。

ところで、上でサラっと「一時払終身保険」「一時払養老保険」と書きましたが、両者の中間的なものや、医療保障・生存保障がくっついたものなどが考えられるため、実際にはもっと細かく規定されています。その規定が非常にわかりにくいのですが、その点は後日ということで、本日はこれまでとさせていただきます。

2013年6月15日 (土)

書評:法の世界からみた「会計監査」

ずっと書評を書かねば書かねばと思っていたのですが、すっかり遅くなりました…

著者はブログ「ビジネス法務の部屋」で有名な山口弁護士です。

本のタイトルからわかるとおり、アクチュアリーはまったく関係ありません。本書の中にアクチュアリーが登場するわけでもありません。しかし、「この議論はアクチュアリーにどう当てはまるか?」と考えながら読むと、いろいろと勉強になります。

本書の副題には「弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」とあり、弁護士と会計士の思考法の違いが描かれています。私が読んだ中で付箋を貼った箇所をいくつか抜粋してみます。

(会計監査手続の中で)「グレーなことには気づくけど、クロである証拠まで辿りつくことは困難。そこに時間をかけることができるほど潤沢な予算はない」…

…監査論の教科書に職業的懐疑心をもって監査せよ、と書いてあるが、実際にはほとんどの会社がシロなので、シロを前提にしないと会計監査制度が成り立たない、というのも(気持ちの問題としては)納得するところです。(P14~15)

弁護士や医師の守秘義務というのは、それが依頼者や患者の権利(生命、身体、財産等の保護)を最大限度に守るという使命を尽くすために認められています。…

…しかし、会計士には「てkしえつな情報開示に協力する」という公益目的のための使命があることを重視するならば、実質的な依頼者は投資家や株主、会社債権者だと捉えられます。このことを前提とした場合には、会計士の守秘義務はどう考えるべきでしょうか。(P36~37)

(弁護士は)自分の職務怠慢や能力不足が指摘されるような事案であっても、裁判官に敗訴の責任を(依頼者への説明の上では)添加することが容易になります。

しかし会計監査の場面における会計士は最終判断者です。(P58)

職務の誠実性というのは、かなり漠然とした言葉ではありますが、社会から期待された職業専門家としての職務執行に向けられたものです。(P67)

リスク・アプローチといいますのは、監査人が監査リスクを合理的に低い水準に抑えるために、財務諸表における重要な虚偽表示のリスクを評価して、発見リスクの水準を決定するとともに、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づく監査を実施する監査手法のことを指します。

…(会計監査)制度を維持するためには、プロのなに恥じないようなレベルの高いものが要求されます。投資家の判断に資する程度のレベルの仕事といえば、一定程度の品質水準をもった監査結果の公表です。この一定程度の品質水準は、被監査企業の重要な虚偽表示リスクの程度に、要求される監査人の労力を勘案して算出されるものです。(P119)

私自身が理解できていないと感じるところがあります。「会計基準」というものはどういったルールなのか、という素朴な疑問です。ルールを決めること、ルールを選択すること、選択されたルールを解釈すること、そのすべてが「会計慣行」のなかに含まれると思うのですが、法律家の頭のなかにあるのは「ルールを選択すること」だけではないか、ということです。(P148)

日本と欧米とでは「リスクコミュニケーション」の手法が異なるため格別の注意が必要、と教わりました。たとえばリコール対応の場合、我が国でも消費者庁の設置によって少しずつ変わってはきているのですが、日本では正確な情報を企業自身が集約してリコール対応の必要性を判断し、対応を決断した時点で情報を開示します。しかしアメリカでは、リコールの是非を企業と市民が一緒になって考えます。(P222)

