Kindle

2011年12月23日 (金)

自炊業者提訴

有名作家が自炊代行業者を提訴したというのがニュースになっている。

東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図

プレスリリース:書籍スキャン事業者への提訴のご報告 (PDF)

この件に関してはいろいろと意見が出ている。ネットでは(私の見る限り)今回の提訴が電子書籍の進展に逆行するものだとして、批判的な意見が多いように見受けられる。

しかしどうも、提訴された内容と議論されている内容にずれが感じられる。
最初は報道のされ方のせいかと思ったが、原告が(知ってか知らずか)そのように議論を方向づけているようだ。

訴状を見ているわけではないので正確なところは分からないが、提訴された内容について次のように書かれている(太字は引用者)。

スキャン代行業者に対して著作権者がとうとうアクションを起こした――浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏 の7名を原告とし、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が12月20日に東京地方裁判所に提起され た。

訴状で被告となっているのは、「スキャンボックス」を提供する愛宕と、「スキャン×BANK」 を提供するスキャン×BANKの2社。全事業の差し止め請求ではなく、あくまで訴状にある原告作品群に対する複製行為の差し止め請求となる損害賠償の請求は行われていないが、訴訟費用は被告の負担とする旨が訴状に記されている(訴訟物の価額が1120万円となっていることを付け加えておく)。

 「対象となる作品は訴状にリストされたもので、すべてではないが、気持ちとしては作家についての全作品という認識」(同事案の弁護団の一人、久保利英明氏)

つまり、

  • 原告の作品のうち訴状にリストされたものについて、
  • 自炊代行業としての複製を行わないように

訴訟が提起されている、と考えられる。

差し止め請求は自炊代行業についてのものであって、自炊を行うことそれ自体については今回の提訴の対象とはなっていない。

が、原告たる作家は、提訴後の記者会見で、提訴された内容にとどまらないコメントをいろいろと出している。いくつか拾ってみた。

大沢在昌氏「電子書籍については、作家ごとに考えが違う。ここにいる作家の中にも電子書籍化を許諾していない方もいらっしゃる。私の著作は一部電子書籍化されているが、片っ端から電子書籍化していいと考えているのではなく、デバイスの普及や利益の問題などを考えて取り組む必要がある。作家が電子版を許可されない一番大きな憂慮はやはり海賊版の問題。正直言って、紙の出版社はいままで電子書籍事業に乗り気ではなかった。本というのは紙でできているから本なのだという考えから電子書籍に抵抗を持つ方は出版社の中にも作家にもいる。しかし一方で、電子書籍の利便性や市場が広がっていく中で、出版社や作家がそれと無関係でいれるのかといえばそうではないだろう。それに対して積極的に関係して利益を追求していくことを考えていく必要はある。電子書籍事業が業界全体にとってプラスに働くために絶対に海賊版の普及を食い止めなければならない。その最も大きなきっかけとなりかねないのがスキャン事業であり、だからこそ重要だと考えている」(eBook User

大沢氏が問題視しているのは違法コピーあるいは海賊版であることが分かる。自炊代行業者が、裁断後の本の処分やスキャンデータの消去を適切に行わなければ、自炊代行業者を通じて違法コピーが流出するといった事態は考えられるだろう。

東野圭吾氏「売ってないから盗むのか! こんな言い分は通らない。私は電子書籍が普及しても、こうした違法スキャン業者はなくならないと個人的に思っている」(eBook User

自炊代行=違法スキャン=違法コピー、というのは、ちょっと短絡的に過ぎるように思う。売っていないからスキャンしているのだが、それを「盗む」と言われてはなあ、という感じである。

弘兼憲史氏「利便性を優先すると制作側にダメージがあることを知ってほしい」(EXドロイド

言葉が省略されすぎていて真意がよく分からないが、まあ海賊版懸念ということで大沢氏と同じ主張か。

浅田次郎氏「裁断された本は正視に堪えない。業者が増え、今提訴しなければならないと思った」(YOMIURI ONLINE

この浅田氏のコメントは、明らかに自分で自炊(馬から落馬みたいな言い方だが)している者も敵視している。提起している訴訟の内容を理解していないのではないか。

結局、最後の浅田氏のコメントを除いて、スキャンデータの拡散による違法コピーあるいは海賊版を懸念しているらしい。しかしそれは自炊「代行業者」に限らず、自炊をしている個人でも可能だ。

冒頭にリンクを示したプレスリリースの末尾にはこうある。

本訴を通じて、あるべき電子書籍の流通とルールの姿について、議論と理解が進むことを願っています。

議論が進んだらどうなるか。

もともと電子書籍やスキャンデータ(もっと広くクラウドデータと言ってもいい)の複製権の問題は現行の著作権法の解釈でどうにかなる話ではなく、その意味では立法に委ねざるをえない話である。