日本企業はいったん規制が新設されますと、とても従順にこれを遵守するといわれています。過剰な規制の疑いがあったとしても、自らの責任問題に発展することを回避するために、横並び意識によってルールに従います。おそらく現場の実務担当者や監査人にとっては、そのほうが気持ちとしても楽なのかもしれません。しかし、せっかく行政当局が企業の自由な発想を尊重しようとして原則主義を採用したとしても、企業や監査人のほうがこれを拒絶した結果となりますと、これは行政当局にとっては大きな誤算ではなかったかと今でも感じています。

しかも、この行政当局の誤算は、内部統制報告制度だけの問題ではなく、今後の行政規制の在り方として多方面で同様の事態が生じるのではないでしょうか。(P238)

引用をズラズラと書き並べるのは正しい引用の在り方ではないのですが、個々の引用に対してコメントするのが難しいのでご容赦ください。ただ、この本を読みながら、アクチュアリー、あるいはアクチュアリー業務について、考えたところを挙げてみます:

  • 弁護士・会計士は社外者であるのに対し、保険計理人はほとんどが社内者(インハウス)である。
  • 弁護士・会計士資格は国家資格だが、アクチュアリーは民間資格。
  • アクチュアリー(特に保険計理人)は「誰のために」専門職として働いているのか?
  • プライシング・アクチュアリーとバリュエーション・アクチュアリーでは「誰のために」働いているかは違うのか?
  • 「保険計理人の実務基準」はプリンシプル・ベースだろうか、ルール・ベースだろうか?
  • 日本の会計基準、米国会計基準(US-GAAP)、IFRSそれぞれにおける保険負債の考え方の違いは?プリンシプル・ベース/ルール・ベースの違いは?
  • 行政当局にアクチュアリーが絶対的に少ない現状で、(特に保険会社の)アクチュアリーは行政機能の一部を担っているのか、担うべきか?それは「誰のために」働くかという視点と合致するのか、相反するのか?
おそらく、同じアクチュアリーであっても、生保か損保か年金か、商品開発に携わっているか決算業務をやっているか、所属が国内企業か外資系か、などによって、考えるところ・気づくところは大きく違うと思います。ただ、弁護士も、会計士も、アクチュアリーも、専門職として、企業のさまざまなリスクを見る、あるいは対処する役割を負っています。その点で、とてもヒントになることがたくさん得られる書籍です。

2013年5月29日 (水)

続・生保決算

前回のエントリ「生保決算」に対して、「国内生保内勤」さんから以下のような質問をいただきました。ちょっと回答が長くなりそうだったので別エントリにしてみました。

はじめまして。私はとある生保に入社し、地方勤務し始めて数年の内勤職員です。

私は普段本社の方の話を直接聞くことがほとんどなく、ぜひ本社で数理をやっている方に国内生保の経営についてお聞きしたいことが2つありまして、

1つは円安と外債配当の関係ですが、生保は外債投資にあたり元本の大部分ないし全部(住友?)にヘッジをかけていますが、配当に対してはある程度オープンであり円安はプラスだという話を記事で見ました。これは株の増配や国債の金利水準の変化に比べると些末な影響でしょうか?

2つ目は保険料収入に関してですが、私はここ数年の決算を見ていると保有・新規ともに第三分野ANPの進展は限界が近づいているのかなという気がしていますが、内部からだとまだまだ次のタマ(商品)はいくらでもあるくらいの楽観的な考えなのでしょうか?

最初にお断りしますが、私は生保の「中の人」ではないです。ので、お答えできる内容も限定的であることをご承知ください。

では円安について。どの程度の影響になるか、実際に計算してみましょう。

為替レートは2012年3月末の82.19円/ドルから、2013年3月末には94.05円/ドルとなり、約14%の円安となっています。ただしこれは期末どうしを比較したものなので、利息配当金収入に関しては年間平均をとる必要があります。円安は12月以降に大幅に進んでいるため、年度平均だと5%ぐらいになります。

生命保険協会の統計によると、(1年古いですが)2011年度の外国証券利息配当金は生保43社計で約1.57兆円。これらがすべてヘッジされていないとすると、2011年度から2012年度にかけて平均で5%円安が進んだわけですから、その影響は1.57兆円の5%、約800億円になります。これは43社合計の経常利益(2.58兆円)を約3%押し上げることになります。