まったくの素人意見だが、おそらくこの訴訟自体は原告勝訴となるだろう。こわいのは、その原告の真意が上記のとおり自炊「代行」に限らないこと、そして立法する者の中心たる政権与党が、ヘンなところで機を見るに敏な人々だということだ。

どうなることやら。

2011年2月11日 (金)

自炊Tips

早いものでKindle DXを買って半年近くになる。自炊した本も100冊以上になったので、だいぶ自分なりのやり方ができてきたし、ここにまとめておく。

スキャナーは富士通のScanSnap S1500、裁断機はプラスの断裁機PK-513L。どちらも自炊の定番といっていいだろう。

ただ、最近は書籍の裁断サービスも増えてきたので、裁断機は不要かもしれない。私のは少し刃こぼれしているらしく、切断面に1~2本のスジが入ってしまう。

スキャン時の設定は、基本的に読み取りモードを「白黒」にしている。本の中身にグレーの図表などが使われていたら、「グレー」でもう一度スキャンする。さらに表紙は「カラー」でスキャンして、後でPDF結合する。

つまり、

  • 表紙カラー、本文白黒
  • 表紙カラー、本文グレー(グレーのページがある場合)

の2種類のPDFを作ることになる。

Scansnap1

KindleでグレースケールのPDFを読むと、私には文字が薄くて非常に読みづらい。そこでKindle用に白黒のものを作る。

一方で、グレースケールのものを白黒PDFにすると、グレーの部分が非常に汚く見える(白黒コピーを想像してもらうとイメージできるだろう)ので、ディスプレイなどで見るときのためにグレーでスキャンしたものを別途作ることにした。いずれにせよ、ScanSnapのカラーモードを「自動」にすると、ページによって白黒・グレーが替わって読みづらくなるので、個人的にはおすすめしない。

さて、PDFができたらページ番号を調整する。あらかじめScansnapの「読み取りモードオプション」の中の「白紙ページを自動的に削除します」のチェックをオフにしておくと、ページ番号の調整が楽になる。

細かい調整をしだすとキリがないが、こんな雑な調整でもおおむね不満なく読めている。もっとも、この調整はもっぱら書籍用であって、マンガのような画像情報の場合には話が違ってくるかもしれない。

2010年9月 5日 (日)

Kindleで何ができるか

Kindle 3が発売された。Kindle 3はこれまで対応していなかった日本語に対応したと言われており、しかも安くなった(なんとその上、円高になっている)ので、今回購入した人も多いようだ。また、まだiPadとどちらを買えばいいか迷っている人もいるだろう。

そこで、Kindleでは何ができるか、何ができないかをまとめてみる。前回のエントリも参照していただきたい。

まずは不満から。

  • 日本語の本がほとんど買えない。
    Kindle 3が日本語対応したというのは、「日本語が表示されるようになった」という程度のことだと考えてほしい。現時点で、日本の出版社で電子書籍に対応しているところはほとんどない。ただし、Kindle Storeにはわずかながら日本語の書籍がある。
  • ウェブサイトが見られない。
    Kindleにはブラウザが入っている。が、ブラウザを使うには、メニューの"Experimental"というところからアクセスすることになる。つまりまだ実験的な機能にすぎないのだ。表示は遅いし、そもそも白黒である。到底ブラウザとしてまっとうに使えるレベルではない、というのが私の感想である。
  • 検索がたいへん。
    私の持っているのはKindle DXなのでKindle 3はちょっと違うかもしれないのだが、Kindleのキーボードは小さくて打ちにくい。しかも数字を入力するのがSymキーを押しながら入力する形なので、「○ページにジャンプ」といったことも非常にやりにくい。

さて、ではKindleはどう使えばいいだろうか。「持ち運びしやすく、読みやすいPDFビューワー」というのが私の今のところの答えである。純粋に本を読むためのものとして考えるなら、Kindleに使われているEインクはとても優秀な技術だと思う。それに、前回のエントリでも書いたとおり、軽い。雑誌程度の重さ、と表現するのが適当だろうか。

スキャンした本を読むなら、Kindleはとてもいい。スキャンしたPDFの微調整ができるChainLPというソフトもあるそうだ。Kindle DXだと新書や文庫をスキャンしたときには字がかなり拡大されるので、揺れる電車の中でもかなり読みやすくなるということに気づいた。

最近、青空キンドルというのを発見した。青空文庫のテキストをPDFに変換するもので、ちゃんと縦書きになっている。ブックマークレットを使えば、青空文庫の読みたい文書のページを開いてポチっと押せば一丁上がりだ。

ということで、やはりおすすめできるのは「自炊したPDFがたくさんある人」ということになるだろうか。iPadかKindleか、という点に関して、レビュー記事の中には「読書好きならKindle、雑誌やガジェット好きならiPad」と書いているものもあるが、たぶんそれは違う。「読書しかするつもりがなければKindle、それ以外はiPad」というのが私の理解だ。とにかく、安いiPadのつもりでKindleを買うと絶対に失敗することだけは間違いない。