これに対して金利低下が利息収入に与える影響は、債券の入れ替えがどの程度起こるかに依存するため簡単には計算できませんが、ざっくり見積もってみましょう。10年国債のみを保有し、残存年数は1年、2年、…、10年が均等にあるものとします。つまり1年間に保有債券の1/10が入れ替わるとします。

10年金利の水準は2012年3月末と2013年3月末を比べるとほぼ半減していますが、これも年平均にならすと25%程度の低下になります。2011年度の公社債利息が約3兆円なので、この1/10が入れ替わり、入れ替わったものの利息が25%減るとすると、影響額は約750億円になります。

つまり、金利低下による国内債券の減収分を、外国証券の円安効果でほぼ補っていることになります。その意味では小さいとはいえない金額ですね。ただし、外国債券のクーポンがまったくヘッジされていないと仮定して、ですが。

なお、株式配当の影響ですが、株価は上がっているものの、増配を打ち出している会社はそう多くはないと思いますので、影響額の試算はパス。

次に第三分野ですが、私は中の人ではないので「次のタマ」がいくらでもあるかどうかは知りませんが、とりあえずは客観的なデータで見てみましょう。全社合計の第三分野の新契約年換算保険料の対前年増減の推移は以下のようになっています。(出典:インシュアランス統計号)

  • 2006年度 ▲15.9%
  • 2007年度 ▲1.2%
  • 2008年度 +5.8%
  • 2009年度 +6.0%
  • 2010年度 +2.2%
  • 2011年度 +2.3%

うーん、鈍化しているようなそうでもないような…?第三分野は給付が多様ですので、業界全体の数値をもって論じるのはうまくいかないのかもしれません。

いかがでしょうか。あまり答えになっていない部分もありますが、ご参考にしていただければ。

2013年5月28日 (火)

生保決算

5月24日、2012年度の主要生保の決算発表がありました。

生命保険協会の協会長を輪番で行なっている日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命が一般に「大手4社」と言われますが、このうち第一生命は上場会社のため、いわゆる「45日ルール」に則って5月15日にすでに決算発表を行なっていますが、それ以外の3社が24日に発表を行いました。その他の多くの生命保険会社も24日に決算発表を行なっています。

報道での扱いを見てみましょう。

円安・株高が、運用収益の改善→逆ざや改善、含み益の増加→財務基盤強化、の両面で好決算につながっていると評されている論調が多いようです。

ただ、逆ざやはインカム収益をベースに計算するので、株に関しては増配しないと逆ざや改善には効きません。ただ、株式投信のような資産だと、株高が投信配当の増加に直結するので、逆ざやの改善に効果があることになります。いっぽう円安は外国債券の配当の増加につながる逆ざや改善には直接貢献するのですが、為替をヘッジしない外国証券を持っていることが前提になります。為替リスクは非常に高いので、ヘッジせずに保有している量がそれほど大きくはないと思うんですけどね。

それにしても産経ニュース、

アフラックは大幅減益が響き、2年ぶりに逆ざやとなった。

というのはあまりにもでしょう。これは一般事業会社で言えば「最終赤字が響き、経常赤字となった」と言っているようなものです。逆だろ。

さて、含み益増加のほうは、金利低下→国内債券の含み益増加、株高→国内株式の含み益増加、円安→外国証券の含み益増加、と、経済環境がすべて含み益の増加につながっています。これを受けて、各社のソルベンシー・マージン比率も上昇しています。

ただしこれはあまり歓迎できる環境ではありません。特に金利低下は将来の逆ざや増加につながるため、基本的に生命保険会社にとっては悪影響となります。ソルベンシー・マージンでは将来の逆ざや増加がほとんど評価の対象とならないため、このあたりは別途エンベディッド・バリューなどを見る必要があるでしょう。

次に保険料収入です。こちらは集計方法にもよりますが、「伸び悩んだ」「減少した」といった論調ですね。

国内生保グループの2012年3月期連結決算は、保険料等収入が銀行窓販の減少などで前の期と比べて3.8%減の19兆7191億円となった
(Bloomberg)

15グループ合計の保険料収入は前の期に比べて1.8%の微増にとどまった
(日本経済新聞)

保険料収入に関して最近顕著な傾向は「銀行窓販の販売量次第」ということです。銀行窓販で販売される保険は、貯蓄性の高い一時払いの保険がほとんどのため、保険料収入に与える影響がとても大きくなっています。しかも銀行は販売力が非常に強い、ときています。したがって、貯蓄性のよい(=利回りの高い)保険が極端に売れすぎてしまうことになります。「利回りが高い」ということは、生命保険会社にとっては「逆ざやになりやすい」ということですから、販売量をうまくコントロールしないと、大きなリスクを抱えることになります。

このため、生命保険会社は、銀行窓販商品が売れ過ぎると利回りを少し落とした商品に改定する、ということを行なっています。2012年度の金利は基本的に低下傾向だったため、利回りを落としてきていた、ということになります。その意味では、保険料収入の伸び悩みは、生命保険会社のリスクコントロールが奏功したとも解釈できます。

なお、保険料収入の動向を少子高齢化と結びつける向きもありますが、これはほとんどこじつけとしか言いようがありません。中長期的な構造変化が単年度決算にそううまく現れるわけがない。

今回の2012年度決算では、2013年4月4日からの日銀の異次元緩和の影響は直接には含まれていないため、現在の金融政策の影響という意味でむしろ注目すべきは、8月15日前後に公表される第一四半期のほうかもしれません。

2011年11月17日 (木)

書評:この1冊ですべてわかる 会計の基本

「1冊で基本がすべてわかる」などと謳っているものは、しばしば初歩しか載っていないものだったり、基礎的なことが無味乾燥に羅列してあったりする。しかしこの本は違うのだ。


まず、初歩だけにとどまっている本ではないことは、目次で一目瞭然。

  • 第1章 会計とは
  • 第2章 財務会計
  • 第3章 連結決算
  • 第4章 税務会計
  • 第5章 内部統制
  • 第6章 IFRS(国際財務報告基準)
  • 第7章 企業価値
  • 第8章 財務分析
  • 第9章 予算管理
  • 第10章 原価計算
  • 第11章 コスト・マネジメント
  • 第12章 組織再編

ふつうは会計の入門書と位置づけられるものに財務会計や管理会計を入れたりはしない。でも、この本はそこまでカバーしている。

そして、これだけの範囲をカバーしつつ「無味乾燥なものにならない」というのは、イメージで捉えやすくしていることが大きい。

同じ著者による会計の初心者向けの本には次のようなものがある。


これらに共通して(当然本書にも)出てくるのが「会計ブロック」という考え方だ。これらの本のどれかを読んでいただくと分かるが、とっかかりの悪かった「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」といった単語が、あたかもテトリスのブロックのようにビジュアルに思い浮かんでくる。

この「会計ブロック」をはじめとして、この著者はとにかく「例え」がうまい。

本書では、内部統制が「うがい」に例えられる。「は?」と思った人は本書を見てみてほしい。そのことで、「単に押すハンコが増えるだけ」というイメージの内部統制が、具体的に捉えられるようになる。

それでいて「基本」であることを外しておらず、各章の最後には、さらに理解を深めるための推薦図書が書かれている。(当初は全部読んでみようと思ったが、合わせると50冊近くになるので私は断念したが。)

あえて難をいえば、IFRSのくだりが資産負債アプローチであるかのような書き方になっているところ(それも説明の簡明さを考えるとやむを得ないかも)と、推薦図書の難易度にバラツキが大きいところか。