補足:Kindle DXを買ってからしばらくしてレザーカバーを買ったのだが、これは失敗だった。重くなりすぎる。普通のKindleなら本体がもっと小さくて軽いのでカバーをつけても大丈夫かもしれないが、Kindle DXではおすすめできない。ということで、目下の私の悩みは「いかに傷をつけることなくKindle DXを持ち歩くか」である。

2010年8月16日 (月)

Kindle買ってみた

2ヶ月ほど前にスキャナと断裁機を買って、本を裁断してスキャナでパソコンに取り込み、PDF化することを始めた。いわゆる「自炊」というやつだ。

PDF化すると、今度はそれを持ち歩けるようにしたくなる。電子書籍を読むための主な選択肢はiPadかKindleということになるのだろうが、私はKindle(正確にはその大型版であるKindle DX)を買ってみた。

Kindleは日本語に対応していない。そもそもKindleを買おうとするとamazon.co.jpからamazon.comに飛ばされてしまうし、amazon.co.jpにはKindle Storeがない。つまり日本語の書籍は買えない。

ただ私の目的は自炊したPDFを読むことなので、そのようなことははっきり言って検討すべきことではなかった。さらに言えば、今のKindleはフォント埋め込みがなされていれば日本語のPDFが読める。つまり、「画像になったPDF」か「Webで手に入るPDF」ぐらいしか使わない前提なので、日本語の電子書籍が買えないとか読めないとかは問題ではなかったのだ。

さて、そのKindle DXについて、今まで使ってみたところの感想。

  • 本体は軽い。iPadはWi-Fi+3Gモデルだと730グラムあるが、Kindle DXは18.9オンス(536グラム)だ。ただそれでも電車の中で立ったまま片手で持ち続けるのは少々疲れる。
  • バッテリーの保ちは非常によい。ワイヤレス接続をオフにした状態だと公称2-3週間とされている。実際に試してはいないが、2-3日程度では全然バッテリーは減らない。
    画面は見やすいが、ときに字が薄くて読みにくいことがある。これはどちらかというとスキャンの質によっているところが大きいと思われ、特にカラーが混じった書籍の場合は全体的に(普通の黒い字も含めて)字が薄くなる傾向があるようだ。
  • ページ送りは、正直言って「もっさり」しており、パラパラとページをめくる感覚はまったくない。ページ送りキーを押すと画面の白黒が一瞬反転し、次のページが現れる。時間にすると1秒に満たないのだろうが、ページをめくるたびにどうにも「間」を感じる。
  • iPadと同じく、画面を横に倒すと表示内容が横向きになる。ただ、横になったことを感知してからの反応は、iPadと比べるとやや鈍い。
  • PDFを横向きの画面で見るのが難しい。A4の文書を縦に見ているときには、サイズ変更のメニューを呼びだすと「画面の大きさに合わせる」「150%」「200%」「300%」「実際の大きさ」という選択肢が出てくる。ところが画面を横にすると「画面のに合わせる」「150%」「200%」「300%」「実際の大きさ」というメニューになってしまう。「画面の大きさに合わせる」というメニューがないのだ。この結果、A4横の資料を横画面で読もうとしても、1ページが1画面に収まりきらない状態になってしまう。
  • 画面下部にあるキーボードは、キーが小さい上に固く、非常に使いにくい。QWERTY配列になってはいるものの、タッチタイピングは不可能だ。ただ、そもそも使用頻度が少ないので、このこと自体にあまり不満は感じない。

何やら書き始めると不満ばかりのようだが、実は言うほど不満に思っているわけではない。Kindleは「読む」ことに特化した製品であり、「読む」ということに関して最も重要な「軽い」「見やすい」という点に関してはおおむね不満はないからだ。試験的機能としてウェブブラウザやMP3プレーヤーが付いてはいるものの、白黒である上に日本語が見えないとあっては、ウェブブラウザなんて使う気にもならない。このような、ある意味「本に集中させる」機能は、易きに流れやすい私の性格にとっては非常に重要なのだ。

いま私がKindleに取り込んでいるのは、自炊した本(アクチュアリー会の会報別冊や定期刊行物が多い)と、ウェブで拾った資料などが主だ。当初は仕事で使いそうな資料をドカドカ入れておけば分厚いファイルをめくらずに済むようになるかと思ったが、セキュリティ上の問題があるのと、上で述べたようにページ送りが「もっさり」していることから、例えば打ち合わせなどの際にすばやく資料をめくって探すというのには向かないことが分かった。いちおう保険会社のアニュアルレポートなども取り込んではいるが、あまり使う場面はなさそうに思える。

いずれにせよ、まだいろいろと試行錯誤しているところなので、後日またエントリを上げてみたい。

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