しかしとにかく良書である。会計実務を行う者は具体的な会計処理が描かれた詳細な地図が必要だろうが、全体像を知りたい人向けの「会計の世界地図」としてこの本を捉えればいいのではないだろうか。

2011年9月18日 (日)

書評:国際会計基準はどこへ行くのか

おすすめする本ではないが、「反面教師」というのはしばしば勉強になるものだ。

著者の田中教授はIFRS反対・時価会計反対の急先鋒だ。例えば時価会計については次にように批判する。

企業が持っている数百万株、数億株を一度に市場に出してもきのうの時価で全部売れるというのは、素人の無双にすぎない。しかも、日本の企業はほとんどが3月末決算である。日本の会計基準は、3月末にほとんどの企業が保有する株式が市場に一斉に出ても、時価で売れることを前提にして設定されているのである。それだけ現実離れした基準であるかが分かろう。

明らかに「時価を付す=時価で全部売ると仮定」というのが前提になっているが、時価というのはそういう考え方なのだろうか。

私の考えは、「(売るかどうかは別にして)仮に価格をつけた場合、多くの人が同意するであろう価格」が時価(IFRSでいう公正価値)なのだろうと思う。

例えば、トヨタ自動車の株を持っているとする。何の情報もなしにその株に値段をつけようと思ってもなかなか決まらないだろうが、「最近、実際に取引された値段」というのが分かっていれば、その値段を「持っているトヨタ株の価格」にするのは多くの人が同意するのではないだろうか。(非上場の株式などの場合はその価格に疑義がある場合も考えられるが、それは取引の透明性や流動性の問題であって、取引されている価格を付すこと自体とは別の問題である。)

田中教授はさらに、「そもそも含み益経営は悪いのか」というところに踏み込む。

多くの家庭には、非常時に備えた米、水、乾電池、薬、ロウソクくらいはある。農業国の民は「アリ」なので、必ず「食糧倉庫」を持っている。わが国では、江戸時代の諸藩や商家も、余裕うが出たら非常時の備えとして「蔵」にしまい込んできた。子どもでさえ「貯金箱」を持っている。これが「含み」である。「蔵の中身」をどう使うか、「含み」をどう使うかは、藩主や経営者の判断である。

時価会計は、こうした「蔵の中身」や「貯金箱」を勝手に使えないように空にしてしまおう、というのである。丸裸にされた会社の損益計算書には、現実にはその価格で売れもしない有価証券を「売れたことにして計算した利益」がたっぷり入っている。逆にバランス・シートには「売りたくても売れなかった有価証券」が「売れなかった時価」で計上されている。今度は「含み損」状態である。この財務諸表を信用して投資しようものなら、ばば抜きゲームのジョーカーをつかまされかねない。

私は、含み益を持つことは、むしろ経営者としての美徳ではないかと思う。「蔵」も「含み益」も「内部留保」も空っぽの会社にはとても安心して投資などできないし、非常時に備えた米や水、ロウソクもない家には住みたくもない。

…含み「益」だったらいいけど、含み「損」だったらどうするのだろう? 蔵であれば、開けてみたら中身が空っぽ、つまりせいぜいゼロだが、含みはゼロどころかマイナスもありうるのだ。

このほかにも「IFRSはアングロサクソンによる会計支配」とか「ギャンブラーの会計」みたいなことが載っていてとても面白い。目次を見ると「「物づくり」に適した基準を-IFRSを超えて」なんて書いてあるし。そんなことを言われてしまうと金融や保険は立場がないですね。

この本は2010年の出版だが、田中教授は2003年にも「時価会計不況」という本を出しており、時価会計に関する主張は(7年も間が空いているのに)ほぼ変わっていない。


どちらの本でも(「時価会計不況」のほうが新書だけに易しく書いている感はある)、著者の意見に対して自分ならどのように答えるか、と考えながら読むと勉強になるのではないだろうか。

さて、明日、図書館に返しに行こう。

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